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TS.シスターは彼なのか?  作者: コーヒー微糖派
1節目:新たな生
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1-6.手繰りし糸、ここに健在

「な、何を訳の分からないこと――うおぉ!?」


 管轄の繰糸(アドミニストリング)は『細くも強靭な糸』だ。そいつを多数繰り出せば、悪漢10人程度の身を縛ることなど造作もない。

 操作する左手を振り払うように動かせば、縛られた連中はあっさりと吹き飛んでしまう。虫を払うが如く簡単な話だ。


「ど、どうなってんだ……!? あのシスターにこんな力が……!」

「何をされたのかも分からねえ……!? あれだけ大勢を振り回せるパワーだって……!?」

「か、構わねえ! 全力でやっちまえ! 頭目に無様な姿を見せる前に!」


 初手で力の差を見せつけたつもりなのだが、ボークヘッド一派はなおも襲う姿勢を崩さない。

 俺を見て『貧弱な女にこんなことできるはずがない』って気持ちが先行しているのだろう。まあ、何も知らなければそう思いたくもなるか。

 だが、管轄の繰糸(アドミニストリング)は糸を放つ錬術具(アーツファクト)だ。ただ力任せに振るうだけで終わらない。

 俺を力点として、支点を作って作用点へ。今この周囲には『糸によるテコの原理』が作り出されている。

 無駄に大きい力など必要ない。学術を紐解き理解すれば、後は組み合わせて利用するのみ。


 ――つまり、女の体でも扱うこと自体に問題はない。知識がそのまま力となる。


「おい、小娘。離れてろ。あっちにいる魔女のもとなら安全だ」

「こ、小娘とか離れてろって……貧弱シスターのくせに――」

「おとなしく言うことを聞け。野郎どもの慰み者なんて嫌だろ? ほれ」

「えっ!? ちょっ!? うわわっ!?」


 後は軽く指先で管轄の繰糸(アドミニストリング)を操れば、パワーがなくても問題はない。加減すれば、狙われていた少女の避難も速やかだ。

 とりあえず、外野で眺めているウィネのところで問題あるまい。目配せすれば理解したように反応してくれる。


「……一応、今はアタシも下手に動けないからね。こういう荒事はアンタでないとできないさ」

「そうやって理解してくれんならそれでいい。俺も肩慣らしぐれえにはなる」

「ハァ、分かった。お願いするよ……リース・ホーリーアロー」


 ただ、どこか注意するような声掛けまで添えられてしまった。確かに心がノアとはいえ、体はリースだからな。

 ギャング連中もいきり立って目が血走っているが、欲情したように興奮する輩もいる。趣味はそれぞれとはいえ、下品なことこの上ない。


 ――あまり見世物をするのも嫌だな。糸の感触から程度は推し測れるし、さっさと勝負に出るか。


「お、俺、結構あのシスターさんが気になってたんだよな! この際だから手籠めにしてやるぜぇぇえ!!」

「ズルいぞ!? 俺の方が先だぁぁあ!!」

「モテねえ野郎どもの捌け口なんざ御免被るぜ。マジにモテてえなら、内面磨いて出直して来やがれぇえ!!」



 ブオンッ!!



「うおっ!? ま、また体が勝手に!?」

「ゲフッ!? ちょっ! ぶつかんなって!?」


 まずは最初に出て来た興奮連中に管轄の繰糸(アドミニストリング)を繋ぎ、再度見えない糸で不自由な空の旅。数を揃えた程度の輩など、俺の前では意味を成さない。

 身の自由を失いながら、互いの体で男同士の強烈ハグ。こいつらに女の体は贅沢過ぎる。

 次々に仕掛けてこようとも、左手だけでいなして躱す。誰一人として俺のもとへは辿り着けない。


「クッソ!? 訳の分からんシスターが!? だったら、こいつを使って――ああっ!?」

「おいおい、物騒なモン持ってんな。最近のギャングは銃まで持ってんのか? こんなところだけパワーアップしてんじゃねえよ。ほれ、没収」

「ひいぃ!? は、速い!?」


 一部予想外に銃を持つ者もいた。とはいえ、引き金を引く前に潰せば問題ない。

 こういう時はこっちから近づけばいい。空いていた右手からも糸を放ち、銃を持った相手に俺の方が引き寄ればいい。

 相手からしてみればさながら瞬間移動。地面を滑るように突っ込んで、持っている銃を奪えばいい。


「一応撃てる形ではあるみてえだが、あんまいい銃とはいえねえな。……どうだい? まだやるってんなら構わねえぜ? 銃はもうこっちの手だがよ?」

「ど、どうなってんだよ……!? 本当に……!?」

「お、俺達はボークヘッド一派だぞ……!?こんなシスター相手にこうも簡単に……!?」


 左手の管轄の繰糸(アドミニストリング)で拘束を続けたまま、右手で奪った銃を構えればゲームセットと言ったところか。他の武器も手放して戦意を喪失させていく。

 これでまだ殺意を緩めないようなら、流石に殺してしまっていたかもな。昔も暗殺者を返り討ちにしたこととかあったし。


 にしても、中々壮観な光景じゃないか。力にものを言わせて馬鹿やってる連中が、たった一人の技量に押し負けてるなんてよ。

 暴力に任せる連中は、より上の暴力を見せつければ黙る。俺が築きたいのはその先を行く未来。

 時に荒く、時に聡く。放たれし糸を手繰るような道筋。その一歩を踏みしめる実感とも言うべきか。


 ――つくづく実感できる。死んだはずのノア・ブレイルタクトはここに在ると。




「おいおい、何やってンだお前ら? 揃いも揃って、こんな低級連中を前に固まってンか? オレ様に恥かかせるつもりか?」

「ッ!? と、頭目……!?」




 ついつい俺が俺であることに酔いしれていると、管轄の繰糸(アドミニストリング)で固まったギャング連中に緊張が走る。

 俺に拘束されたことに対してではない。その姿を『見られたくない相手に見られてしまった』からか。

 こちらとしても都合がいい。どうせならばこんな不埒な連中、今この場でまとめて潰しておきたい。


 ――トップもまとめて全員だ。




「あぁ? こいつって確か、いつも突っかかってくるシスターじゃンか?」

「タ、タラント・ボークヘッド様……!?」

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