3-1.本当の気持ち、難しき吐露
ウィネの約束を受け取り、一時離れて別行動へ。ギャングのアジトと呼ばれる場所へ、俺一人で足を踏み入れていく。
身に沁み込む空気からして違う。陰気ではないが、邪気とも呼べる気配に満ち溢れている。
「ウィネから聞いたとはいえ、マジにギャングの巣窟って感じだな。荒れ放題だし、おかしな改築までされちまってる」
氾濫の被害を逃れたとはいえ、逆にギャングに目をつけられての好き放題。建造物は酒やヤバい薬の倉庫へと様変わりしているように見受けられる。
まだ陽が出ているのに、異様なまでに暗い。設置された電灯も壊れ、修理できる人間なんているはずもない。
こっちの方がスラム街と呼ぶに相応しいかもな。汚れた気配で息苦しささえ感じる。
「この辺にボークヘッド一派は見えねえな。それこそ、どこかで明かりに群がる虫みてえに――」
「ちょ、ちょっと!? 放してほしいし! アーシの話、聞いてなかったし!?」
「ほれ見ろ! 言わんこっちゃない! 世話を焼かせてくれるぜ!」
肝心のセレンちゃんの居場所についてはすぐに分かった。連中が単細胞なおかげか、行動も単純で助かる。
声がしたのは一層暗くなった路地の奥。なんともお約束ではあるが、それは声の主にも言えた話か。
――こうなることぐらい、冷静に考えてほしかったものだ。
「ヘヘヘ。いいじゃんか? お嬢ちゃんもここに来たってことは『そういうお付き合い』が目的なんだろ?」
「だから! 違うし! アーシはあんた達ボークヘッド一派の仲間にしてもらいたくて来たんだし! 慰み者なんか嫌だし!」
「そのような言葉が通じる相手ではないということです。少しはご理解いただけましたか? ……セレン・ステルファストさん」
「えっ!? あ、あんたは……シスター・リース!? なんでこんなところにいるし!?」
昨日の二の舞をするわけにもいかない。まずはリースのまま、落ち着いた物腰で接触を計ってみる。
で、現場を目撃すれば案の定だ。セレンちゃんはギャング数名に囲まれ、衣服を脱がされようとしている。
中には自らのズボンを下ろそうとする者までいる始末。意外と間一髪のタイミングだったか。下手に刺激せずに乗り込んだのも正解だ。
「少々、あなたのお母様から話を伺いましたので。気になって赴いた次第でございます」
「な……何さ。今更来たところで、してもらうことなんて何もないし。アーシはボークヘッド一派に入って、貧相な暮らしから抜け出すんだし」
「おいおい、勝手に俺らを置いて話をされちゃ困るなぁ? 第一そんなに仲間になりたいってのなら、体の一つも売ってもらわんと話になんないのよ? お嬢ちゃんもそれぐらいの覚悟はしてもらわないと……ね?」
「……ほ、本当にそれで仲間にしてくれるんだし? 約束してくれるし?」
「おうおう、約束するとも。だから、シスターさんはお邪魔なわけよ? 帰っておくんないかな?」
連中からしてみれば、今回は完全にセレンちゃんのみが標的だ。俺のことは邪魔者扱いで標的として来ない。
幸い、今なら人数も少ない。その気になれば、即行で決着をつけることもできるだろう。
――ただ、どうにもこのまま行動というのも解せない。セレンちゃんの心はなおもボークヘッド一派に傾いている。
「……そうですか。かしこまりました。セレンさんも納得しているようですし、私はお邪魔だったようですね」
「え? え? シ、シスター・リース? そ、そんな簡単に引き下がっちゃうし?」
「何を戸惑われるのですか? あなたもそれが望みなのでしょう?」
「い、いや……そうと言われれば、そうと言うべきか……」
「……ですが、最後に一つだけ聞かせてください。ボークヘッド一派に加わることが、セレンさんの『本当の望み』なのですか?」
「え? ほ、本当の……望み?」
かつて俺は人々の声を聴き、求められた助けに応えて来た。言葉により、双方の理解を得ることができたからだ。
そうすることで、心の向かう先を一つにすることができた。だからこそ、どんな問題も解決へ向かうことができた。
裏を返せば、心の向きが合わさっていないと上手くは行かない。仮に上手く行ったとしても、その場しのぎにしかならない。
「あなたのお父様はこのように問題に直面した時、自らの抱える悩みも現状も素直に吐露してくださりました。それは簡単に見えて、周囲の反応が気になる難しいことです。……セレンさんはお父様を愛していたのでしょう? お父様の背中を見て、学ぶことはありませんでしたか?」
「ど、どうして……お父さんの話なんかするし……?」
本当はすぐにでも助けた方がいいのかもしれない。だが今ここでハッキリさせないと、また同じことの繰り返しになる。
俺はセレンちゃんの本心が聴きたい。衝動的な望みではなく、これまで積み重ねた人生から導き出される本当の願いを。
――だから、父である商工会長ともつい重ねて語ってしまう。
なあ、セレンちゃん。知ってるか? 君の親父さんは商工会長になる前、俺に最初『アレはできるけどコレができない』みたいに言って来たんだぜ?
他にも会長候補はいたんだが、どいつもこいつも『自分は全部できる。できなくてもやる』みたいな感じだった。だが、親父さんだけは明確に『できる、できない』を分けて考えることができていた。
だから俺は商工会長に任命したんだ。『こいつとなら助け合える』って思えたからな。
――最も難しいことを、最初の段階で成し遂げてくれたからな。
「さあ、返答をお願いします。あまり時間もかけたくありません」
「ア、アーシは……アーシは……」
「おい! さっきから何を二人でベチャクチャ――って、お、おい! そこの扉から誰かが!?」
「あ、あの巨大な影は……!? お、お疲れ様です!」
時間をかけたくないのは本心だ。正直読めなかったとはいえ、最悪のタイミングでお出ましか。
ここで出てこられるとなると、後々の面倒は確定か。まあ、この際だから仕方がないか。
近くにあった建物の扉が開き、ノソノソと巨体が姿を見せてくる。
「おうおう。そこにいるのは、この間捕まえ損ねた少女にシスターさんじゃンか? まさか、そっちからお楽しみの場に出てきてくれるとはな?」
「タラント……ボークヘッド様」




