3-2.ボークヘッド一派頭目:タラント・ボークヘッドⅡ
「おや? 今日はこの間みたく、強気に突っかからンのか? シスターさんよぉ?」
「私はスイッチが入ると気が荒くなるタイプでして」
「ほーん? そうだったンか」
鎧の形状をした錬術具を見に纏い、ボークヘッド一派頭目であるタラントが迫ってくる。
巨漢の外鎧を発動させていなくとも、周囲の誰よりも頭一つ抜けた巨体だ。否が応でも威圧感がのしかかってくる。
それでも、今回は様子見を忘れない。タラントもオツムは馬鹿なようで、俺のデマカセを簡単に信じてくれた。
もう少しだけ待ってほしい。俺はまだ、セレンちゃんの答えを聞けていない。
「まあ、シスターさんの方も今回は部外者ってところか。それより、そのお嬢ちゃんを早く奥に連れてくぞ。オレ様も滾って抑えが効かねンだよ……!」
「ひぃ……!? あ、あんたの相手をすれば、仲間に入れてくれるし……!?」
「おうおう。仲間にでも何にでもしてやるよ。……もっとも『生きてたら』の話になンがよ?」
「ギャハハハ! よかったな、嬢ちゃん! まあ、タラント様のプレイは激しい。必死に生き残れるよう、せいぜい頑張るこったな!」
「な、何さそれ……!? む、無茶苦茶だし……!?」
タラントも俺のことは眼中になく、目の前にいる手ごろな獲物にいやらしい目を向けていく。その際の言葉を聞き、セレンちゃんも己の浅はかさを自覚してきたか。
ならば言えるはずだ。本当に自分が望むことを。本当に俺にして欲しいことを。
タラントの手が伸び始め、掴まれればもう終わり。引き返すことなどできない。
それでも、今このタイミングでなら――
「い……嫌ぁぁああ!! アーシ、こんな連中に好き放題されたくないしぃぃいい!! 助けてほしいしぃぃいい!!」
――ピンッ! ガシッ!
「よく言えたぁ! その言葉を待ってたぜぇえ!!」
――まだ引き返すことができる。
本当にギリギリのタイミングだった。あわやタラントに掴まれそうになったところで管轄の繰糸を発動し、セレンちゃんをこちらに引き寄せることができた。
別にこんなドラマチックは求めていなかったんだがな。とはいえ、人間って極限状態で本性が見えるものか。
俺もセレンちゃんが腕の中に納まり安堵できる。
「チィ! こんなギリギリのタイミングで邪魔すンのかよ! このアバズレシスターがぁあ!!」
「お楽しみを奪って悪かったな! だが、レディーの扱いはもっと丁寧にしろよ! だからギリギリで断られんだよ! モテねえ男のくだらねえひがみだな!」
「またこの間みたいンなって、スイッチが入ったってことか……! 上等だぁあ! またオレ様が相手して、今度こそ二人まとめてぶっ殺してやンよぉぉおお!!」
もうシスター・リースを演じる必要はない。心をノアに切り替えないと、管轄の繰糸も上手く扱えないからな。
何より、タラントだって戦闘態勢に入ろうとしている。巨漢の外鎧に力を込める様子から、また巨大化して挑む算段か。
とはいえ、今回は向こうが焦ったと言わざるをえない。
「ぐっ!? な、なんだ!? 体が上手く動かンだと!?」
「バーカ。こんな狭い路地裏で巨大化すれば、建物が邪魔になるに決まってんだろ」
「ぐぬぬ……!? し、知るか! こんなガラクタなんざ、ぶっ壊してしまえば苦にならン!」
巨大化したタラントに対して、この路地裏は狭すぎる。左右の建物が邪魔になって、癇癪を起こしたように壊し始める。
商工街のわずかな痕跡を潰されるのは癪に障るが、ここまでは予想できていた。多少でも動きを制限できれば好都合だ。
「セレンちゃん、下がってな! 少しだけ俺が時間を稼ぐ!」
「じ、時間を稼ぐって言ったって……!? それに、その口調は何なんだし!? 昨日と同じように――」
「こういう切羽詰まった場面だと、スイッチ入るタイプなんだよ! 安心しな! 可愛い女の子の必死の嘆願は、俺が必ず繋いでやる!」
場所の狭さもあって、タラントの部下も迂闊には動けない。こっちもセレンちゃんを背後に回し、1対1の形で向かい合う。
地の利はこちらにある。タラントの動きが制限されただけでなく、昨日と違って高い建造物も近くにある。
こういう場面であれば、俺の管轄の繰糸はより真価を発揮できる。
「くたばれぇぇええ! アバズレシスターがぁぁああ!!」
――ピシュッ! ヒュンッ!
「そう何度も踏み潰されてたまるかよ! ほれ、ここまで届かせられんのか!? デカブツギャングが!」
「な、何っ!? いつの間にそんな高さへ!?」
管轄の繰糸を建物の屋上目がけて射出。繰り出された糸は俺を引き寄せ、反動のまま瞬時に宙へと導いてくれる。
前回は頭上を取られたせいで劣勢となったが、こういう高低差のある場面なら策はある。どれだけ図体もパワーもデカくなろうとも、機動力については別問題だ。
俺の管轄の繰糸は決して強大ではない。作用する質量はタラントに圧倒的に劣る。
だが、そんな要因も工夫次第だ。『絶対』ではなくても『万能』にはなれる。
「ちょ、ちょこまかとハエみたいにぃ!? 一体、どんな錬術具を使って――」
「そうか。テメェはまだ、俺の能力が読み取れてねえのか。頭が回らねえのが今回の敗因だと思っときなぁぁああ!!」
「こ、今度は何をすンだ!?」
どうにか頭を回す俺とは対照的に、タラントは見た目通りの単細胞と言うべきか。巨体とパワーで押し潰すことしか頭にないらしい。
確かに巨漢の外鎧は強大な錬術具だ。これまでは考えることもなく、好きに暴れるだけで問題はなかったのだろう。
だが、今回は違う。場所の狭さも相まって、俺の方に目を向ける動きも鈍い。その隙に別の場所へ管轄の繰糸を射出し、こっちはさらなる策へ打って出れる。
――宙を舞いながら自らの身に乗せるのは、遠心力という回転のエネルギー。小さな体であっても、十分な威力は発揮できる。
「そーれ! シスター様の制裁キックを顎に食らいなぁぁああ!!」
「ガゴフッ!?」




