4-5.未来託せし、天才少女
「うは~……マジだこれ。社会学が主流だけど、この世代でやるレベルを完全に超えちゃってるよ……!?」
セレンちゃんのノートをパラパラと流し見るだけでも、どれほどのレベルことをしているのかは理解できる。ウィネの目は丸く点になりっぱなしだ。
リースが持っていた教科書の範囲など一瞬にして超えた。だから俺の方で急遽資料を作る始末。それでもペースが追い付かない。
これまで勉強ができていなかったとは思えないほどの成長。むしろ、これまで触れることができなかった分だけ爆発的に成長しているように思えてしまう。
「アーシ、勉強がここまで面白いものだとは知らなかったし! 新しいことを覚えるのって楽しいし!」
「いや~、これはアタシもたまげたもんだ。もうセレンちゃんに勉強することなんてないんじゃない?」
「錬術具や錬工師に関する工学はまだ覚えれてないし。ここはシスター・リースには難しいってことだし」
「……ナチュラルにアタシがここへ招かれたのって、もしかしてこれが理由?」
「はい。よろしくお願いします」
「へーへー、了解。まっ、アタシも自分の分野を教えるのは嫌いじゃないさね」
セレンちゃん自身も勉強に夢中であり、どんどんと知識を所望している。なので、ウィネにも白羽の矢を立てさせてもらおう。
俺だって学業に関しては自慢できる。領主補佐をしていたぐらいだからな。だが、セレンちゃんの成長の前では霞んで見えてしまう。
まさに天才。その道の専門家でないと、セレンちゃんに勉強を教えるのは難しい。
「ウィネさんは錬工師なんだし? 自分の錬術具も持ってるし?」
「いや、アタシは錬術具は持ってないよ。そもそも錬工師になるのって、錬術具の適性がなかった人がなるのが多いのよね」
「その適正って、どうやったら手に入るし?」
「ぶっちゃけ、運。個々のくじ引きだね。適性がある人間なんて限られてるさ」
「うひゃー……なら、アーシも自分だけの錬術具は厳しいし?」
「どうだろうね~? でも、錬術具周りの工学も進歩はしててね。技術を応用することで、マフォンみたいな汎用型を作ることは可能さ。そのために必要な術式を覚えることが――」
ウィネも最初こそ呆気に取られていたが、教えるとなると嬉々としている。やはり専門分野で語れるのは面白いものがあるのだろう。
しばしの間、ウィネとセレンちゃんによる個人レッスンへ。正直俺も疲れがたまっているし、少しは休む時間が欲しい。
「お疲れ様です、シスター・リース。忙しい中、娘の勉強まで教えていただけるなんて」
「将来的には私の助力もなく、ここの人々だけで社会を回すことが理想です。そのためにも若い内からの勉強は不可欠でしょう。……それにもしかすると、セレンさんが人々の先頭に立つ未来もありえますね」
「母親として、そう言っていただけると大変ありがたいです。まるで、夫の足跡を求めているようですし」
しばし休息を入れていると、ユリーさんがお茶を手渡して声をかけてくれる。綻ぶ笑顔には、以前のような不安もない。
リースの声色とはいえ、俺の語る言葉は偽りなき本心だ。本当にセレンちゃんならば、父親の会長さんと同じように人々を支えられるかもしれない。
最初は本当にどうしたものかという悲惨な状況だったが、芽吹くための種は揃っている。将来を楽しみにするのは心地よいものだ。
■
「いやー、アタシも今日は疲れたね。正直、セレンちゃんの相手が一番疲れたよ」
「でも、悪い気分じゃねえんだろ? さっきからニヤケが抑えられてねえぜ?」
「そりゃそうでしょ。あそこまで頭の回る子なんて、それこそ100年に一人の逸材ってもんさね」
ステルファスト宅での勉強会も終え、俺とウィネはリースの自宅へと戻る。気が付けば陽も暮れており、今日の活動もここまでか。
ウィネも帰る時間とはいえ、今日あったことは語りたいのだろう。お互いに遠慮なく姿勢も言葉も崩し、セレンちゃんのことも含めて振り返る。
「セレンちゃんならば、もっと高いレベルでの教育だって受けられるだろう。中央区の方に行けば、それこそブレイルタクト領の中枢に組み込まれるほどの逸材だ」
「まさか、セレンちゃんを使って中央に潜り込もうとか考えてる?」
「しねえよ、そんな真似。俺が乗り込むとなれば、それこそ荒事だ。……セレンちゃんを渦中に置くことだけはしたくねえ。それとこれとは別の話だ」
ウィネにも言われるが、確かにセレンちゃんを祀り上げれば、領主といった中央の連中に取り入ることだってできる。だが、それはあまりに無粋な禁じ手だ。
今は中央のことも置いておく。まずはこの地を安定させてからだ。
そこから先の話となれば、俺は俺で別で動く。歪んだ歴史に放棄された地のことを考えれば、荒事が起こるのは目に見えている。
現在の領主は俺の親父だろうが、親子喧嘩の時はまだ早い。ステルファスト親子とは規模も違ってくるからな。
「まあ、ウィネも今日はお疲れさん。そろそろ帰って――」
「シスター・リース~。まだ起きてるし? ちょっと話したいことがあるし」
「へ? セレンちゃん? さっきまで勉強を教えてたのに?」
「まあ、個別で話したいことでもあるんだろ。俺も――私も取り繕いますか」
「……結構慣れて来てるね」
そうこう締めくくろうとしていると、外からセレンちゃんの声が聞こえてくる。こんな夜分に何の用事かは分からないが、親には聞かれたくない話でもあるのだろう。
あまり長居はさせたくないが、ここはリースとして受け入れよう。大事な未来の面倒を見るのも務めだ。
「どうされたのですか、セレンさん? こんな夜分に?」
「ごめんね。だけど、あんまりウチだと話せない話だし」
「お母さんがいるとダメな感じかね? まあ、ここにはアタシとリースしかいないからさ。気負わず話してみなよ?」
「……だったら、ちょっと変だけど質問したいことがあるし」
内容は分からないが、俺とウィネには話せるらしい。
何やら質問があるらしいが、わざわざ訪ねてまでどんなことを聞くのだろうか?
「シスター・リースって……本当にシスター・リースなんだし? 別の誰かになってる……なんてことないし?」




