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ひねくれカルメはログの溺愛が怖い……はずだったのに! ハリネズミと太陽  作者: 宙色紅葉


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6/30

サニーのお願い

 村の中央部にある自宅で、サニーは紙の束に目を通していた。


 そこには、村に登録されている村人の名前がズラリと記されている。


 頻繁にあることではないが、新しい生命が誕生した時や死者が出てしまった時、その他にログのような移住者が現れた時には、名簿の内容を改めなければならなくなる。


 そのため、名簿と実際を照らし合わせ、村人を正しく把握するのも村長の重要な責務だ。


 サニーは「次期」村長だが、実質的な村の業務はほとんど彼女が担っており、村長として扱っても何ら問題は無い。


 彼女は今日も、黙々と仕事をしていた。


 文字を追い過ぎて視界がぼやけ始めたため、眉間を揉んでから両腕を上げ、肩の凝りを解した。


 温かい飲み物でも飲んで一息つこうかと立ち上がると、丁度、カルメ達がサニーの自宅へ訪れた。


 中へ招き入れると、二人は室内の温度にホッと息をつく。


「さすがに家の中はあったかいな。おい、サニー、雪下ろし終わったぞ。ん? なんだよ、まだ用があるのか?」


 さっさと家に帰って料理を作り始めようとしていたカルメだったが、サニーの物言いたげな雰囲気を感じ取って、面倒くさそうに眉間に皺を寄せた。


 するとサニーは神妙に頷いた後、

「はい。今、お茶でも用意しますから、お二人とも、そこに座ってください」

 と、対面の席に目配せをする。


 カルメは不思議そうな表情のログと顔を見合わせた後、並んで席に着いた。


 三つ用意したお茶をそれぞれの前に置いて、サニーも着席する。


「カルメさん、ログ、お仕事お疲れさまです。本当に助かりました。ところで、実は私、もう一つお願いがあったんです。よろしいですか?」


 ニコリと和やかにお礼を言った後、サニーはキリッとつり目がちな瞳を鋭くし、重々しい雰囲気で言葉を出した。


 組んだ両手を口元に当てる仕草は議長のようで、その姿は真剣そのものだ。


 謎の威圧感に気圧され、カルメは文句を言うのも忘れて神妙に頷いた。


 サニーは「ありがとうございます」と頭を下げると、真面目な雰囲気のまま口を開くのだが、その内容は、


「お二人には、ぜひとも私の恋を応援していただきたいんです」


 という、正直かなりどうでもいいものだった。


 案の定、カルメは拍子抜けし、


「……恋? なんだそりゃ、阿保らしい。ログ、帰るぞ」


 と、ヤレヤレと首を振って席を立った。


 本当に帰るつもりのようで、ログのセーターの袖を軽く引き、起立を促す。


 すると、サニーが慌ててカルメの腕を取り、縋りついた。


「待ってくださいよ、カルメさん! 私、本気なんですってば。いいじゃないですか! 少しくらい、私にも幸福をおすそ分けしてくれたって。私だって、私だって恋愛したいんですよ!!」


