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TS.シスターは彼なのか?  作者: コーヒー微糖派
1節目:新たな生
3/44

1-1.時間よ、もう一度

□=□=□



 ――俺は……死んだのか? あれからどうなったんだ?

 ずっとずっと冷たい水の中を漂って、声を出すこともできずにどれほどの時間が経ったんだ?


 俺の体はどうなった? まだこの水底なのか?

 いや、体はないのか? 意識だけがここにあるのか? これじゃまるで地縛霊じゃないか。


 ああ、嫌だ。ここから出してくれ。この冷たい水底から俺を引き上げてくれ。

 俺にはまだやりたいことがある。どうか、俺にもう一度生きる時間を与えてくれ。


 ――そのためだったら、どんな姿であっても構わない。



 ゴポ ゴポ



 なんだ? 何かが流れて来たのか?

 人の形――こいつも溺れたのか? 金髪で青い修道服を着たシスターか?


 身動きもしないし、目も虚ろに開いてやがる。まさか、死んでるのか?

 貧相な体つきだし、幸の薄そうな顔をしてやがるな。ただ、俺が死んだ時のように怪我はなさそうだ。まだ水で膨れたりもしていない。


 ああ、羨ましいな。俺は訳も分からぬまま、ズタボロになって死んだってのにさ。

 なあ、名前も知らないシスターさん。あんただって本当は死にたくないかっただろ? あんたはなんで死んじまったのさ?

 なんて言っても伝わるはずがないか。お互いに死んでるんだもんな。


 ――でも、やり直せるもんならやり直したいもんだ。シスターさんだってそう思うだろ?





「うっ……ううぅ……。あ、あれ……? ここは……どこだ? 俺は一体……?」


 水底で遺体相手に独り言を語る地縛霊。それが俺のやっていたことのはずだった。不思議と覚えている。

 そこで一度意識が途絶えたのだが、次に気が付くとそこは陸地だった。ずっと見ていた水底などではない。

 近くに溜池があるが、ここがさっきまで俺の沈んでいた場所だということか? 俺は河川の氾濫に飲み込まれて死んだはずなんだが?


「クッソ。マジで意味が分かんね――って、あれ? これ、人の体なのか? でも、俺の体じゃ……?」


 まるで理解できない事態を前に、ついつい頭を掻く仕草を交えてしまう。そう『頭を掻く』という行為ができてしまう。

 さっきまでの俺は実体などなく、ただ水底に沈むしかなかったはずだ。なのに、今は人の体を使って動かすことができてしまう。


「い……今、何がどうなってんだ? こ、これって本当に俺の体なのか?」


 それでも感じてしまう妙な違和感。まるで『俺が俺ではない』みたいだ。

 体を動かした時の感覚もまるで違うが、地面を這うように溜池の方を確認してみる。さっきまで俺がいたと思われる場所ならば、何かしらのヒントだってあるはずだ。


 ――そう思って水面に顔を向けた時、違和感の正体にも気が付いた。




「ッ!? こ、これ……俺の体じゃねえ……!? この女の体って、まさか……!?」




 水面に反射して映るのは、青いベールを被って幸の薄そうな女の顔。長い金髪も記憶に新しい。体にも目を向ければ、貧相な体と修道服が目に入ってくる。

 間違いなく俺の体ではない。だが、全く知らないわけでもない。こいつはさっき俺が見た女の姿だ。


 ――俺は今、溺れ死んでいたはずのシスターの体に意識が宿っている。


「な、なんでだよ……? なんで俺がこんな姿――ん? この両手首についてるリングって、まさか……!?」


 ますます意味が分からなくなり、池のほとりに座り込んで頭を抱え込んでしまう。その時ようやく、この女が身に着けている『あるもの』が目についた。


 俺だからよく分かる。むしろ、俺でないと完全には理解できない。

 ある意味、これは『俺が俺である証』といったものだ。


管轄の繰糸(アドミニストリング)……!? 俺の錬術具(アーツファクト)がこの女の手に……!? だとすれば、もしかしてにはなるが……!?」


 溺れ死んだはずのシスターが両手首につけているのは、俺専用の錬術具(アーツファクト)――管轄の繰糸(アドミニストリング)だ。この俺自身が間違えるはずがない。

 錬術具(アーツファクト)とは『個々の才覚』によって扱える人間が決まっている。言うなれば、それは『自身の一部』と言っても過言ではない。

 そう考えれば、俺の脳内にも仮説が成り立っていく。いや、仮説なんて曖昧なものでもない。




 ――これは実感。理論など考えるまでもなく導かれる真実だ。




「て、転生したってのか……俺は……!? このシスターに憑依することで……!?」

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