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TS.シスターは彼なのか?  作者: コーヒー微糖派
1節目:新たな生
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1-8.ボークヘッド一派頭目:タラント・ボークヘッド②

 逃げながら策を考えていたせいで反応が遅れたか。タラントは俺ではなく、近くにいたウィネと少女へ狙いを変えてくる。

 俺を捉えられないからって、知り合いの方を狙いに行くか? もう手当たり次第に暴れたいだけじゃないか。

 だが、状況としてはマズい。少女の方はもちろん、ウィネだって戦う力は持っていない。


「こいつらも面倒の元凶なンだろ!? ちともったいねえが、潰した死体で遊んでやるよぉぉおお!! ゲラララァァアア!!」

「ま、魔女さん!?」

「や、やめなって!? タラント――」


 女二人で身を寄せ合い、タラントの横暴になすすべなく跪くのみ。そんな様子を見て、タラントはあまりに品のない言葉と共に右足を上げる。

 このままでは二人があのデカブツ馬鹿に踏み潰される。こうなったのは誰のせいだ? 手を出した俺のせいだ。


 ――俺のせいで、二人の命が潰されようとしている。



 ゴォンッ――ビンッッ!!



「……ン? なんだ? 踏み潰せてねえンか?」

「ハァ、ハァ……! び、美人を殺して弄ぶなんてのは……流石に趣味が悪すぎんだろ……!」

「……え? ちょっ!? アンタ!?」


 そんな結末は認めない。ノア・ブレイルタクトという人間の行いとして許せない。

 素早く移動して、全身を管轄の繰糸(アドミニストリング)で支えながらガードの姿勢。間一髪のところでタラントの右足を受け止めることはできた。

 だが、本当にそれだけ。上を取られた状態で無茶な糸の張り方をしたこともあるが、俺自身の体に力が入らない。いや、今のこれが限界なのだろう。


 俺の肉体はリース・ホーリーアローのものだ。男として鍛えていた時と違い、鍛えていない軟弱な女の体では体力にも差がある。

 いくら糸で軽減していても、錬術具(アーツファクト)を使うこと自体に体力を使う。これまでと同じつもりで使っても、消耗を許容できるかはまた別の話。


 ――今の俺はタラントより弱い。錬術具(アーツファクト)の差だけでなく、根本的な体力の差を見ても。


「シ、シスター・リース……!? このままじゃ、あんたもアーシ達と一緒に踏み潰されるし……!?」

「だから俺だけでも逃げろってか……!? ふざけんな……! たとえ女の頼みでも、見捨てる真似だけは絶対しねえ……! ふんぎぎぎ……!?」

「な、何を言ってるし……!? ほ、本当に何なんだし……!?」


 だからといって、ウィネと少女を置いて逃げ出す選択肢などない。ここで管轄の繰糸(アドミニストリング)を解除すれば、二人の女を見殺しにすることになる。

 少女は何が何だか分からないといった声も漏らすが、これが俺という人間なんだよ。


 なあ、知ってるか? ノア・ブレイルタクトは堤防の決壊から領民を守って死んだんだぜ?

 後世に悪評と歪められようとも、俺はあの時の行いを間違っていたなどとは思わない。いや、評価云々はどうでもいい。

 俺は嫌いなことを避けたいだけ。嫌だと思うことをなくしたいだけ。


 ――人の悲しみってのは、俺が一番嫌いなものだ。


「ギギギ……ちくしょう……!? 持ちこたえらんねえ……!?」

「もうおしまいか? だったら、美人三人仲良く潰れちまいなぁぁああ!!」


 だが、現実は非情だ。タラントは俺を踏み潰す感触に手応えを感じ、トドメとばかりに力んでくる。全身の骨が軋むばかりで、押し返すことなどできない。

 もうダメだ。助かる未来が見えない。俺ともあろう男が、たかがギャング如きに殺されるのか?

 助けようとした女も守れず。転生したばかりなのに弱いままで。やりたいことも――




「ケヘヘッ、タラントの旦那。あんたが低級民に手を下す意味などないでしょう? ……ボークヘッドの看板、埃がついちまいやすぜ?」

「自分はあまり口を挟むことでもないと思いますが」

「ん? おっ。誰かと思えば、ファングレイジのジジイと息子か」




 ――などと諦めかけていた最中、踏み潰してくるタラントの足から力が抜ける。

 間際に聞こえたのは、制止を求めるような声。従うように巨大な右足がどかされ、同時に俺も地面へと突っ伏す。


「ハァ、ハァ、ハァ……! お、おい、二人とも……大丈夫か……!?」

「アンタが一番大丈夫じゃないっての!? こっちの無事も感慨もあったもんじゃないぐらいボロボロじゃんか!?」

「お、女の前で……ダセェ姿、見せちまったな……。だが、何があった……? 誰か来たのか……?」


 俺としては限界ギリギリだったので、助かったとも言えよう。ウィネが心配そうに声をかける横で、狙われていた少女も怯えてはいるが無事を確認できる。

 ただ、本当にこれで無事に全部が終わったのかは分からない。直前に聞こえた声にしても、味方のものとは思えない。

 どちらかと言えば、タラントに味方しているような物言いだった。顔を上げてみれば、結構な年齢のじいさんの姿が見える。

 その背後には赤髪の不愛想な男。こっちは同年代に見えるが、醸し出す空気が他のギャングどもとは一線を画す。


 ――この二人、タラントとは違う意味でただ者には見えない。少なくとも、相応の身分は有している。




「あの二人はファングレイジ家の当主と一人息子さ。ボークヘッド一派に肩入れしてる連中だね」

「ファングレイジ家……? き、聞いたことがあるような……?」

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