仮面男コール
仮面男と呼ばれている男性、コールは、少し複雑な形をした屋根の家に住んでいる。
昼間、太陽が出ている時でさえ外は酷く冷えるのだ。
夜にもなれば余計に冷え込み、たとえ火急の用があったとしても外出を渋るほどになる。
しかし、コールは村中の家の明かりが消え、外が完全に眠りについた頃を見計らって外出していた。
正確には、その時間にしか外に出られなかった。
他人からの視線に恐怖を感じ、特に、一方的に目視されることを酷く嫌ったからだ。
誰にも見られたくなくて、けれども、一日に一度は外の空気を吸いたくて、コールは冬であろうとも構わず、夜更けに家を出た。
分厚いコートを着て、首元の大きなベルトもしっかりしめて防寒すると、今日も独りぼっちで雪を踏みしめる。
ポテポテと村の中を散歩し、最後にはお気に入りの木の下でぼんやりと月を眺め、物思いにふけった。
冬の夜は確かに冷えるが、同時に空気は澄んでいて、透明度の高い美しい夜空を眺めることができた。
夜の散歩は、日中は家に籠って手芸ばかりしているコールの息抜きであり、至福のひと時だった。
金に輝く、太陽のような月に目を細めると、コールは一つクシャミをした。
『流石に寒いや。そろそろ帰ろうかな』
空から自分の正面へ視点を移して、一歩歩き出そうとした時、視界に見慣れぬ人物が入り込んだ。
激しく心臓が跳ね上がり、反射的に後ろへ飛び退く。
『なんで、こんな時間に人が!?』
その日の時間帯や季節によっては、どうしても人目についてしまうが、それでも、自分の目の前に人間が現れたのは初めてだった。
コールは、ギュッとフードの端を握って深くかぶり直し、恐る恐るその人物を確認した。
月明かりを反射してキラキラと輝く金髪は、長い一本の三つ編みとなって背中に垂れており、頬に沿うように生えた触角は、本人の活発さを表すかのように外側へ跳ねている。
オレンジの瞳は優しく微笑んでいるが、その奥では好奇心の光がチカチカと明滅していた。
コールは人間の瞳を見られないはずなのに、そのオレンジには見惚れてしまった。
釣り目が少し気の強そうな印象を与えるが、快活な美人だ。
また、背が小さく小柄で、体の線を緩く描く灰色の外套を着ている。
明るく元気な印象を与える、可愛らしい女性だった。
「こんばんは、貴方がコールさん?」
ニコリと微笑む女性、サニーは優しくコールに話しかけた。