命日
「おーい、ミチコー」
オレは座敷から妻を呼んだ。
今日はオレの命日であるというのに、妻のミチコが仏壇の前にやってこないのである。
死んでまだ一年だというのに、もう命日を忘れてしまったのだろうか。
まさかボケ始めたのでは……。
なんとも心配である。
ミチコが座敷にやってきた。
掃除機をブンブンと鳴らし、のんびり掃除なんぞをしている。
「おいこら、オレの命日を忘れたのか!」
オレは怒鳴ってやった。
まことに残念ながら、あの世にいるオレの声はミチコの耳には届かない。
掃除をすませたミチコが仏壇の前に立った。
「ミチコ、今日は九月十八日、オレの命日だぞ。供え物のお菓子はどうした? それに坊主は呼ばんのか?」
ミチコがオレの遺影を見て言った。
「あんた、死んでボケは治ってるよね。そうじゃないとあの世で会ったとき、ボケてたら私のことがわかんないでしょ」
――オレがボケてるだと!
失礼なやつである。
ボケているのはおまえの方じゃないか。オレの大事な命日を忘れやがってから。
「明日、あなたの命日よ。ねえ、ちゃんと覚えてる?」
――えっ?
オレは位牌を見た。
――ふむ。
オレの命日は明日だった。
――ボケは死んでも治らないのだろうか。
こまったもんだ。