3代生きれば、その国の人
仲間たちが次々に倒れていった。
ある者はC国の女スパイのハニートラップで。
ある者はコウガのクノイチの唇に触れ、猛毒の苦しみに悶絶しつつ。
幼い頃から国の機密を守る者としての訓練を受けてきたが、ぼくらには戸籍がない。
親もいない。
伝説となった公安のエージェントの遺伝子をもらい、研究所で生まれ、研究所で育てられた。
だがしかし、その遺伝子には欠陥があったようだった。
同胞でもあり、兄弟のようでもある仲間たちは、みな女性との関わりで失墜してきた。
このままでは、ぼくも危うい。
R国への潜入を前にして、不安に駆られる。
最長の兄でもある管理官に相談しても、計画の変更はなかった。
「安心して、死んでこい」
たしかにエージェントとして、任務の過程での死は栄誉かもしれない。
同じくR国に潜入しているというA国の女性エージェントと現地で合流する。
彼女とは心を許し合い、生死を共にする覚悟で臨んだ。
任務なので、家族として、彼の国で家庭も築く。
特に制限もされず、指示もなかったので、子供も生まれた。
もちろん、お互いの組織には報告してある。
むしろ、その子達が、次世代の構成員としての任を受けるらしい。
ある夜、夫婦となったぼくらは、そのことを話し合った。
お互いの国の平和が守られ、潜入したこの国も長い時間をかけて、内側から変えられていくのだろうねと。
ぼくは幸せを感じた。
任務の過程で失敗していった仲間たちのことも忘れない。
もしかすると、彼らは、ぼくらと同じように、それぞれの国で根を張るための工作の中なのかもしれない。
使命の中で生きるとは、きっとこのようなものなのだろう。