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ひねくれカルメはログの溺愛が怖い……はずだったのに! ハリネズミと太陽  作者: 宙色紅葉


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25/30

猫カルメ

 夜も更け始め、カルメは自宅で少々堕落していた。


 二重三重に重ねた毛布に入り込み、自分の枕を抱きながら、黙々と何かを読んでいる。


 すぐ近くにはおやつが置いてあり、少し前に夕飯を食べたばかりだというのに、偶に手を伸ばしてムシャムシャと頬張っていた。


『カルメさんが巣を作っている。俺も仲間に入れてもらおう』


 ログも小説を一冊持ってカルメに声をかけ、温かい毛布の中に入れてもらった。


 ピトッとログの手足がカルメにくっつき、ひんやりと体が冷える。


 だが、不快感は無く、代わりに笑いが込み上げた。


 寒がりなログを温めようと、ギュムギュムと抱き着いて体が密着する面積を増やす。


「ふふ、ログ、冷たい。お、それは、この間私が貸した本か。どのくらいまで読んだ?」


「えっと、まだ最初の方ですね。カルメさん似の可愛い魔女は、まだ出て来ていませんし」


 ログが用意したのは、『世界に勇気を』というカルメお気に入りの小説だ。


 辞書のように分厚く、文字の量もかなり多いため、プロローグの部分を読むだけでも時間を要してしまう。


 時間を見つけながらチマチマと読んでいるのだが、冒険の物語だというのに、主人公たちはまだ故郷を出発してすらいなかった。


「いや、私が勝手に魔女に自分を重ねただけだから、似ているわけじゃないが。でも、魔女は割と最初の方に仲間になるからな。もう少し読めば、出てくるんじゃないか?」


 サニーたちとの読書会により、ネタバレをすると怒られるということを学んだカルメが、物語の展開には触れない範囲でそう教えると、ログは嬉しそうに笑んだ。


 なお、ログはあまりネタバレを気にしない派である。


「それは楽しみです。ところで、カルメさんは何の本を読んでいたんですか? もしかして、ちょっとエッチな本でも読んでたんですか? 別に、俺に気にせず、読んでていいですよ」


 ログが隣にやってきた時、カルメが腹の下に本を隠したのが気になったようだ。


 毛布を被ってコソコソとエッチな小説を読むカルメに、後ろから話しかけ、ワタワタと慌てさせるという悪い遊びをしていた時期があるので、警戒されたのかな? とログは首を傾げた。


「ち、違う。今日は読んでない! まったく、ログ、サニーの悪影響を受けちゃったんじゃないか? アイツ、私の旦那の教育に悪いな!」


 少々目元を赤らめて、プクッと頬を膨らませる。


 だが、サニーの影響を受けてチラチラとログの腰回りや胸元などを覗き見、「これが筋肉で、格好良い背中……」と、お風呂上がりのログの背中をペチペチとするようになってしまったカルメのセリフではない。


「悪影響を受けているのは、確実にカルメさんだと思いますが。それなら、一体何を読んでたんですか?」


 照れながらカルメが取り出したのは、ログのアルバムだった。


 ログの実家へ挨拶に行った時に、カルメが楽しそうにアルバムを眺めていたのを見て、メリッサが結婚式の日に持ってきてくれたのだ。


 これを暇な時に眺めてニマニマするのが、カルメの永遠のマイブームだった。


 隠してしまったのは、ログの隣で彼のアルバムにニヤつくのが恥ずかしかっただけのようだ。


「カルメさん、俺のアルバム好きですよね。そんなに何度も見ても、面白くないと思いますが。ちなみに、気に入ってる写真とかってありますか?」


 熟考の末にカルメが指差したのは、幼いログが膝に怪我を負い、痛いと駄々を捏ねて大泣きしている写真だった。


 アイスを頬張って泣き止み、満面の笑みを浮かべている写真とセットで、お気に入りのようだ。


「ええ……もうちょっと格好良い写真か、可愛い写真にしましょうよ。あれ? 碌な写真がないな。姉さん?」


 パラパラといくらページをめくっても、砂や泥で汚れながら、虫やきれいな石をドヤ顔で持っている写真や、家族に悪戯をしている写真、その挙句に怒られている写真ばかりだ。


 カメラ目線の綺麗なすまし顔など、ほとんど無い。


 主に家族の写真を撮っているのは姉のメリッサか、母のサラだ。


 そして、特にログの写真を多く撮っていたのは、彼と年齢の近いメリッサだった。


 実家でのんびりと過ごしているだろう姉に、ログは恨みを飛ばした。


「全部かわいいと思うけど。それにしても、ログは結構やんちゃだったんだな。ふふ、お義母さんが、ドロドロで帰って来たのに、お風呂に行く前に部屋に籠っちゃって大変だった、って言ってたぞ」


