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TS.シスターは彼なのか?  作者: コーヒー微糖派
1節目:新たな生
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1-3.転生し、知人に尋ね

「そこにあるこじんまりとした家屋さ。あんま人も寄り付かない場所でね」

「そいつはかえって好都合だ。俺も下手に気を遣いたくねえからな」

「まったく……家の主に家の道を教えるなんて、普通だったらありえない経験さね」


 ウィネに案内され、俺はそれほど離れていない場所にあるチンケな家屋へと向かう。そここそ、この体の主だったリース・ホーリーアローの居宅だ。

 どこか幸の薄そうな容姿にお似合いと言うべきか。住んでる場所からして辛気臭い。

 周辺に人の気配もなく、嫌に寂れた空気が孤独感を煽ってくる。シスターとかの聖職者への手当ては俺も作っていたはずなんだがな。


「まあ、ウィネも少し上がっていけよ。聞きてえことだってあるんだしよ」

「だったら、先にこの管轄の繰糸(アドミニストリング)を解除してくんない? 別に逃げたりはしないからさ。……アンタが本当にノア・ブレイルタクトだってんなら、逃げようとするだけ無駄な話だし」


 ともあれ、そういった事情は今の俺よりウィネに聞いた方が早い。幸い、疑いながらも話自体は聞き入れてくれた。

 こいつは錬工師(エンジニア)という資格を持っている。錬術具(アーツファクト)の整備を主とした資格であり、よっぽど知識に長けていないと持つことは叶わない。

 だからこそ、俺が管轄の繰糸(アドミニストリング)を発動させたことが何よりもの証明になった。この心がリース・ホーリーアローのままならば、管轄の繰糸(アドミニストリング)で拘束するような真似はできない。

 管轄の繰糸(アドミニストリング)が扱えるならば、中身については間違いなくノア・ブレイルタクトということだ。


「なんだ、この家? マジで何にも置いてねえな? 生活性に乏しいし――おっ? タバコが置いてんじゃねえか。しかもカメルって、俺も愛飲してたフレーバーだな。このリースって女、パッとしねえ見た目のわりにこんな嗜好品があったんだな」

「……そうやって自宅のはずなのに物色する姿を見てると、尚更嫌でも理解できちゃうもんさね。アンタ、本当にリース・ホーリーアローじゃないんだね? ノア・ブレイルタクトなんだね?」

管轄の繰糸(アドミニストリング)を使ったことが何よりもの証明だろ。名高い錬工師(エンジニア)のウィネ・アークロッド様でも、こういった事象は初めてで信じたくねえってことか? ……フー。タバコが美味え」

「……ハァ、本当にこんなことになっちゃうなんて……。流石のアタシも、理屈並べたって理解が追い付かないさね……」


 数少ない生活用品を漁り、棚に置いてあったタバコに火を点けてふかしてみる。懐かしい味わいが全身を巡り、ここに至るまでの混乱も落ち着いていく。

 対するウィネも落ち着いてこそいるが、どちらかと言えば諦めの感情にも近い。度重なるショックのせいで頭を抱えるばかりだ。


「さっきも少し話したが、このリース・ホーリーアローって女はあそこの溜池で溺れ死んでたんだよ。おそらくは自殺だ。遺書も見つかってる」

「それもそれでショックなんだよね……。アタシも嫌な予感はしてたけど、まさか本当に身投げするなんて……」

「お悔やみ申し上げる――と、俺が言っていいのかは分からねえがな。そういや、オメェとリースってどういう知り合いなんだ?」

「……同郷の出身ってことで、アタシもチョイチョイ気にかけてた子さ。リースは内向的で、人間関係を広めようともしなかったからね」


 死んだ女の知人に対し、その身を借りて事情を尋ねるというのもおかしな話だ。ただ、ウィネに尋ねていけばある程度の事情も見えてくる。

 そういえば、ウィネは元々姉御肌の気質があったな。マフォン実用化の際には、そこを突いて交渉したんだったか。

 リースについてもかなりの奥手だったようだし、ウィネが面倒を見たくなる気持ちも分かる。とはいえ、そこまで親密だったかと言えばそうでもない。

 あくまで同郷出身の間柄故のお節介と言ったところか。


「リースは……まあ、色々と心に傷を持った子だったもんでね。アタシも何か間違いでも起こるんじゃないかと心配してたんだけど……結果はこれってかい」

「そう卑下すんな。手を伸ばしても助けらんねえことなんざ山ほどある。……にしても、俺はオメェにリースなんて知り合いがいたなんて知らねえぞ? ちょっとぐれえは記憶にあってもよくねえか?」

「え? あっ。……まあ、それも仕方のない話さ。リースがブレイルタクト領に来たのは約2年前――あの事故の後だからね」

「2年前? あの事故? ……どういうことだよ?」


 ウィネとしてはリースを止められなかったことへの後悔もあるらしい。知った間柄となれば、親しくなくとも当然か。

 ただ、話の中で気になって来るものがある。このどこか噛み合わない感覚はどういうことだろうか?


「……成程。今がいつか分かんないって顔だね。だったら教えてあげるよ。……アンタが――ノア・ブレイルタクトが死んだ河川の氾濫から、今で2年経ったってところさね」

「えっ!? に、2年後だってのか!? あれから!? そんなに時間が経ってたのかよ……」

「アンタがいた溜池についても、2年前の氾濫事故の跡地ってことさね。……つまり、あそこがノア・ブレイルタクト終焉の地。管轄の繰糸(アドミニストリング)があったことにも納得できるってこったね」


 ウィネも察したように説明を付け加えてくれれば、この違和感の正体にも納得だ。まさか、俺が死んでから2年の歳月が流れていたとはな。

 死んでいる時は時間の感覚も何もなかった。よく見れば、ウィネの胸も以前より成長しているように見える。

 成程。確かに時が流れている。


「にしても、2年経ってるのか。だったら、俺のことはすでに教科書には載ってるぐれえか? 『ブレイルタクト領のために尽くして死んだ悲劇の次期領主』なんて見出しでよ?」

「……まあ、確かに教科書には載ってるね。教科書には」

「なんだよ? その思わせぶりな態度は?」

「……本当に何も分かってないってこったね」


 ともあれ、2年という時間の流れは大きい。俺もかつてはこのブレイルタクト領の発展に貢献していたわけだし、堤防の決壊から領民を守って死んだとなれば歴史にイロもつくだろう。喜ばしくはねえが。

 だから教科書にだって名が記されているだろうに、耳にしたウィネの反応はこれまでより一段と渋い。

 その理由についても、渋々ながら語ってくれる。




「アンタ……教科書の歴史では『過去最悪の悪童』なんて呼ばれてるよ。『ノア・ブレイルタクトはこの地の歴史を穢した』……なんてね」

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