4-6.隠しし真名、勘付かれ
「……申し訳ございません。おっしゃる質問の意味が分かりません」
「セ、セレンちゃん? な、なな……何言ってるのかな~?」
「……シスター・リースの反応はともかく、ウィネさんは何か知ってる気配がプンプンだし」
正直、俺も質問の内容に内心ビビった。一瞬黙って反応が遅れるぐらいには。
それでも頑張ってやり過ごせたと思ったのに、隣にいたウィネの方が露骨な反応。目を泳がせてもいるものだから、セレンちゃんにはジト目で怪しまれてしまう。
そういえば、ウィネって嘘つくのが下手だったな。ボロを出す方に天才的だ。
「では、セレンさんが『私が私ではない』と思った理由を述べていただけませんか?」
「色々あるけど、まずタバコだし。ここ最近はニオイも強くて、本数増えてるのが分かるし」
「……頭を使って仕事していると、息抜きの機会も増やしたいのです」
「……まあ、一応の筋は通るし」
なお、俺もウィネほどではないにしろ、上手く躱しきれているかは微妙なライン。
セレンちゃんは完全に俺を疑っており、質問攻めを止めることはない。
「なら、急に口調が変わってることがあるのはどういうことだし? 他の人達は『スイッチ入ると人が変わる』って納得してるけど、本当にそれだけだし?」
「セレンさんが知らないだけで、二面性の強い人間などたくさんいます」
「……確かにそこは個人の個性ってのもあるし」
どうにか上手く誤魔化そうとはするが、セレンちゃんの疑心は大きい。
これはマズい。俺もいつまで隠し通せるかどうか。
「でも、急にボークヘッド一派に立ち向かえるほど強くなってるのはおかしいし。あれにしたって、錬術具を使ってたりするし?」
「そうですね。私にも扱える錬術具がありますので」
「なら、見せてほしいし」
「……それはご遠慮願います」
「ハッハーン……成程だし。『見せたくない』ってことから、こっちの仮説も成り立つし。アーシ、シスター・リースの錬術具に覚えがあるし」
「…………」
おまけに疑心は錬術具のことにまで膨れ上がってしまう。
思えば、セレンちゃんは商工会長の娘だ。聞き覚えがあってもおかしくはない。
「アーシも実際に体感したから分かるけど、シスター・リースの錬術具って『糸の錬術具』だし。『錬術具は個々で使えるものが決まっている。同じものを別の人が扱うことはできない』って、ウィネさんにも教わったし。この仮説の通りなら、色々と運営手腕を知ってることにも筋が通るし」
「……ハァ。これは、下手に隠し立てしても無駄ですね」
「観念したなら、本当のことを教えてほしいし。……あなたの『本当の名前』をアーシも聞きたいし」
おまけに、セレンちゃんが学業面で超優秀なのは誤算だった。よもや、俺自身の首を絞める結果になろうとはな。
横でウィネも狼狽えているが、もう隠し通せる状況ではない。完全に俺の負けだ。
――この子はすでに俺の真名まで察している。
「私は外身こそリース・ホーリーアローではありますが――中身については別人だよ。俺の本当の名前は……ノア・ブレイルタクトだ。これまで知ってたのは、そこにいるウィネだけだったんだがな」
「や、やっぱりだし……!?」
観念したように俺が語れば、セレンちゃんは驚きながらも納得の表情を示す。
一度真名を述べてしまえば、残りの隠し立ても何もない。ここに至るまでの真相も全部さらけ出す。
リース・ホーリーアローが身投げした死んだことも。
そこにノア・ブレイルタクトが乗り移ったことも。
俺だから管轄の繰糸が扱えることも。
二面性というのが嘘で、単純にリースの演技をしていることも。
セレンちゃんも衝撃を受けてはいるが、話の理解はしてくれる。
「薄々勘付いてたけど、実際に聞かされると驚きだし……。本物のシスター・リースも死んでたなんて……」
「ノア・ブレイルタクトの名が悪名である以上、不用意に正体を明かすこともできねえ。リース・ホーリーアローは隠れ蓑にも最適だったからな。……それで? 俺の正体を知って、セレンちゃんはどうする気だ?」
正体がバレたことはこの際仕方ない。俺もウィネのことをどうこう言えないほどボロを出し過ぎていた。セレンちゃんのように頭の回る子相手に、下手な誤魔化しは逆効果か。
むしろ、気になるのはこの事実を知った後の行動だ。困惑しているセレンちゃんへ、今度は俺から質問を被せる。
「『死んだはずのノア・ブレイルタクトがリース・ホーリーアローとして転生した』なんてのは、どこに行っても材料に使えるだろ。それこそ、ウィネちゃんがやりたいことのために俺を売り飛ばすことだってできる。金に名誉に……いい学校に入ることだって可能かもな」
「ちょ、ちょっと、ノア?」
「……ウィネも今は黙っててくれ。これは俺とセレンちゃんの問題――交渉だ」
交渉材料でなくとも、セレンちゃんにとって俺の存在は『父親が死んだ元凶』にも映りえる。ノア・ブレイルタクトの名前なんて、今更聞くのも煩わしいかもしれない。
もしかすると、ここで刺されておしまいだってあり得る。まあ、過去の女に後ろから刺されるよりはマシか。正面から理由を知って刺されるならば納得もできる。
――とはいえ、そんなことになるとも考えにくい。セレンちゃんの目を見れば分かる。
「……別に、そんなことしないし。アーシはただ、本当のことが聞きたかっただけだし」