 単純におしゃべりをするのが好きというのもあるが、新たなログの情報を得られるというのも、カルメがサラやメリッサと話したがる理由の一つだった。


 だが、ログの方としては、幼く未熟な頃の失敗談や悪戯の話をされると照れてしまい、勘弁してくれ、となることも少なくなかった。


「十二歳くらいを境に、大人しくなりましたけどね。でも、まあ、確かに。なんか、俺の方が恥ずかしくなってきたな。カルメさんは、ちっちゃい頃はどんな感じだったんですか? 荒れ……やんちゃでした? 気性の荒いちびっこカルメさん、かわいいですね」


 カルメが旅を始めたのは十に満たない頃だったが、その頃から目つきと言葉遣いを悪くし、他人に一切懐かない子供だったのだろうか。


 自分にデレッと甘え、心を許してくれるカルメのことはもちろん好きだが、出会った頃の刺々しかったカルメのことも好きだ。


 そのためログは、幼い頃の自分たちが出逢ったら、どのような感じだったのだろうか、ともしも過去に思いを馳せた。


 ワクワクとした様子で問うと、カルメが苦笑いを浮かべながら頬を掻く。


「まあ、確かに、旅を始めた頃には言葉遣いも悪くなっていたが、本当に小さい頃、母親と住んでいた頃は、その、自分で言うのもなんだが、割とかわいい感じだったぞ。あんまり外にも出なかったし、凄く人見知りで怖がりだったから、本やぬいぐるみを抱えてモジモジしてた。カリンっていただろ、あの子みたいな感じだ」


 このような事情から、カルメはカリンに親近感を抱き、気に入っていた。


 クラムと同じように魔法を教えたり、一緒に遊んだりと世話を焼いていて、少しずつ打ち解けており、最近では、生贄ではなくプレゼントとしてユキウサギを貰えるようになっていた。


 それらは、診療所や自宅の前に並べて大切に飾ってある。


「へえ、意外っていうのも悪いかな。でも、きっと、大人しいちびっこカルメさんも、可愛かったんだろうな。写真とかは、無いですよね」


「そうだな、無いと思う。あー、おじさんのとこにはあるかもしんないけど、私、あの人の家が何処なのか、分からないんだよな。元気かな……」


 カルメは母親に捨てられてから数日間、湖の畔に住んでいる中年男性に面倒を見てもらい、そこで暮らしていた。


 金銭的に豊かだったアルメとの暮らしに比べれば不便は多かったが、そこでの暮らしは温かく穏やかで、カルメはその男性を父親のように思っていた。


 だが、ある朝、唐突に食器を投げつけられ、「出て行け」と怒鳴られてしまった。


 酷くショックを受けたカルメは男性から教わった罵詈雑言を彼に浴びせ、泣きながら家を飛び出した。


 既に一度、親に捨てられているカルメだが、母親と違って、男性も自分のことを娘のように思っていることを感じていたため、感覚としては初めての裏切りに近い。


 だからこそ余計に追い出された理由を理解できず、ただひたすらに悲しくて、酷い苦しみに苛まれた。


 何度も悪夢を見た挙句、自分は母親にすら捨てられる欠陥品だから男性にも追い出され、誰にも愛されることは無いのだと考え至ってしまった。


 しかし、ログと共に生活してだいぶ心も回復してくると、恐怖や怒りにおされてすっかりと消えてしまっていた、楽しかった記憶や嬉しかった記憶が返って来た。


 その中には、数枚写真を撮ってもらって、自分もお返しに男性の写真を撮ってあげたという記憶もあった。


『帰りたいな、っていうのも変な話かもしれないけど、でも、ログと一緒に帰ってみたいな。ログが、私を連れて里帰りしたみたいに。私の故郷があるとするならば、きっと、アルメの家じゃなくて、おじさんの家なんだろうから。ログの自慢をしたいし、幸せになったって、言ってやりたいんだ。まあ、おじさんは、私に会いたくないかもしれないけれど、でも……』


