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TS.シスターは彼なのか?  作者: コーヒー微糖派
1節目:新たな生
4/44

1-2.シスターとなりて、もう一度

「ク……クク……ハハハ。マジかよ。こんなことってあるのかよ……!」


 考察時間としては短くて浅いが、そうとしか考えられない。現に俺はこのシスターの体を自在に動かし、この身で感じることができている。

 錬術具(アーツファクト)については俺も方々学んだつもりだったが、こんな事例は初めてだ。まさか、転生さえも実現させてくれるとは。

 座り込んだ状態から立ち上がっても問題はない。今までと違う体という違和感はあるが、それでも実感することができる。


 ――まさに生の実感。あの日濁流の中で死んだはずの俺は、今ここに別人の体へと転生した。


「……って、なんだこのシスター? 靴を履いてねえじゃねえか? 一体どこに脱ぎ捨てて――って、あった。あんなところに置いてやがる」


 喜びに身を震わせもするが、次に気になるのはこの女のことだ。知りたいことは多々あるものの、立ち上がってみれば靴を履いていないことがまず気になる。

 見渡せば少し離れた位置にこの女のものらしきブーツが揃えて置かれていた。とりあえず、あれを履くのが先か。靴下のままでは足元の感触が気持ち悪い。


「ん? 靴の下に手紙か? これまた、誰宛てのもんだ? ……まさか、そういうことか?」


 綺麗に揃えられたブーツを持ち上げてみれば、その下に挟まれていたらしき手紙が一通。この女のことも知りたいし、手掛かりになるかもしれない。

 ただ同時に推察できる可能性。もしかすると、この手紙だけでは大した情報も手に入らない可能性だってある。




『無力な私をお許しください。ここで私の人生に幕を引かせていただきます。リース・ホーリーアロー』


「やっぱ、遺書だったか……」




 予想通りと言うべきか、情報として手に入ったのはこの女の名前とここにいた真相だ。

 名前はリース・ホーリーアロー。見た感じ、俺と同年代かやや年下といったところか。

 そして、この溜池にいた理由は早い話が自殺だ。遺書を残し、溜池に身を投げて溺れ死んだということか。そこを偶然俺が見つけて今に至ると。

 遺書の文面は短く、何があったのかまでは分からない。全く知らなかった人間とはいえ、嫌な儚さを覚えてしまう。


「……だが、俺にとっては好都合じゃねえか? 下手に遠慮する必要もねえし」


 ただ、不謹慎ながらに考えてしまうのは今後について。要するにこの女は『自分自身で生を放棄した』ということだ。

 そういうのは嫌いだが、こっちはまだ生きたかったのに死んでしまった身。どうせだったら、俺のために使わせてもらいたい。


 ――俺がもう一度、かつてのように生きていくために。。


「にしても、荷物も何もねえのかよ。マフォンも持ってねえみてえだし、これじゃどこに住んでるのかも分からねえ。服だってずぶ濡れのままだから、着替えだってしてえってのに――」

「ちょ!? リース!? そんなところで何やってんのさ!? ずぶ濡れだし、まさか池に飛び込んだとかじゃないよね!?」


 まずはこのリースという女の素性を調べたいのだが、自殺を考えていた人間だからか情報も何もない。そうこうしていると、こちらを呼びかける女の声が聞こえてくる。

 どうやら、この女の知り合いらしい。酷く慌てた声を上げ、青髪に魔女装束の女が駆け寄ってくるのが見える。

 これは好都合だ。手元に情報がないならば、知る人間から情報を聞くしかあるまい。

 この冴えないリースとかいう女の知人にしては、どこかメリハリがあって冴えた容姿をしているな。

 あっちの方が胸もあって、断然俺のタイプだが――




「あれ? オメェ……もしかして、ウィネか? ウィネ・アークロッド?」

「……え? へ? そ、そりゃあ、アタシは確かにウィネだけど? え? 何? その今更過ぎる質問?」




 ――俺もこの女を知っている。こいつについてはハッキリと覚えている。

 いきなり全く知らない人間じゃなかったのは本当に幸いだ。こうして転生できたことといい、運は俺に味方してくれているのかもな。


「ウィネ・アークロッド……錬工師(エンジニア)の資格を持つ魔女で、通信具マフォンの発明者。高い実力は持っていたものの、陽の目を浴びれずにいた。マフォンを世間に公表したことで、一躍脚光を浴びることとなる」

「そ、そうだけどさ……なんでそんな昔の話を? リース、どうしちゃったのさ? 変なものでも食べたのかい?」

「……ああ。ククク。ちょいと違うものが体に入り込んだってのは確かかもな……!」

「ッ!? ア、アンタ……本当にリースなのかい!? ちょ、ちょっと怖いんだけど……!?」


 自分自身でも振り返るように口にするのは、眼前にいるウィネ・アークロッドという魔女のプロフィール。マフォンについては俺も関わった案件だけに嫌でも覚えている。

 まさか、こいつがこの女(リース)と知り合いだったとはな。情報を聞き出すにはこれ以上ないほど好都合だ。

 ただ、少し素を見せてしまったのは失態か。ウィネは怯えるように後ずさりを始めてしまう。


 ――そうはいかない。逃げられては困る。何より、俺から逃げることなど叶わない。


「まあ、待ってくれっての。……管轄の繰糸(アドミニストリング)



 ピンッ!



「えっ!? な、何これ!? 急に体が動かなく――って、糸が!? しかもその手首のリングって――」

「『リースには使えない』とでも言いてえのか? まあ、他人じゃ別人の錬術具(アーツファクト)は使えねえよな。……本当に別人だったのならば」

「う……嘘でしょ……!? ま、まさか……アンタは……!?」


 管轄の繰糸(アドミニストリング)で糸を射出すれば、人ひとりを拘束することなどわけはない。これについては以前と同じ感覚で扱うことができている。

 錬術具(アーツファクト)は個人個人で扱えるものも決まっている。魂との繋がりが使える錬術具(アーツファクト)を選定している。

 だからこそ、今こうして管轄の繰糸(アドミニストリング)を扱えたことは、一つの結論にも繋がる。


 ――見た目こそ『リース・ホーリーアローという女』だが、俺の心は完全にここにある。




「会いたかったぜ……ウィネ。俺も色々と聞きてえことが山ほどあるんだ。久々に話をしようじゃねえか? ……このノア・ブレイルタクトとよ?」

「ノア……ブレイルタクト……!? まさか、本当に……!?」

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