2-1.まだ見せていないあの日の夢
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「ん? 『ギャングの相手なんかして危なくねえのか』だって? まあ、これでも結構危ない橋を渡ってる自覚はある。余裕は見せてるがよ」
これは……いつの記憶だ? 俺が話してるんだよな?
ああ、少しだけ思い出せる。昔にこんなこともあったんだっけか。
「俺の管轄の繰糸なんだが、ぶっちゃけ錬術具の中では弱い方だ。扱える質量も小せえし、単独のパワーも大したことはねえ」
「――――」
「お? 心配してくれんのか? いやー、モテる男は辛えもんだ。……だが、心配はいらねえよ。錬術具も所詮は個人が持つ能力の一つ。能力は使い方で如何様にもなる」
誰かに管轄の繰糸のご高説を垂れたんだったか。誰だったかまでは思い出せないが。
ただ、俺の中では復習のように話が入り込んでくる。過去の自分に教えてもらうような気分だ。
「管轄の繰糸は糸の能力だ。糸ならば、質量が限られていても遠くまで伸ばすことができる。パワー不足に関しても問題ねえ。単独の強度を磨き上げた上で、様々な学術的原理を利用すればいいのさ」
ああ、そうだ。俺もボークヘッド一派を相手にした時、そうやって戦ったんだった。
だが、本当にあれで全てだったか? まだ何か見落としているものはなかったか?
「テコの原理、円の力学、人体急所――って、ここからは流石に高説が過ぎるか。悪い、悪い。俺も別に難しい話で偉そうに見せてえわけじゃねえんだ」
体が変わったことに関係なく、使っていない知識はなかったか?
「まあ、管轄の繰糸は使いようによって如何様にも化けるってことでな。……それに、俺もこの能力は気に入ってんだぜ? 『糸の能力』だなんて、まるでオメェとの運命の赤い糸――って、ま、待ってくれって!? そんな冷たい顔して即行で去ることねえだろ!?」
この話をしたのはナンパしている時だったか。女が相手だと、ついつい口が軽くなってよろしくない。
にしても、今になってこんなことを思い出すなんてな。俺もずっと死んでいたからか、記憶が朧気になっているのか。
言い換えれば、俺にはまだ『見せられていない先が残されている』のかもしれない。そうでも考えないといけない。俺自身が先を掴めない。
夢を掴むためならば、夢にだってすがりたい。
「あんまり冷てえ態度を取らねえでくれよ? ……どうせだったら、しっかり言葉で伝えてくれ。態度だけじゃ、本当に伝えたいことも伝わらねえ。嫌悪にしても、助けにしてもな」
俺は思い出す必要がある。ノア・ブレイルタクトがどういう人間だったかも含めて。
――失った時間を取り戻すためにも。
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