 最近では、カルメの夢の内容にも変化が生じているのだが、その中に、やけに記憶に残り、気になるものがあった。


 それは、泣きながら家を飛び出したカルメの後ろで、


「俺の真似だけはするな」


 と、男性が叫んでいた記憶だ。


 その声はやけに大きく、震えていた。


 その後、何度もごめんと謝っていた声も、確かに耳に届いていた。


 今思えば、男性はきっと泣いていたのだろう。


「元気だといいですね」


 カルメはコックリ頷くと、ログにペターと引っ付いて暖をとった。


 心が寒くなるほどの冷えでもなければ、さほど寂しくなったわけでも無い。


 だが、ほんの少しセンチメンタルな気分になる程度でも、あるいは特に理由などなくとも、くっつくのを受け入れてくれる人がいるのだと思えば、何も怖くは無かった。


 加えて、ログは甘やかしたがりなので、彼の方もホクホクとしている。


 今ならば、多少のおねだりは何でも聞いてもらえそうだ。


「なあ、ログ。春になったら、ログの実家に遊びに行きたい」


 結婚式の日、カルメの衣装を整えて髪を結ってくれたのは、メリッサとサラだった。


 準備中は和気藹々としていて、三人でかしましくお喋りをしたりしていたのだが、その時に二人から、温かくなったら遊びにおいで、と誘われていたのだ。


 特にサラが乗り気で、カルメと街へお出かけに行ったり、カードゲームで遊んだり、自分の子供をみせたりしたいのだと言っていた。


 カルメの方としても優しいログの家族は好きであるし、前回は完全にお客さんとして遊びに行ったので、今回はログの妻として実家に訪れ、料理を手伝ったりしてみたかった。


 それに、生まれて初めて得た甥や姪の存在も気になる。


 旦那の実家など面倒で、避けたがる者が大多数だろう。


 だが、まともな家族がいなかったカルメにとっては、多少の気疲れを起こすことになろうとも、彼女たちの仲間に入れてもらうことは憧れだったのだ。


 しかし、それにはログが渋い顔をし、明らかに不満そうだ。


「ログ、遊びに行きたい」


「……」


「ログー!!」


 ログは無言の否定を続けており、ペシペシと軽く叩いてみても、揺さぶっても、うんともすんとも言わない。


 実は、カルメはもう何度も実家に遊びに行きたいという提案をしていて、その度に無言で拒否されていた。


 拒否理由は、以前にサニーが指摘した通り、自分に似た人間がカルメの近くにいるのが嫌だからだ。


 特に、ログとメリッサは好みや性格に似ている点が多く、姉が楽しそうにカルメを構い、カルメの方も嬉しそうにしているのを見ると、激しい嫉妬と独占欲が湧きあがった。


 カルメは決してログをないがしろにしないことや、嫉妬の相手は姉であることなど、そういった様々な理屈が、一切通用しなくなってしまう。


 祝いの席なのでやらなかったが、メリッサがお姉さんぶってカルメの世話をしているのを見ると、つい、火打石をカンカンと鳴らし、威嚇してしまいたくなった。


 絶対に堪えられなくはないし、ログも実家そのものは好きだ。


 だが、それでも、できれば里帰りは遠慮したかった。


 一方、このままではいつものように拒否されて終わりになってしまう、ということを学んだカルメは、少し躊躇した後に、部屋着の袖を引っ張って意図的に萌え袖を作り上げた。


 そして、猫の手のように軽く握った両手を顔の隣に配置し、にゃん、と軽く振りながら、


「ログー、ログの実家に行きたいなー…………にゃぁー……」


 と、モソモソと小さな口を動かした。


 あまりにもあざとく、わざとらしい可愛い子ぶりっこだ。


 どうした!? どこかに頭でもぶつけたか!? と、カルメを揺さぶってやりたいところだが、彼女は正気である。


 正気であるが故に、頬を燃えそうなほどに赤く、熱くして、瞳を潤ませながら、ログが何か言葉を返すまで、にゃぁー……と、か細い声で鳴き真似を続けている。


 ログはバキッと固まって、しばらくカルメを凝視し続けた。


 突然だが、ログは猫が好きで、飼えば猫様の奴隷になるタイプの人間だ。


 そして、カルメが稀にふざけて猫の真似をするのを、心の底からありがたがっている。


 そのため、あざとさが露呈していても、カルメの可愛い子ぶりっこする姿に心が惹かれてならない。


 そして何よりも、ぶりっ子しながら、嫌だ、恥ずかしいと羞恥心で泣き、自爆であるのに、何故、私はこんなことをしているんだ!? いつまで続ければいいんだ!? と困惑して、今にも止めたそうにしているのに結局止められない、というシチュエーションが尊い。


