表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS.シスターは彼なのか?  作者: コーヒー微糖派
4節目:上に立つ下の者
35/44

4-11.人と人、繋ぐ糸

 どこかに警備に使えそうな人員は転がってないかと考え、頭を掻きながら苦悩していた矢先のこと。横にいたセレンちゃんが顎に手を当て、思いついたように口を開いてくれる。

 本当にそんな人員がいるのならば、俺の負担だけでなく今後のためにもなる。少々信じがたいが、セレンちゃんの話ならば聞く価値だってある。


「ほら。アーシって最初の頃『ボークヘッド一派に入りたい』とか言って、ノアさんに助けてもらったことがあるし。覚えてるし?」

「今でも昨日のことのように覚えてるよ。それとどう関係があるんだ?」

「あの時、ボークヘッド一派の中に『昔商工街で警備をしていた人』にも会ったんだし。ノアさんが来る頃にはその場を離れちゃってたけど」

「商工街で警備をしてた……ってのは、もしかして元ギャングだった連中か?」

「……うん。今はまたギャングに出戻りしちゃってるけど」


 あの時のひと悶着は、その後もセレンちゃんに尋ねることはなかったな。当人が反省していたから、余計なぶり返しと思って避けていた。

 だが、これは盲点だったか。話には聞いていたが、ボークヘッド一派には俺が領主補佐時代だった頃の元ギャングも組み込まれていたんだった。

 そいつらがまたギャングになっているのは、ある意味で妥当。生活が苦しくなれば、かつてのような暴力にも走るか。


「アーシも見てた感じ、ボークヘッド一派の中にも派閥があるみたいだし。元々商工街の警備をしてた人達は、アーシが襲われるとすぐどこかに行っちゃったし」

「知り合いの手前、バツが悪かったんだろうな」

「だと思うし。その中でも、カスター・マイルスロウって人がリーダー格みたいだし。ノアさんも覚えてるし?」

「……すまん。微妙なラインだ。当時は元ギャングなんてその他大勢ぐらいの認識だったからな……」

「まあ、確かに数はそこそこいるし」


 あの時に俺との面識はなかったようだが、かすかながらに名前の聞き覚えはある。カスターとかいう奴が旧商工街ギャングのまとめ役ってことか。

 セレンちゃんに対する反応も気になるところ。完全にボークヘッド一派に染まったとも考えにくい。


「カスターも昔は荒くれだったけど、警備の仕事は真面目にやってたし。特にお母さんには頭が上がらないって感じだったし」

「ユリーさんに? ……惚れてたとか?」

「どうなんだろうだし? お母さんよりは全然年下だけど、凄く面倒見てもらってたのは覚えてるし」

「母性には逆らえないってか。……ともあれ、付け入る隙はあるってことか」


 最大の要因となるのはユリーさんの存在か。ボークヘッド一派に身を落としていても、娘のセレンちゃんには手を出せなかったこととも合点がいく。

 それぐらい揺らぐのならば、こちらにも対策の取りようはあるか。こういう時に頭を回すのが俺の仕事だ。


「……よし。これで行くか」

「それって、マフォンだし? 誰かに連絡を取るし?」

「まあな。ちょっとした繋ぎ役になってもらおうと思って」


 思いついた作戦のためにも、まずはマフォンを操作して耳に当てる。相手はウィネ。現状、あいつしかマフォンを持ってる知り合いいがないし。

 ただ、今回は『マフォンを持っている』ということが重要だ。今日はこっちに来る予定はなかったのだが仕方ない。


【ほいほい、ウィネさんだよ~。今は一人?】

「自宅でセレンちゃんと二人だ。言葉に気を払うことはねえぞ」

【それはお気遣いどうも。で? 何か用事さね? わざわざまマフォンで通話(テル)ってくるなんてさ】

「悪いんだが、ちょいとこっちに来てほしいんだ。別に危ねえ話ではねえ。……オメェがマフォンを持ってこっちに待機してくれればいい」

【……その言い方だと、アンタ自身は危ない話を渡ろうとする気満々って感じかね。止めても無駄だろうし、とりあえず言葉には従うよ】

「ああ、助かる。それで着いたら――」


 今からやる内容もちょっと伝えれば、ウィネも快く了承してくれる。こいつが最初に協力してくれて本当に助かった。

 カスター・マイルスロウを始めた旧自警団は現在、ここにいる旧商工街の住人との関係が絶たれた状態。2年の歳月を隔てれば、繋がりが切れるのもあり得る話か。

 だが、今この場達には戦える人間が必要だ。そのためにも、もう一人に一肌脱いでもらおう。


「よし。俺はちょっと出かけてくる。腹パンの痛みも落ち着いてきてるし、無茶しなけりゃ大丈夫だろ」

「止めても無駄ってのはウィネさんと同じ意見だけど、どこに行く気だし?」

「ボークヘッド一派のアジトだ。安心しろ。今回は事を荒立てる気はねえよ」

「ほ、本当だし~……?」


 こちらでの準備はできた。俺も腰を上げ、向かう場所は連中の拠点。

 セレンちゃんには当然のごとく心配されるが、流石に俺もタラント辺りとやり合うつもりはない。……タラントとは。


「……ぶっちゃけ、カスターって奴がどう出てくるかではあるがな」


 外に出て一人になったら、こっそり呟く独り言。セレンちゃんにはああ言ったが、本当のところは俺も覚悟している。

 両袖口に潜めた管轄の繰糸(アドミニストリング)を確かめるのは、この先に起こる事態を予測できるため。こっちが事を荒立てる気がなくても、向こうがそうとは限らない。


 ――何せ、今も昔もギャングをやってる人間だ。交渉であっても、相手の流儀はどうなることやら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