5-6.築いた道、さらに太く
「さあ、どうぞ。娘と一緒に作らせていただきました。ありあわせの材料ですが、量は用意しましたので」
「ここはシスター・リースに感謝してほしいし。行商人との交渉もしてくれたし」
「お、おおぉ……!? ほ、本当にユリーさんの手料理が……!?」
「俺達、また食べられるのか……!?」
何はともあれ用意された食卓に着けば、ユリーさんとセレンちゃんによるお食事会。俺も事情を組んで予算を配分した甲斐があった。
高価な材料とは言えないが、そこは主婦の知恵でカバーと言ったところ。カスターの部下達も目を輝かせる出来栄えだ。
そんなご馳走を前にして、居ても立っても居られないとはまさにこのこと。すぐさま食器を手に持ち、思うがままにがっついていく。
「う、うめぇ……! 最高だ……! やっぱ、ユリーさんの手料理は……! ううぅ……!」
「な、泣きながら食うんじゃねえよ……! せっかくのご馳走がしょっぱくなる……! ああぁ……!」
「うっ、ううぅ……! ユリーさんにセレンちゃん……本当に……本当にあざッス……!」
涙ぐみながら食べる姿は見ていて品がない。しかし、料理に対する敬意としてはこれ以上ないだろう。
頬張れば口に広がる美味しさは、ギャング生活で荒んだ心にまで浸透。そんな様子が傍から見てるだけでも分かる。
ここまで喜んでもらえるのは、料理した側にとっても本望であろう。ユリーさんはにこやかに微笑み、セレンちゃんも安堵の溜息を漏らしている。
「こ、こんなご馳走をしてもらえるなんて……! 他のみんなには疎まれたままなのに、申し訳ないッス……!」
「カスターさん達には、ボークヘッド一派を内側から制御するという重大な役目もあります。こういった機会でぐらい、心を休ませてください」
「あ、あざッス、シスターさん……! できることならば、他のみんなとも一緒したいんスけどね。流石にそれは高望みッスか……」
難点を挙げるとすれば、カスター達にも背負うものがあり、どうしても後ろめたさが残ること。ここにやって来ていることだって、タラントには『襲撃に行ってる』という体裁で通している。
そっちはそっちで上手く誤魔化せてはいるが、カスター達当人からすれば板挟みとも言える状況。二つの顔を使い分ける必要だってある。
「……でしたら、私の方で少しばかり趣向を凝らしましょう」
「趣向? 今度は何をする気ッスか?」
「大したことではありません。また次の機会からとしましょう。カスターさんも武器である斧を忘れずにお持ちください」
「ま、まあ。表向き脅しに出かけてるんで、斧は持って来るッスが……」
俺も俺で顔を使い分けている身。似た立場の苦労を知るからこそ、できうる限りのサポートはしたい。
カスター達はすでに覚悟を示した立場だ。背中を押すのが俺の役目ってな。
■
「ハッハー! 今日も来てやったッス! 野郎ども! 早速ぶち壊すッスゥウ!!」
「イエッサー!!」
そんなこんなで経つこと数日。カスター達もちょくちょくやって来てくれる。
表向きには襲撃という体裁は相変わらず。威勢よく声を出す姿も慣れてきたようだ。
「あいつら、今日も来たんだ……」
「なんて言うか……放っておいても大丈夫なんだよな?」
「まあ、近づくと危ないのは事実だし……」
住人達も変に慣れて来たのか、カスター達が来ても動揺することはない。連中が奥へ向かっても、咎めることなく見送っている。
一応は『ぶち壊す』なんて言ってるのに、何とも奇妙な光景とも思うだろう。実際、カスター達は『あるもの』を壊すためにやって来てはいる。
「ククク……! 今日はここにあるものをぶち壊すッス。俺の斧が唸るッスゥゥウ!!」
「……ねえ、ノアさん。あれって、何をしてるんだし?」
「おお、セレンちゃん。見りゃ分かるだろ?」
「……分かるからこそ困惑してるんだし」
横でこっそりセレンちゃんが声をかけてくるが、今は黙って見ていてもらうのが一番か。つうか、疑問を述べられるのも今更なぐらいに馴染んでいる。
まあ、それほどまでにカスター達との関与が難しいということでもある。ただ、慣れて来たからこそ冷静に見物もできる。
「カスターさん! ほいっ!」
「ウッス! テイッ!」
カァンッ!
「もういっちょ!」
「ドンと来いッス!」
カァンッ!
部下達と連携し、何度も振るわれるカスターの斧。そのたびに響く音の後には、真っ二つになった木が散らばっている。
アー。コレハ大変ダー。コノ集落ガ破壊サレテルー。……ということにしておこう。もっとも、立案者は俺なのだが。
まあでも、実際カスターのパワーは大したもんだ。おかげでこっちもだいぶ手間が省けた。
――色々と露骨だが、こういう積み重ねも大事だろう。利益とも両立できるし。
「要するに……薪割りしてるし?」
「そっ。薪割り」