 これでログをつれるという確証がなくて、チラチラと顔を窺っているのも良い。


 二重、三重にログの性癖を射抜いてくる。


『誰だ、俺のカルメさんにこんな悪いこと教えたのは! 絶対サニーだろ! アイツ、本当に俺の奥さんの教育に悪いな! でも、ありがとう!!』


 ニヤニヤと笑んで激しく頷いてしまいそうになるが、このまま策略に乗るのも少々癪だったので、ログは無言でベッドの下から小箱を取り出した。


 そこに仕舞われているのは、秘蔵のアイテム、猫耳と尻尾である。


 猫耳の方はカチューシャになっており、尻尾の方は布製の簡易なベルトを腰に巻いて、楽に装着できるようになっている。


 製作者はコールだ。


 コールの冷たい視線にもくじけず、土下座をせんばかりに頼み込み、店番を手伝ったり、内職をしたりして得た金を全てつぎ込むことで、ようやく手に入ったログの家宝だ。


 ログのしようとしていること、それは性癖の深堀だった。


 ここぞとばかりに便乗して、


「カルメさん、この二つを身に着けて、明日の出勤まで猫語を使ってくれたら、実家に連れて行きますよ。あ、ちなみに、猫語を使っている間は敬語、一人称は『カルメ』で、俺のことは、ご主人さ……いや、ここはあえて、あえて、ログでお願いします」


 と、どこまでも性癖を追うつもりなのだ。


 浮かべているのは黒っぽい悪い笑みではなく爽やかな微笑みなのだが、その背後にほの暗いオーラを漂わせており、余計に変態性が増す。


 確実にアレな趣味なので、ログはいつ性癖を暴露したものかと悩みながら、オーダーメイドの猫耳たちをベッドの下に忍ばせていた。


 そのため、カルメへのお披露目は今回が初である。


「ロ、ログ!? え!? 何事だ!?」


 そもそも仮装の概念が薄く、急に与えられた情報についていけていないカルメは激しく混乱し、ログと猫耳たちを交互に見ている。


「カルメ、猫語」


 意図的に瞳に意地悪と愛情を滲ませると、やけに犬歯が鋭く見える口元を歪め、低い声を出して気を引く。


 そして、少しずつ彼女との距離を狭めていった。


「ため口になってるし! 正気なのか!? 私がそんなんつけてどうするんだ! ログ、止めよう、双方怪我をするだけだって。ちょっ、止めろって、ログ! 駄目だって!」


 そっと頭にカチューシャを乗せてくるログに必死で抵抗しつつ、カルメは困惑の涙目で訴えた。


 だが、ログは頑として首を縦に振らない。


「嫌だ。俺はカルメが猫の仮装をして、猫の真似をし、敬語を使いつつも強気に振舞って羞恥心で泣き、弱り切って甘える姿を楽しむまで、ため口を止めないし実家にもいかない!!」


 何かが吹っ切れてしまったログは、凄まじい覇気を放って宣言した。


 全身から、魔王に挑む勇者のような覚悟と気迫が溢れているのだが、彼が大切そうに握り締めているのが、両手剣と盾ではなく、猫耳と尻尾であるからどうしようもない。


「ログ!? そ、そんなことあるのか!? じゃ、じゃあ、ログ、私だけ恥ずかしいの嫌だから、ログも猫耳と尻尾を付けてくれ、それなら……ログ!?」


 流石のログも断ってくれるだろうと予想しての言葉だったのだが、彼の性癖にかける想いと情熱を舐めてはいけない。


 ログはカルメの提案を既に予想していて、同じような物を、もうワンセット用意していた。


 躊躇なく装着すると、ログは自慢げに腕を組んだ。


 カルメに手抜きをしているなどと文句を付けられ、万が一にも猫耳から逃げられてしまわないよう、自分の分もかなりこだわって作ってある。


 そのため、ログの髪と同じ色をした猫耳は彼の頭によく馴染み、ピョコンと本当に生えているかのようだった。


 ちなみに、カルメの分を作ってもらう時より、自分の分を作ってもらう時の方がコールの視線は冷たかった。


「なあ、カルメ。俺はちゃんと身に着けたよ。出来ればため口で猫カルメに接したいけど、カルメが望むなら、俺も猫語を使ってもいい。それくらいの覚悟なんだ。なあ、頼むよ。気が強い系猫カルメに意地悪をしつつ甘やかすという、俺の永遠の夢を叶えさせてくれ」


