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TS.シスターは彼なのか?  作者: コーヒー微糖派
5節目:再び堕ちた者達
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5-9.隠したる身に、隠したくない背

「おっ! ユリーさんの飯――じゃなくて、野郎ども! ここの住人の食料も頂戴するッスゥウ!」

「ウッス!」


 ユリーさんによる食事タイムの声掛け。薪割り後のカスター達に振る舞うのも、最早見慣れたルーティーンだ。

 ただ、一応は襲撃という名目は守ったまま。カスター達も口調だけは荒くし、作業を終えて休息へと入る。


 ――その際にしっかり片付けもして。流石に露骨が過ぎると思うが、単純にカスター達が『自然とそうしたい』だけなのだろう。


「シスター・リースもお疲れ様です。カスターさんと何か話されていたようですが?」

「大したことではございません。お気になさらず」

「そうでしたか。シスター・リースがおタバコをお吸いの時は、何かしら気負うものがある時かと思いましたので」

「あ、ああ……これは……失礼しました。少々口寂しかったものでして」

「フフフ。それこそお気になさらずに。健康には気遣ってほしいですが、気苦労の絶えない立場でしょうし」


 カスター達が先に向かった後、ユリーさんが俺へ個人的に声をかけてくれる。ここからはリースに戻る必要があるのだが、手に持っていたタバコのせいで変な勘繰りが入ったか。

 ただ、ユリーさんも深くは言及しない。ウィネのようにグチグチ言うこともない。


 これが親子の立場だったのならまた変わったのだろうが、相手の立場を考えた上での対応術といったところか。だからこその居心地の良さというものはある。

 俺やカスターの同世代では出せない大人の色香も含め、これは確かに手を出しづらい。カスターが『憧れのままにしたい』なんて考える意味も理解できる。


「シスター・リースには感謝しています。あなた様がいてくれたおかげで、かつての商工街と同じような輝きがまた芽生えましたので。セレンのことだけでなく、カスターさん達といった旧自警団の面倒まで見ていただきまして……本当にありがとうございます」

「私がやっていることなど、ただ背中を押しているだけです。ここまで立ち直れたのは、ユリーさんも含めた皆様の尽力あってのことです」

「フフフ。そうですか。ならば、その謙遜も私の内に留めておきましょう」


 どうにも敵わないってのはこういう時のことを言うのだろう。ユリーさんの気遣いは言葉少なでも身に染みる。

 ずっと自分を隠しながらも、自分の持つ手腕を振るう日々。これでも結構溜まっているものはある。

 カスター達には素で話すのも、そんな深層心理の裏付けか。そこへ大人の女性の優しさというのは、男の心に染みてくる。


 ――裏のある俺みたいな人間にはなおさらか。


「……少々、失礼な話をしてもよろしいでしょうか?」

「失礼な? 構いませんが、どういった内容でしょうか?」

「もしや、ボークヘッド一派の件で大事を考えてはいらっしゃりませんか? それこそ、私のような人間には想像できないほど『黒い形』として」

「……先程の話を聞いていらっしゃりましたか?」

「申し訳ございません。詳細は不明ですが、かすかながらに耳に入ってしまいまして。シスター・リースのお顔も曇って見えましたし、良い内容ではないとお見受けします」

「……そうでしたか。ご心配をおかけしました」


 その裏の中には『暗殺の計画』なんてものまで含まれている。未来を掴むためには綺麗事ばかりではいけないとはいえ、この人に勘付かれるのは避けたかった。

 俺はあくまで『領民を支える土台』に過ぎない。(まつりごと)なんて上げられても、実際には下地を築く立場だ。

 だからこそ、土台の上に立つ領民には余計に『綺麗な形』を取り続けてほしい。知ることもなく、気にすることもなく。


「シスター・リース。あなたは少々、一人で気負い過ぎではないでしょうか? ウィネさんにも言われているのでしょう?」

「どれだけ知識を蓄えても、積み重ねた経験の重みには敵いませんか。確かにおっしゃる通りですが、私も好きでやっている面はあります」

「カスターさんとも話した黒い形……につきましても?」

「……そこについては当然避ける形をとるべきと思っております。ですが……必要とあればですね」

「そう……ですか。私のような人間が口出しできる立場でもありませんが、避けていただきたいのは同意でございます」


 これから食事もあるというのに、どうしても暗くなってしまう話題。それでもユリーさんが続けるのは、今の機会に話しておきたいことがあるからこそ。

 この話の先にあるのはユリーさんの願い。そのことが口調からも読み取れる。




「いつの日か皆様が垣根なく過ごせるように――それこそ、かつての商工街が蘇った時、シスター・リースにもお傍にいてほしいと願います。その時はどうか……後ろめたい黒さのない真っ白な形で」

「……そのお言葉、大変痛み入ります」




 まだ短い期間とはいえ、ユリーさんは俺のことを受け入れてくれている。いや、ユリーさんだけじゃないか。

 旧自警団も含めたかつての商工街の面々。こっぱずかしくなるものの、信頼というものが確かにある。

 確かに俺も目的とはしていた。信頼を得ることができなければ、どんな名案であっても元の木阿弥。また同じ状況に逆戻りしたことだろう。

 そうならずに済んでいる現状の実感とでも言うべきか。久々に『やれてる』って感触がしてムズムズする。


 ――いや、細かい考察も似合わないな。でも、これこそが『人と人の在り方』ってもんだろ。


「私もユリーさんの気持ちにはお応えできるよう善処しましょう。セレンさんもいい気はしないでしょうし」

「あの子も最近はシスター・リースのことがお気に入りですからね。もしもあなたが男性であったならば、惚れて交際でもしていたのでしょうか? ……なんてのは、流石に失礼でしたか」

「いえ、構いません。私も彼女のことは人として好ましいですし」


 俺が歩んで築くのは、社会という『人の繋がり』だ。リースとして転生した今でも変わりはしない。

 そんな輪の中に俺も加われるのは、昔と変わった俺にとっても新たな居場所となる。


 ――だから、なおのこと励みになる。この地のためにできることを行おうと。

唐突ではございますが、作者の体調が不安定なので一時休載に入らせていただきます。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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