 サニーの悲痛な叫びが室内をコダマする。


 また、縋りついてグイグイと腕を引く力は、彼女にしてはかなり強い。


 目の端には少し涙が浮かんでいて、溺れる寸前のリスが、近くにあったツタにしがみついているかのようだった。


 あまりに必死な様子にカルメはドン引きし、仕方なく話を聞くことにした。


 席に座り直してお茶を啜ると、サニーはコロッと回復し、


「ご協力、ありがとうございます」


 と、にこやかに微笑んでいる。


 その腹黒さと胡散臭さに、カルメとログは苦笑した。


「恋愛したいって言うけど、お前、そんな当てがあるのかよ。この村、恋人いない若い男はもういないんだろ? おじさんでも狙うのか?」


 いくら恋人がほしいとはいえ、浮気や不倫をして他者の関係を脅かすわけにはいかない。


 それに、サニー自身、人のものには全く興味が持てなかった。


 カルメのもっともな質問に、サニーは首を横に振る。


「いや、私、出来れば年齢は自分に近い人が良いですね」


 サニーにオジサマを好む心は無い。


 年上が軒並み駄目なわけではないが、五歳以上も年齢が離れてしまうと、自動的に恋愛対象から外れてしまった。


 年齢が下の場合にも同様である。


「実は、キチンと当てがあるんですよ。以前、カルメさんにお話しした村の七不思議の一つ、深夜徘徊の仮面男さんです」


 この村には、夜中になると何処からともなく現れ、村の中を徘徊する仮面をつけた男の噂がある。


 七不思議というよりはただの不審者の目撃情報なのだが、特にこれといって問題は起こっていないので、噂に関する調査はほとんど進んでいない。


 変わった趣味の村人がいるのだと捉える者もいれば、幽霊なのだと噂する者もいる。


 サニーは一本指を立ててドヤッと笑うが、カルメたちは引いていた。


「お前、いくら彼氏が欲しいからって、そんなわけ分かんねーところに手を出すなよ。どう考えたって、不審者だろ。大体、仮面男って実在すんのか?」


「う、まあ、確かに仮面男さんの人間性は分かりませんが。でも、おそらく仮面男さんは実在しますよ。目撃情報もありますし、それに」


 言いながら、サニーは先程まで眺めていた書類を引っ張り出した。


「これは、村人の名を示した名簿です。一応、機密情報なので中は見ないでください。ともかく、私はここ数日の間、ここにある内容と実在の村人が一致するのか、名簿片手に村を歩いてチェックしていたんですよ。そうしたら、『コール』という、私が一度も見たことのない男性が登録されているのが分かったんです。それが、仮面男の正体ではないかと」


 サニーは、名前だけじゃなくて年齢と住所も登録するように制度を変えようかな、等とブツブツ呟いている。


「この村、名簿とかあったんですね」


「職権乱用のプロだな、アイツ」


 今回のサニーの名簿確認は明らかに職務ではなく、自分の利益のために行っている。


 次期村長としてあるまじき行為だが、サニーはドヤッと笑って、


「村人の把握に努めようとお仕事していたら偶然に知っちゃっただけなので、職権乱用ではありませんよ」


 と、うそぶいた。


 いっそ堂々としたふてぶてしさに、カルメもログも笑う外ない。


「物は言いようだな。なあ、サニー、本当にやめとけよ。正体不明の、夜しか出歩かない仮面付けた変態なんて、いくら彼氏が欲しくても、手を出すべきじゃないって。どう考えても社会不適合者だろ。どうするんだ、私みたいに人間が嫌いで、すぐに人を威嚇する屑だったら」


 呆れもあるが、急に危ない方へ舵を切り出すサニーのことが心配になって、カルメは本気のトーンで説得を始めた。


 自虐の入り込んだカルメの言葉には、一理どころか二理も三理もある。


「ちょっと! 変態かどうかは分からないでしょう。大体、仕方がないんですよ。私は次期村長で、この村からは出られないんです。恋人をつくるには向こうから来てもらうか、村人の中から必死で探し出すしかないんですよ! 不審者でも、危険人物かもしれなくても、私はコールさんに賭けるしかないんです!」


 突如爆誕した恋愛ギャンブラーが、勢いのままにドンとテーブルを叩いた。


 冷め始めたお茶がタプンと揺れる。


 サニーの態度を見て説得を諦めたカルメは、ハーッとため息を吐いた。


「そこまでして、恋人ってほしいのか?」


 恋人を得て、凍えた人生が一転した、幸せ者代表のカルメが呆れ交じりの言葉を出した。


 そこには確実に強者の余裕が出ており、サニーの神経を逆なでする。


「はあ!? カルメさん! カルメさんには言われたくないですよ! あんなに毎日幸せですって顔をしておいて! なんですか、もてる者の余裕ってやつですか!? 羨ましすぎるんですよ!!」


 キレたサニーが机に身を乗り出してガアッと吠えると、カルメは「うわっ」と驚き、ワタワタと慌てだした。


 いつも温厚な人に怒られると、どうしたら良いのか分からなくなってしまうのだ。


 おまけに本気の怒りなので、軽口を返したり、キレ返したりするのも難しい。


「わ、悪かったって。でも私は、ログじゃなかったら絶対にいらなかったし。とにかく誰でもいいから恋がしたい、彼氏が欲しいって思いは、私には分からねーよ」


 少し照れて頬を染め、チラリとログを見れば彼もにこりと微笑む。


「俺も、恋人がほしいだけって気持ちは分かりませんね。カルメさんだから欲しかったので」


 大変可愛らしい純愛だが、付き合う前からそのような心持でいる人間も、それなりに珍しいだろう。


 そうと分かってはいるのだが、サニーは目の前の溺愛夫婦の眩しさに目を潰され、机に突っ伏してギリギリと歯を食いしばった。


「ぐうっ……み、惨めすぎる。次々と村人が唯一を獲得していく中、一人取り残される私の気持ちなんて、そりゃあ、カルメさんたちには分からないでしょうよ。とにかく! 私は! なんと言われようと! 彼氏が欲しいんです! 私だけの彼氏が!!」


