3-4.謝罪の言葉、認めたが故に
「おっ。リースとセレンちゃんも帰って来たみたいだね」
「セ、セレン!? 良かった……無事で……」
少し話をした後、俺はセレンちゃんと一緒に元の居住区へと戻る。入口付近には、ウィネとユリーさんが待っていてくれた。
ユリーさんの方は心配で仕方なかったことだろう。こちらの姿が見えると、すぐさま駆け寄ってくる。
「あっ……お、お母さん。えっと……その――痛っ!?」
「ウィネさんから聞きましたよ!? まさか、本当にギャングになろうとしていたなんて……! お母さんもお父さんも、あなたをそんな子に育てた覚えはありません!」
そこからすかさず飛び出す平手打ち。食らったセレンちゃんはオドオドしたままで、涙を浮かべて怯むのみ。
無論、ただの怒りで平手打ちなどしたのではない。ユリーさんの目に浮かぶ涙も悲しみも、セレンちゃんと同じかそれ以上だ。
セレンちゃんもそのことを理解しているからこそ、黙って叱責を受けている。
「……セレンさん。お母様の目をよく見てあげてください。目を背けてはなりません。そして、あなたが本当に紡ぐべき言葉を」
「う……うん。分かったし。……お母さん、本当にごめんなさい。アーシ、本当に馬鹿だった……!」
意味を理解しているからこそできる誠心誠意の謝罪。軽く背中を押せば、後は本人の口から自然と言葉が零れてくれる。
所々拙い言葉な部分もある。だが、心というものは傍で見ていても感じ取れる。
『許してもらう』ことが目的などではなく、己の行いを『本当に悪かったと理解している』からこそできる謝罪だ。
「ア、アーシ……お父さんが死んで、こんな生活に嫌気が差して……変えたくてこんなことしちゃったし。で、でも……やっぱりこんなのはダメだったし。アーシ、全然馬鹿な子供だったし……! えっぐ……! ごめんなさいしか、言えないし……!」
「……そう。分かってくれたのね。それでいいのよ。お母さんこそ、いきなり手を出してごめんなさい……!」
「お、お母さん……うああぁ……! アーシ、苦しくてもワガママでも、お母さんの傍にいたいし……!」
「ええ……! お母さんもよ……! ううぅ……!」
だからこそ、お互いに感じ取ることができる。これまで足りなかった言葉を紡ぎ、本当の気持ちで繋がることができる。
まあ、こうなるだろうとは思っていた。奥底の真意というものは、当人には意外と見つけにくいものなのかもしれないな。
それを軽く後押しするのが俺のやり方だ。できる地盤は元々存在していて、俺がやったことなど大したことではない。
「ぐっす……シスター・リースにウィネさん。本当に迷惑かけてごめんなさいだし。アーシなんかのために……」
「私からもお礼申し上げます。お二方がいなければ、こうして親子が揃うことなどできませんでした。本当にありがとうございます」
「まあ、アタシよりかはリースがやったことだけどね。そんなに深くお礼しなくても大丈夫でしょ。ね?」
「そうですね。お二方の悩みが晴れたことが何よりもの満足です」
雨降って地固まるとはこのことか。涙の跡を拭いながらも、親子揃って笑顔が戻ってくれる。
ユリーさんも作り笑顔ではなく、セレンちゃんに至っては笑顔なんて初めて見たか。俺にできるのはここまでだが、親子関係についてはもう大丈夫だろう。
――それより、俺が考えるべきはこの地全体の今後か。
「……何やら、余計な面倒を起こしていたようだな」
「ま、まあ、いいじゃないですか。シスター・リースのおかげで、大事には至らなかったみたいですし」
「もうおとなしくしててほしいぜ……」
少し離れたところで、他の住人達も様子を伺っていたようだ。こんな何もないところなので、野次馬根性が働いたといったところだろう。
ただ、反応は実に渋い。俺らのやっていたことが面倒事にしか映らなかったようで、巻き込まれるのを避けるように、こちらが視線を向けると目を逸らしてくる。
こんな態度を取られると、ついつい俺の目元も釣り上がってしまう。
「な、なんだい、こっちを見て。一件落着したのなら、別になんでもいいだろ……」
「でもどうせだったら、ボークヘッド一派を完全に潰してくれればよかったのに……」
「こっちの生活は何も変わらないもんな……」
「ブレイルタクト領から見放された今、誰の助けもアテにはならんか……」
それでも、憎まれ口だけは一丁前か。俺がボークヘッド一派とやりあったことは理解できてるらしいが、送る言葉は労りではなく更なる要望だ。
別に俺も『お疲れ様』なんて言ってほしいわけではないが、こういう態度は腹が立ってくる。
俺が背中を押したとはいえ、セレンちゃんは自らの意志で謝罪という行動に出た。結局、自分を変えられるのは自分しかいない。
だが、今ここにいる住人達はどうだ? 自分達では動こうとせず、あまつさえ俺にボークヘッド一派の討伐さえ密かに願ってくる。
確かにそれができれば大きな解決だ。だが、人に頼ってばかりでは何も変わらない。
俺の目的はこの地を変えること。人も含めて、ゴミのようになったこの地の全てを。
それを真に行えるのは俺ではない。実際に住まう人々の方だ。
こんな心の持ち方では、上手く見える未来さえ――
「……ね、ねえ、みんな! ちょっと待ってほしいし! こうやって愚痴をこぼして他人任せってのも……もうやめにした方がいいと思うし!」
――見えなかったが、セレンちゃんの言葉で大きく動き始めた。




