5-5.ぎこちなき、新たな来訪
カスター達との交渉も終えて早数日。居住区ではいつも通りの日々が続いている。
ボークヘッド一派の襲撃もない。この点はカスター達が引き続き上手くやってくれているのだろう。
「シスター・リース。何やら先程から外を気にされてますが、何かあるのですか?」
「最近はボークヘッド一派もおとなしいですし、少し休んでいてもよろしいのでは?」
「『今はおとなしい』で警戒を緩めるのも考え物ですが、今回は別件です。……おそらく、もうじき訪れるはずです」
「誰か来るんですかね? こんな場所に?」
そんな俺は相変わらず入口で警備を担っている。人員問題は相変わらずといえ。カスター達の思惑を知ったら気も楽だ。
リースとして振り舞いつつも、待つのはカスター達といった旧自警団の面々。あれから時間も経っているし、そろそろ姿を見せてもいい頃合いか。
「ッ!? シ、シスター・リース!? あいつら……ボークヘッド一派ですよ!?」
「しかも、かつて自警団をやってた連中か!? これまでは全然出てこなかったのに!?」
「……やっぱ、歓迎ムードとはいかないッスね」
そう考えているとやって来る当人達。住人達も知り合いだけあってすぐに見破り、辺りにどよめきが走る。
それはそうだろう。連中も今はギャングでボークヘッド一派の下っ端。恐れられるのは当然だ。
カスター達も理解してやって来たからこそ、苦い顔をしてバツが悪そうにしている。
「ご安心を。皆様はここでお待ちください。……カスター様に皆様方。ようこそお越しくださいました」
「シ、シスターさん……どもッス。今日は穏やかッスね? なんだか、やりにくいッス」
「ああなるのはスイッチが入っている時だけですので。それより、覚悟は決まっておりますか?」
「き、決まってはいるッス。でも、やっぱり身に刺さるものがあるッスね……」
最初については俺も出よう。流石に流れも何もなさすぎる。
カスターとしてはノアとしての側面が色濃く残っているようだが、正体にまでは気付いていない。
気になっているのは対応面の方。こういう男にはリースとしての穏やかさは性に合わないのかもな。
とはいえ、ここは一般住人の集う居住区。『スイッチが入るとああなる』なんて誤魔化しも多用できないとはいえ、それぐらいしか手立てもない。
「なんでまたあいつらがここに……!?」
「まさか、シスター・リースを脅して……!?」
「手出ししたら、ただじゃおかないぞ……!」
住人の反応についてだが、まあ当然と言うべきか。受け入れる様子など微塵もない。
陰で嫌味を言っているものの、これについては咎めるのも無粋。実際、そう思われても仕方ないだけの土壌がある。
カスター達も覚悟をしてやって来たからか、反論もせずに黙ってうつむくのみ。まさに方々敵だらけの四面楚歌か。
「まあ! カスターさんに皆様方! よくぞお越しくださいました! ささっ。こちらへどうぞ」
「アーシも話は聞いてたけど、本当にカスター達が来たし。まあ、お母さんやシスター・リースの言葉なら信じるし。今は立場とかも関係なくどうぞだし」
「あ……あざッス!」
それでも、カスターに味方する人間もゼロではない。この場に招待したユリーさんは笑顔で案内を始める。
娘のセレンちゃんも事情は理解し、母親と一緒になっての行動。ボークヘッド一派とのいざこざについても、今は胸の内に留めてくれるようだ。
「ステルファスト親子がカスター達を案内って……た、確かに昔はよく見た光家だがよ? 大丈夫なのか?」
「もし万が一何かあっても、私の方で対応いたします。ご安心ください」
「シ、シスター・リースが一緒なら大丈夫ですよね……」
「てか、この集落で最強なのがいまだにシスター・リースってのも、どうなんだろうなぁ……?」
住人達が不安そうに見守りつつも、俺というブレーキ役だっている。納得までは行かないが、妥協はしてくれたようだ。
まあ、ユリーさんの人柄もあるからこそ、強い反対も出ないのだろう。
流石は元会長夫人。カスター達のような荒くれも惹きつける母性には感服する。
「な、なんか……ムズムズするって言うんスかね?」
「細かいことを気にしていては始まりません。どうぞこちらへ」
「……シスターさんの態度が一番ムズムズするッス。俺達、あんたに手も足も出なかったんスよね?」
俺も一緒にしばしの休息といこう。カスターから妙な言葉も飛び出すが、無視できるものは無視だ。
まあ、俺もぶっちゃけ素の方が喋りやすいんだがな。内心、カスター達の流儀の方が俺には合ってる。
でも、そう簡単には見せられないんだよな。今日はウィネもいないから、グチグチ言われることもないと言いたいが――
「……ねえ、ノアさん。やっぱり、カスター達とはひと悶着あったし? やっぱり素を見せてたし? ……私としてた話、物の見事に嘘だったし?」
「理解してもらえるんだったら、胸の内にしまっといてくれ。ぶっちゃけ、予想はできてただろ?」
「……ぶっちゃけ。でも、控えた方がいいと思うし」
――横でコソコソとセレンちゃんの忠告が入ってくるんだよな。これが。
言いたいことは分かるんだよ。素になってる時が一番『ノアっぽい』状態だし。