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TS.シスターは彼なのか?  作者: コーヒー微糖派
5節目:再び堕ちた者達
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5-2.ボークヘッド一派:カスター・マイルスロウ

「な、何ッスか!? 急に態度が変わったッス!?」

「スイッチ入るとこうなるんだよ、俺は。タラントから聞いてねえのか?」

「そ、そういえば、言ってた気もするッス……。話半分で聞いてたッスけど……」


 リースによる交渉も終わりだ。ノアとしての本性をさらけ出し、カスターへ怒鳴りながらも話を続ける。

 セレンちゃんのように俺の正体を勘繰る真似はしてこない。頭の回転については他のボークヘッド一派と同程度か。

 ただ、ここまでの態度を見ても他と違うことは分かる。もうこのままそこを突き崩そう。


「ヘッ。下っ端ギャングってわりには、親分の言葉も聞けてねえのか。そんなんだから下っ端止まりなんだよ」

「な、何を……!? こっちの気も知らないで、さっきから好き放題に――」

「ああ、知らねえな。ギャングから這い上がったくせに、またギャングやってる畜生の気持ちなんざ。何より『好き放題』ってのはお互い様だろ? この間だって、セレンちゃんがここで乱暴されてたしよ。……知り合いなんだろ?」

「だ、だったら……何だって言うんスか?」

「あの時、テメェらはあの場にいなかった。どうしようもねえ居づらさ――やるせねえ後悔みてえなのが、今も心のどこかにある。違うか?」

「ぐっ……!?」


 タラントの話は軽くでしか聞いていないのに、俺の話には聞き耳を立ててくれる。内容がカスターの過去にも関わるからだろう。

 言葉では否定しても、関心を寄せずにはいられないってところか。絶ち切ったつもりでいても、まだどこかで繋がりたい様子が見て取れる。


 ――ならば、戻ってほしい。かつて俺がした時と同じように。


「すでに一回立ち直ったのに、またギャングに堕ちたからもうチャンスはねえとでも考えてんのか? ……そんなはずがねえ! チャンスが巡って来るならば、何度でも手を伸ばしやがれ!」

「さ……さっきから知った風な口を……! 俺達は……一度は死んだ身も同然ッス。今更やり直しなんて――」

「やり直せるさ。……そもそも、テメェらはまだ死んでねえ! そう考えて逃げてるだけだ! 本当に死んだことなんかねえくせによぉお!!」

「ぐぐぅ……! ほ、本当に何なんスか……あんたは……!?」


 こういうギャング連中には心から熱く訴えるのが俺の流儀だ。シスターの真似事なんてガラじゃない。

 元から不安定に揺らいでいた心にはこっちの方が堪える。ぶっきらぼうに言い返しても、俺には通用しない。


 ――こっちは一度、本当に死んでいる身だ。生きている人間がやり直しを拒絶し、自らを死に体とするのは気分も悪い。


「ここで立ち上がらねえと、いつまでもしがねえギャングのままだ。……こうして俺の話を聞くぐれえに殊勝ならば、そもそもギャングも向いてねえよ」

「ぐ……ぐうぅ……!? な……何も知らないあんたがどこまで偉そうなんスか!? も、もういいッス! おい、俺の斧を頼むッス!」

「カ、カスターさん!? このシスターとやり合う気ですか!?」

「ここまでコケにされたら、流石に力づくで追い返すッス……!」


 俺の言葉が余程突き刺さったのか、カスターも完全に逆上して武器を手に取って来る。得物は普通の両手斧で、錬術具(アーツファクト)ではない。

 やはりと言うか、ここまでは既定路線。曲がりなりにもギャング相手に、いつまでも穏便とはいかない。

 周囲の部下達もおどけながら武器を取るが、カスター含めてタラントほどではない。そのことはすでに俺の手にも『感触として』伝わっている。


 ――『今から戦いが始まる』のではない。『もうすでに戦いは終わっている』のだ。




「覚悟するッス! シスターでも女でも容赦――うぐっ!?」

「ちょっ!? な、なんだこれ!? 体が動かないですよ!? カスターさん!?」

「知るかッス!? 俺も動かないし分からんッス!」




 ノアに口調を切り替えた段階からすでに糸は張り巡らせていた。文字通りにな。

 管轄の繰糸(アドミニストリング)を密かに周囲へ展開。向かって来たタイミングで糸を引けば、理解できないままに拘束されて動けなくなるのみ。

 さながら蜘蛛の巣のような罠。純粋なパワーで劣る管轄の繰糸(アドミニストリング)は、どうやって知恵を巡らせるかが鍵となる。

 逆に成功させてしまえば後はこっちのもの。もうカスター達から手出しはできない。


「どうだ? 手を出そうとしたら、すでに手を打たれていた気分は? ただ暴力を振るうだけなんて、今のオメェらみてえに虚しい結末にしかならねえ。少しは頭も冷えたか?」

「あ、あんたの仕業なんスか……!? まさか、錬術具(アーツファクト)……!?」

「そっちの質問に答える気分じゃねえよ。何より、オメェらには『もう一人話してほしい相手』もいる。ちょっとそのままおとなしくしてろ」

「マ、マフォンなんか取り出して……今度は何するッスか?」


 肉体も含めたあらゆる主導権を握られたと理解すれば、かえって冷静になるものであろう。俺がマフォンをいじり始めてもおとなしく見ていてくれる。

 これから話す相手も相手だし、これぐらい落ち着いてからでないと通話(テル)もできない。多少強引なのは認めるがな。


「ああ、ウィネか。待たせたな。彼女と代わってくれ。……ほらよ。耳に当ててやるから、オメェもしっかり声を聞け」

「ほ、本当に勝手に進めてくれるッス。でも、誰がマフォンの通話(テル)に――」


 それでも、ここの繋がりはどうしても再築したい。その先に俺の求めるものもあると信じている。

 通話(テル)した先はウィネのマフォンであるが、実際に出てくる相手は別。カスターのためにも、わざわざ準備してもらった相手だ。




【えっと……カスターさんですか? 本当に?】

「ッ!? こ、この声……まさか、ユリーの女将(おかみ)さんッスか!?」

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