表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来栖貴志くんは嫌われ者です  作者: 結城智
第2章 サッカー部の陰謀を解決せよ!
14/39

第13話 サッカー部の崩壊

 その日の夜、二通の封書を書いた。


 一通目は沢村宛。


『サッカー部における喫煙・一年への暴力を把握しています。あなたがそれを知りながら、処理している事実も。明日16時、三年と二年の全員を視聴覚室に集めてください。証拠映像は十分。下手をすれば、あなたの教師人生はそこで終わります』


 これで顧問は動く。呼び出さざるを得ない。


 二通目は小林宛。

 文面はまったく別物だ。鍵は彼。彼の演技を、こちらの台本に乗せる。

 ――サッカー部を潰さずに止める。そのための一手として。

 封を閉じ、ポケットへ押し込む。

 

 明日は、駒が動く音を聴く日だ。




 約束の十分前。視聴覚室の前はざわつき始めていた。二年と三年だけが呼ばれているらしい。


「沢村、なんだって呼び出しだ?」

「さあな。三年と二年だけ、だそうだ」

「嘘だろ。まさか、あれか?」

「落ち着け。それに、沢村は見て見ぬふりって話だ」


 俺は隣の空き教室で耳を澄ませていた。やれやれ、顧問の隠蔽は半分バレている。


「何を始めるのかしら?」


 耳元で色の薄い声。振り向くと、八重桜が膝をついて同じ高さで身を潜めていた。距離、近い。


「お前、なんでいる」

「あなたの動きがいつもより人間だったから。尾行しただけよ」

「……小日向は?」

「連れてこようとしたけれど、消えていたわ。いい子はよく逃げるの」


 肩の力が抜ける。だが彼女は続ける。


「で、どうせ『来るな』って言うんでしょう? 却下。これは私の依頼。あなた一人に悪役を押しつける趣味は、持ち合わせていないの」

「……八重桜」

「それに、楽しそうだもの。独り占めは感心しないわ」


 最後は視線をそらして小さく。はいはい、本音はそっちね。

 十六時。俺と八重桜は扉を開けた。三十人前後の空気が、ざわりと揺れる。


「誰だ、あいつ」

「女の方、八重桜じゃね?」


 二年の何人かは俺を知っている。だが視線はほぼ全て八重桜に吸い寄せられた。そのまま、俺たちは壇上に上がる。


「――お集まりいただき、ありがとうございます。まずは上映会をいたします」


 余計な前口上は不要。


 俺は集まった人の反応もお構いなしに、動画を再生させた。

 十秒で数人の顔が凍り、終盤、沢村の指先が床の吸い殻を拾う場面で、全員の目玉が一斉にそっちへ動く。顧問、自分で証拠回収。実にわかりやすい。


 音はない。いい反応だ。映像を落として、俺は片方だけ口角を上げた。


「いかがでしたか。胸糞の悪いショートムービーでしたね。お楽しみいただけましたでしょうか?」

「お、お前、盗撮だろ! 犯罪だ!」

「そうだ。警察呼べ! 退学だ!」


 最初の野次は読み通りだ。

 俺は肩を竦め、わざとらしく俯き、すぐ顔を上げる。


「そうですね。警察でも教育委員会でも呼んでください。一緒に地獄に落ちましょう」


 途端に息が止まる。顧問に向けて、軽く顎をしゃくった。


「沢村先生。悪い生徒がここにおります。お好きな機関へ、どうぞ」


 沢村は無言で視線を逸らす。そこで、低い声が場を割った。


「……条件はなんだ」


 小林慎二。サッカー部部長。鍵はこいつだ。


「三年生は全員、本日付で退部してください。以後、部室にもグラウンドにも近寄らないこと。どなたか一人でも破られた場合、連帯責任で即時拡散します」


 一拍。ざわめきが爆ぜる。


「ふざけんな!」

「全国がかかってるんだぞ!」

「お静かにしていただけますか」


 俺はパイプ椅子を横蹴りにして、金属音で騒音を叩き潰した。弁慶が悲鳴を上げたが、顔には出さない。きっと、悪役は痛がらない――はず。


「全国がどうこうは俺には関係ない。選択肢は二つのようで、一つです。ご理解いただける方は、いま頷いてください」

「拒否したら?」


 小林が温度を測る目で訊く。


「映像一式を外部へ提出するだけです。校内は信用いたしません。外側から固めます」

「……そしたら、部は活動停止で廃部だな。俺たち三年は全員、人生終了コース」

「そうですね。小林先輩のプロの夢も、灰皿のように踏み潰されますね」


 三年の顔から血が引く。ひとりが苛立って前に出かけ――隣に抑えられる。いいね、その小刻みな肩。恐怖は正しく伝わっている。


 小林が短く息を吐いた。


「沢村先生。飲みましょう」

「いいのか、小林。お前はプロの話――」

「流出したら、プロどころじゃないです。俺たちは終わる。先生もただじゃ済まない」


 理屈は冷たく、正確。三年の喉がまとめて鳴る。後列の二年が小声で囁いた。


「確認いたします。以後、接触禁止。どなたかお一人でも破られましたら、全員ご一緒に道連れです。お名前で検索なさったとき、一生あの動画が最上段に出てくる地獄を差し上げます」


 出ていきかけた小林が踵を返す。


「来栖、だったな。最後に一つ。誰かに頼まれてやったのか?」


 二年にどよめき。音無だけが無表情でこちらを見ている。


「残念ながら、俺に頼むやつなんていないですよ。一年にも二年にも友人はゼロです。疑うなら、アンケートでもとったらいいです。来栖と友達ですかと」


 自嘲は事実、武器にもなる。


「なら、なぜだ」

「見世物が好きなんです。高みにいる方を引きずり下ろす瞬間というのは、最高に絵になりますんで。それと、うるさい栄光の合唱は苦手なんです」

「なら全部ばら撒いて潰せばいい」

「簡単に壊したらつまらないでしょう。三年が抜けた白銀がどこまで落ちるか……ゆっくり、楽しませていただきます」


 二年の列がざわつき、「クズだ」と吐く声。俺は肩をすくめ、小さく笑った。悪役に似合う反応だ。

小林は二年へ振り向く。


「聞いたな。俺たちは降りる。だが――勝て。阿久津、音無、お前らが引っ張れ」


 それだけ言って、あっさり背を向ける。去り際、他の三年も「悪かった」「勝てよ」とだけ残して消えた。最後だけ、先輩面だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