 ゆらりと怪しく尻尾を揺らめかせ、猫耳を片手にグイグイと迫った。


 猫に扮した成人男性が、妻に猫の仮装をさせたいがために必死になっている、という酷い絵面だ。


 発言内容も相まってかなり気持ち悪く、紛うことなき立派な変態である。


 ここにサニーがいれば、グーで殴ったことだろう。


 だが、カルメには、このおよそ可愛いとは言い難い姿の変質者が、かなりかわいらしく、かつ格好良く映ってしまっていた。おまけに、


「なあ、カルメ、本気で嫌か? 傷つくか? こんな趣味の俺は、嫌いになってしまったか?」


 と、しゅんと落ち込んで項垂れ、捨てられる寸前の動物のような瞳で覗き込まれれば、どうしようもなく心臓が高鳴る。


 甘やかしたい、安心させたいという心が勝って、


「ログ、それは反則だって。大丈夫だよ。別に傷ついたわけじゃないから。恥ずかしいし驚いたけど、でも、こんなことでログのことを嫌いになるわけないだろ」


 と、頭を撫でて引っ付いた。


 罠にかかってしまった。


「良かった。それなら、ほら」


 ログはニコッと微笑むと、丁度良く自分の胸元に飛び込んでくれたカルメを捕獲して、抵抗される前にカチューシャとベルトを付けた。


 そして、あっという間に可愛らしい猫カルメが完成する。


 材料からこだわり抜いたそれらはカルメの髪と全く同じ色をしており、ログの物と同様によく馴染んで、本当に猫の耳が生えているように見える。


 また、ペタンと可愛らしく座る太ももの上には、腰から生えた尻尾がゆるりと寝そべっていた。


 顔面はもちろんのこと、全身が真っ赤に茹っていて、指先や足の先までほんのりと桃色に染まっている。


 激しい羞恥を感じるとともに、何故こんなことになってしまっているのか、とかなり困惑しているようだ。


 だが、意外と真面目なカルメは、この姿になった以上、猫の真似をしなければいけないと思っているらしい。


「ログ! 恥ずかしい! です、にゃぁ……カルメはもうすぐで、二十一歳になります、にゃぁ。大人がしていい事じゃない! ですにゃぁ。せめて、今日、眠るまでにしてもらえませんか、にゃぁー」


 チョイチョイと猫のように丸めた両手を振り、大きな瞳を涙で潤ませた。


 睨みがちになって怒っているが、少しよれた部屋着を着ていることや、愛情と意地悪をドロッと瞳に溶かして歪ませる、甘い目つきにたじろいでいることによって、むしろ弱々しく見える。


「最高だ、カルメ。やっぱり明日の夜までにしよう。外出中はやらなくていいから。そうだ! サニーの所から撮影の魔道具も借りてこよう。猫カルメなんて、今世で一回しか見れないかもしれないから!」


 ログは興奮で鼻息を荒くし、ニタリと嗜虐的に笑む口元を大きな手のひらで覆った。


 きっと、彼も脳内でパレードを開いているのだろう。


 テンションが上がりすぎて、話が良からぬ方へと進んでいる。


「どうして延びたんだ!? ですかにゃぁ!? 駄目だ!! ですにゃぁ!」

 ギョッとしたカルメが、ブンブンと首を振って断固拒否するが、そこで食い下がるような弱い心をログは持ち合わせていない。


 スッと正座になったログは、


「頼むカルメ! サニーから教えてもらった土下座をしてもいい。それだけの価値がここにある!! 頼む! 明日の夜まで! 頼む!!」


 と、潔く頭を下げて、教科書に載るような立派な土下座を繰り出した。


「アイツ!! ログもログですにゃぁ! この変態!」


 シャアッと子猫が威嚇するように怒ると、その姿に大興奮の変態が、


「カルメ、もう一回!!」


 と、おかわりを要求した。


 一人変態がいると、その他の者も染まってしまうのか、あるいは変態に勇気づけられて性癖をさらすようになってしまうのか。


 サニーに続いて、ログまでド変態になってしまった。


 しかし、結局、翌日の眠る瞬間まで散々な目に遭わされたカルメの感想が、


『でも、猫の格好してるログは、意地悪で、カッコかわいかったな……』


 であるから、この夫婦は、もうどうしようもないのだろう。

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