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TS.シスターは彼なのか?  作者: コーヒー微糖派
3節目:役目とやり方
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3-5.荒れ果てた地より、再び

「セ、セレンちゃん? な、何を急に……?」

「アーシもちょっと思ったんだけど、商工街がこんなことになってから、何か率先して行動を起こしたことってあったし? いつも他のことで嘆いて、自分達で動こうとしてなかったし?」

「そ、そんなこと言われても、もうあれから2年は経ってるんだぞ? 今更だろ……」


 俺も言い返そうかと思ったが、ここはセレンちゃんに任せてみよう。今のこの子からは力強さも感じる。

 何より、セレンちゃんも商工街がスラム化してから過ごしてきた住人の一人だ。同じ地に住む問題は、同じ立場の人間が先人切って解決するのが望ましい。


「河川の氾濫に巻き込まれて、ノア・ブレイルタクトが死んで……そこからここはおかしくなっちゃったし。ブレイルタクト領からも見放され、ギャングまで乗り込んできて好き放題。ファングレイジ家なんて余所者の不逞貴族まで巣食う始末。そんな生活が馬鹿らしくなって、ギャングになる人間だって出て来たし。……でも、気持ちは分からなくもないし。アーシだって、ずっとこんな怯える生活なんて嫌だし」

「だ、だったら、俺達もギャングになればいいってことか? いっそボークヘッド一派に下って――」

「それは違うし! あんな連中みたいになりたくないし! アーシは……アーシは……昔みたいな生活に戻りたいし!」


 セレンちゃんの呼びかけに対し、他の住人も耳を傾け始める。

 反応自体は渋いまま。だが、最初なんてそんなもの。こうして訴えかける第一歩の意味は大きい。


「そ、そりゃ、昔みたいに戻れるなら、それが一番ではあるが……誰がそんなことをしてくれるんだ?」

「だから、アタシ達でやるんだし! どこから始めればいいのかなんてまだ分かんないし、どれだけの時間がかかるかも分かんない! でも……やってみようよ! 何もせずに愚痴をこぼすだけの日々なんて、もう終わりにしたいし!」

「た、確かにそうだよな……。言いたいことは分かる……!」

「な、何をすればいいのか分からない不安はあっても、今のままでいいはずがない……!」


 そして、効果のほどは想像以上に大きい。セレンちゃん自身が言葉にして訴える意味を知り、実際に言葉を紡いだからこその成果か。

 これまで死んだ目をしていた住人達にも、少しずつ光が宿っていく。途方もない道筋にも挑む気概が宿り始める。


「……よし! ちょっと気合を入れて考えるぞ! まず、何から手をつければいいだろうか?」

「食料を安定して確保するために、畑を拡張するとか?」

「でも、それをやってボークヘッド一派に潰されたことなかったっけ?」

「鉱物資源の採取と売買も貴重な収入だし、下手に畑を広げすぎるのも考え物か」

「えーっと……だったらどこから手をつければいいんだ? いっそ全部同時に?」

「それは体がもたないだろ……」


 さらに人々の中から、今後の改善を提案する者まで現れてくれる。

 これなんだ。俺が求めていたのは、こうやって這い上がろうとする熱意なんだ。

 ただ俺が全部やっただけでは、住人の成果にも経験にもならない。そうなるとあっという間に瓦解して、同じことの繰り返しだ。

 まだまだ先の見えない道の中で苦悩はしているが、本当に大きな一歩を踏み出すことができた。


 ――ならば、ここからは俺の出番だ。


「皆様が再び立ち上がろうとする気持ちは、私も確かに感じ取りました。ならば、及ばずながらもご助力させていただきます」

「シ、シスター・リース? 正直、あんたに何ができるのか分からないんだが?」

「これでもシスターとして、各地を放浪したこともあります。その際の経験は、必ず皆様にとって有益なものとなるでしょう。……私もこの地の再生を望む一人です。ご不満があれば、どのように扱っていただいても構いません」

「い、いや、流石にシスターみたいな人に無礼は働けない……が、心強いな。そう言ってくれる人間の言葉なら、参考にはしてみたい」


 あくまでリースとして接するが、俺の頭にはノアとして培った知識と経験がある。このタイミングでならば発揮できる。

 今、人々は自らの足で一歩目を踏み出した。俺の存在は例えるならば人々の靴であり、その歩みをサポートするのみ。

 足運びは自分達でしないといけない。それでも歩み出せた人々ならば、立ち止まって折れることはないだろう。


「よーし! みんなで頑張るし! かつての商工街を取り戻して、いっそギャングの連中を見返すし!」

「おお! いいな、それ! ギャングに寝返った連中にも見せつけてやろうぜ!」

「皆さんの力を合わせましょう! 夫も愛したこの地をもう一度築くためにも……!」


 心は一つに、定めた指標へ真っ直ぐに。セレンちゃんの呼びかけから始まり、道筋も浮かび上がってくれた。

 まあ、ここからもまた大変だ。まだスタート地点に立てただけだからな。


「ようやくいよいよって感じかね。……さあ、かつて稀代の天才領主補佐様として鳴らした手腕を発揮しないと、示しも何もつかないよ?」

「分かってるっての。俺も様子見は終わりだ。ウィネにも手伝ってもらうぜ」

「へいへい、言われずともさね。乗り掛かった舟から降りたりはしないさ」


 それでも、この道を歩める材料は揃った。ウィネからコッソリ耳打ちされれば気合も入る。

 さあ、始めようか。そして、お見せしようか。ノア・ブレイルタクトの手腕というものを。


 ――荒れ果てたこの地から再び。

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