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1.

pixivにも同様の文章を投稿しております。


(ゆるふわ設定なので、細かいことは気にせずふんわり読んでいただけると助かります)

 見ていても別に楽しいわけではないのに、なぜか足を止めて見てしまう。彼女の一心不乱な様子が、かわいらしいからかもしれない。

 創介は、目の前のロリータファッションの少女を見つめる。大通りから少しだけ外れた夜の路上で、彼女は目をきつく閉じて、激しい動きで赤いタンバリンを打ち続けている。

 底の厚い、かかとだけをそっくり取り払ったみたいなまるっこい妙ちきりんな靴で、彼女は上手にタンバリンを打ち鳴らしながら、軽やかにステップを踏む。カラオケ店によくある感じのものではなく、ちゃんと皮を貼ってあるその楽器は、なんだか懐かしい気持ちにさせられる。

 突っ立って眺めていると、ふと、となりにしゃがみ込むグレーのパーカーのフードを目深にかぶった人物が気になった。さりげなく顔を確認する。パーカーの人物の視線は、目の前のロリータタンバリン少女に釘付けになっていた。

 こいつ確か同じ大学だ。創介は思う。学部は違うけど英語の授業がいっしょだ。よく目が合うから顔を覚えてしまった。それに、名前も。周りから呼ばれている名前が変わっていたから、覚えている。音しか知らないから勝手に字をあてていた。説明の「説」に「也」で、

「せつや」

 もれた呟きに、となりでまんまるくしゃがんでいたパーカーがもそりと動いた。その視線が揺れて、上目遣いに創介をとらえる。

「なに、おまえ。馴れ馴れしい。なにいきなり下の名前で呼んでんの」

 説也は鋭い声で言いながら、深くかぶっていたフードを後ろに落とす。あれ、と思う。

「髪切った?」

 創介は、思ったことをすぐに口にする。説也は、ゆるくパーマのかかった長めの髪型だったはずだ。それがいまは、おかっぱというか、つやつやしたキノコみたいな髪型になっている。色も、黒だったのが茶色になっていた。

 説也はむすっと創介をにらみつけ、「切られたんだよ」と、なげやりな感じで言う。

「髪切ったやつにマメに声をかけるやつなんか、だいきらいだ」

 そう言って、説也はロリータタンバリン少女に視線を戻す。

 赤いタンバリンが激しく揺れる。

「切られたって、誰に?」

 創介は尋ねる。無理矢理に髪を切られたというのなら、なんだか不穏だ。

「兄貴に」

 ぼそりと返事があった。

「お兄さん?」

「美容師でさ、時々おれを練習台にするんだ」

 不機嫌な声で、説也は言う。心配したような不穏な案件ではなく、創介はこっそりと安心する。

「佐藤栞里みたいにしてください」

「ん?」

「これは、あのころの佐藤栞里みたいにしてくださいって、女性客に言われた時用の練習。しかも失敗しやがった」

「ああ、あのころの」

 確かに、説也の頭はあのころの佐藤栞里に見えなくもない。しかし、どちらかと言えば、やはりキノコだ。

「明日、大学行きたくない」

 陰鬱な表情で、説也は俯いた。

「女子か」

 創介は少し笑う。

「樋口」

 名前を呼ばれ、一瞬怯んだ。説也が自分の名前を知っているとは思っていなかったのだ。

「おまえ、おれが髪切ったこと誰にも言うなよ」

「いや、その姿を見たら誰にでもわかるだろ。俺が言わなくても」

 創介が言うと、説也は舌打ちをした。

「説也」

 髪型など気にするな、そんなに変じゃない、むしろオシャレに見えなくもない。慰めの言葉をいくつか考え用意していたら、

「名前で呼ぶなよ。おまえ、おれの友だちかよ」

 説也はまた舌打ちをする。そうは言っても、名字を知らない。創介は黙る。

 説也は再びフードをかぶり直して立ち上がった。そして、創介のほうを見もせずに歩いて行ってしまう。創介は、ぼんやりとその後ろ姿を見送った。

 目の前のロリータタンバリン少女がにっこり笑う。

「たたきますか?」

 差し出されたタンバリンに視線を落とし、創介は首を横に振る。

ありがとうございました。

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