 机に額をぶつけたまま、ダアン! ダアン! と拳で机を叩く。


 ここには、これまで彼氏もいないのに女性たちの惚気会合に混ぜ込まれ、空しい思いをして来た屈辱と怒りが存分に詰め込まれている。


 哀れな負け犬に強者が何かを語ったところで、どんな言葉も全力の煽りになってしまうだろう。


 カルメたちはフォローを諦めた。


「まあ、頑張れよ。でも、本当に仮面の変態がとんでもない屑だったり、悪い奴だったりしたら、諦めろよ」


 改めて出された言葉には、呆れとは別に心配が灯っている。


 カルメは素直ではないので、決してサニーを友人と認めてはいなかった。


 だが、実際には、サニーやウィリアはとっくに、カルメにとって大切な友達になってしまっていたのだ。


 それを感じ取って、サニーは苦笑した。


「分かってますよ、カルメさん。私だって、そこまで馬鹿じゃありませんから。好みだってありますし」


「ふーん、どういう男がいいんだ?」


 人差し指を立ててパッと明るく笑むサニーに、カルメは頬杖を突いたまま、胡乱な表情で言葉を出す。


 すると、好みがあるとは言ったものの、具体的な理想の男性像が無いサニーは返答に困ってしまった。


 しどろもどろになりながら、


「えっ!? えーっと、格好良くて、男らしくて、頼りがいがあって、優しくて、イケメンで、なんか、なんか富があって……」


 と、適当に理想とされていそうな男性の特徴を挙げていく。


 そしてそれを、


「紋切型だな」


 と、カルメに切り捨てられ、


「格好良いとイケメンって、同じじゃないのか? あと、村で一番富があるのは、カルメさんか、次期村長のサニーだろ」


 と、ログにツッコミを入れられてしまった。


 トドメを刺され、サニーは先程とは違った元気の無い死体になった。


「あ、おい、悪かったって、元気出せよ。せめて、さっきみたいに暴れろって」


 本当に一ミリも動かなくなってしまったので、死んだのか!? と、カルメが慌ててサニーをつつき、お茶を差し出したりして機嫌を取り始める。


「カルメさん、本物の弱者には優しいんですね……え!? ログ! 何してるの!!」


 そろりと顔を上げたサニーだったが、室内で火打石をガツンガツンと打ち始めるログを見て、大慌てで体を起こした。


 ただでさえ冬は乾燥していて火がつきやすく、火事が起こりやすいのだ。


 いくら側に火種が無く、有事の際には簡単にカルメが後始末できるとはいえ、室内でのそれは正気の沙汰ではない。


 ログは慌てるサニーを見て、ニコッと黒い笑みを浮かべた。


「いや、俺の奥さんに構ってもらって、随分と嬉しそうだな、と思って」


 カルメに酷いことをする人間は燃やし尽くすと豪語しているログだが、彼は火の魔法が使えない。


 そのためだろうか、最近のログは火打石を持ち歩いていた。


 そして火打石が使われるのは、嫉妬と独占欲が暴れ出したログが、主にサニーを威嚇する時だった。


 一応、まだ本当に物を燃やしたことは無い。


「はあ!? ちょっと、火打石カチカチを止めなさいってば。なんでログは私に嫉妬するの! そしてカルメさん! カルメさんは、奥さん呼びにうっとりしてないで、ログを止めてください!」


 こうなったログを止められるのはカルメだけなのだが、あいにく、カルメはログが関わるとかなりのポンコツになってしまうので、


「ログ、嫉妬したのか。かわいいな……」


 と、ポーッとしていた。


 とんだクレイジー夫婦である。


「もう嫌……」


 カルメがベタベタとログを甘やかしだすのを横目に、サニーは頭を抱えた。

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