1-5.時が経ち、混迷が蘇って
「よりもよって、こんなタイミングで……!? こっちもこっちで大変だってのに……!?」
「ボークヘッド一派……だって?」
やたらと厳つい衣装を身に纏い、乱暴に周囲へ声を荒げる集団――ボークヘッド一派。ご丁寧に自己紹介まで備えてくれる。
残されたわずかな領民もその姿と声で委縮してしまい、隣にいるウィネもわずかに後ずさりしている。
「……成程。所謂『ギャング』の連中か。俺がいた頃に片っ端から潰したはずなんだがな」
「アンタがいなくなったことで、縛ってた鎖が解かれたってところかね。こういう御上の手が届かない地には、ああいう輩がのさばり始めちゃってんだよ。ボークヘッド一派なんて、この辺を勝手に縄張り扱いさ」
「人様がいなくなったのをいいことに、勝手な真似をしやがって……!」
ギャングなんて久々に見る。俺が死んでた2年間を省いても久々だ。
思い返せば、昔のブレイルタクト領はギャングが幅を利かせていて、治安の『チ』の字さえなかったな。群れて好き放題に暴れるせいで、領地としての評判なんてあったものじゃない。
だからこそ、俺も領主補佐として率先して動いた。
警察組織を強固に再編し、一般市民の安全を第一とするように法も改正。戦力が足りなかった初期などは、俺自身も前線に出て成敗していたもんだ。
おかげで次々にギャング組織は解体。無論、再発防止のために溢れた連中には就職先も用意してやった。
商工街こそがその台頭でもあったし、連中も苦労はしつつもおとなしく生活できるようにはなっていた。なのに、またこうして荒事を起こしてるってことか。
――本当に俺のやったことが全部無駄にされて腹が立つ。
「お? こっちの嬢ちゃん、可愛くねえか?」
「や、やめてほしいし! アーシ、あんたらみたいなのに関わりたくないし!」
「そう固いこと言うなっての。俺らはボークヘッド一派だぜ? ……逆らったらどうなるか分かんだろ? おぉう?」
こちらには目もくれず、集団が標的に狙ったのは近くにいた黒髪の女の子だ。まだ学生の年代に見えるのに、いい大人が本当に節操のない。
まさに俺がいた頃からは想像もできない光景である。ただ、もっと予想外だったのは周囲の反応か。
「セレンちゃん、おとなしくしてればいいのに……」
「気の強さが仇となったか……」
「我々ではどうしようも……」
わずかに見える領民にも、ボークエッド一派の狼藉は見えてはいる。だが、すぐさま目を逸らして見ぬフリだ。
生気のない表情のまま、腕を引かれる少女のことなど他人事。俺が知る領民はこんなに白状ではなかったはずだ。
警察なんてものもここにはいない。このままだと、あの黒髪少女はギャングになされるがままだろう。
「……おい、カスギャングども、その子から手を放せ。嫌がってんのが見えねえのか?」
「えっ!? ちょっ!? ノ、ノア――じゃなくて、リース!?」
もう我慢できない。俺はこの光景を前にして黙ってられるような男じゃない。
後ろからするウィネの声にも振り向かず、ボークヘッド一派にズケズケと突っ込んでいく。
見た目が女だろうと関係ない。心は男だ。
「あぁん? 誰かと思えば、こんなところにわざわざ居座ってる陰気シスターさんだったか? てめえはお呼びじゃねえんだよ」
「そうか? 俺はこのシスターさん、結構タイプなんだが? ミステリアスで魅力的だし、顔立ちもそこそこ美人だろ?」
「今日はやけに目が釣り上がってんな? 美人が台無しってより、妙にそそるものがあるな……!」
向こうも俺に気付いて振り返れば、まさしくもっての言いたい放題。一部は下卑た表情すら浮かべてくる。
正直、俺もこのリースってシスターについてはタイプじゃない。もう少し豊満な女の方がタイプだ。好みについては分かり合えない。
まあ、好み以前に分かり合える相手でもないか。向こうも挑発は交えつつ、剣に棍棒といった武器を手に取って威嚇してくる。
「そんな物騒なモンを振り回すんじゃねえよ。だからモテねえんだよ。女の相手をする時は、まず悪意がねえことをアピールして――」
「さっきからやかましいぞ!? この陰気シスターがぁ!」
「な、なんだか、いつもと雰囲気が違うな?」
「違っていようが、所詮は雑魚に過ぎねえだろ! だったら、てめえに俺らの相手をしてもらおうかぁあ!!」
ちょいとした恋愛レクチャーを加えても、聞く耳持たずで武器を振りかぶってくる。まあ、俺もぶっちゃけ挑発のつもりで口にはした。
周りの人間が誰も相手をしないのならば、俺が相手をするしかないだろう。襲われる女を見捨てていては、ノア・ブレイルタクトの名に傷がつく。
向こうからこっちを襲ってくれるなら好都合だ。すでに修道服の袖口に隠した武器も準備はできている。
――ピンッ!
「んぐっ!? な、なんだ!?」
「か、体が……急に動かなく……!?」
俺が左手を軽くかざせば、襲い来る暴漢ギャングどもの動きも止まる。ウィネにやった時と同じ要領だ。
こいつらは俺を『リース・ホーリーアローという陰気なシスター』だと思ったらしいが今は違う。この管轄の繰糸は俺だから扱える。
――それ即ち、ここにいるのが『ギャングも潰せるノア・ブレイルタクト』ということだ。
「テメェらみてえのなんざ、左手一本でも止めるに困らねえ。……ちょいと昔みてえにやらせてもらおうか」