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7 意思疎通の難しさ

食事が終わり、先ほどの会話の続きを始めようするとソファーへと促された。それ自体は構わなかったのだが、魔王は当然のように佑那の隣に腰を下ろした。


何故、横並びで座る?


思わず心の中でツッコミをいれてしまった。普通こういう場合は対面に座るものだと思うが、魔族とは習慣が異なるのだろうか。しかも無言で見られているものだから、居心地悪いことこの上ない。

「お話したいことがあります」

気まずさを振り払うように、佑那は覚悟を決めた。


魔王は無言でうなずくが、いかんせん距離が近い。話しにくいので、と断って対面のソファーに移ろうとするが間髪入れずに止められた。

「ここで良い」

あなたは良くてもこっちは良くないんですけど…。


もちろんそんなことは口には出せず、諦めて佑那は居住まいを正した。

「近年フィラルド王国内で魔物が多く現れるようになったのは、何故ですか?」

「魔物どもが勝手にしていることだ」

自己責任的な?ちょっとそういうの良くないと思いますよ。


「何故止めないのですか?」

「止める必要がない」

「…必要がないって、どうしてですか? そのせいで人間も魔物も双方犠牲者が出ていると聞いています」

「構わぬ」


話が進まない!!っていうか両方に被害が出てるなら止めようよ、国のトップが放置したらそれは怠慢だよ!

内心苛々していたが、議論に感情を持ち込んだら負けだ。感情よりも理論、交渉には冷静さが必要だと言い聞かせて、質問を続ける。


「私を攫った理由は、争いを煽るためですか?」

「それは違う」

これまでになくきっぱりと否定する魔王に、佑那は少し戸惑う。

「先ほどあなたがおっしゃった私を攫った理由がよく分かりませんでした。私の立場を利用するのでなければ、どうしてですか?」

「そなたは、他の人間と違うように思う」


思わぬ返事に佑那は身をこわばらせた。他の人間との違い、それは異世界の人間だということだが、バレたのだろうかと冷や汗が伝う。

焦る佑那をよそに魔王は佑那の左手をとると、手の甲に軽く口づけを落としてそのままペロリと舐めた。


「ひゃあ…。何するんですか!」

手を振りほどいて叫ぶ佑那の脳裏にウィルに教えられた知識が脳裏をよぎる。

『魔物の中には人を餌として見なす凶暴なものもいる』


……もしかして、そのために攫われた? 私、食べられちゃうの?


恐怖で涙目になった佑那に魔王はぽつりとつぶやく。

「駄目か?」

「だ、駄目です。嫌です」

震えそうになる声で拒否する佑那には、それが何に対してか聞き返す余裕などなかった。


魔王は考えるように少し首をかしげると、今度は佑那の頬を指でなぞる。その指の冷たさと脈絡のない行為が恐ろしくて、我慢できずに立ち上がり距離を取った。

コミュニケーションが微妙にかみ合わず、理解できないことが怖い。

「座れ。そなたが嫌がるならせぬ」


何故、何故、何故。

分からないことばかりだった。尊重されているのか、揶揄われているのか、魔王の言動に振り回されて苛立っていたのだと思う。

「だったら、魔物がフィラルド内に侵入するのをやめさせてください!」

一瞬の沈黙が下りる。


これ、言ったらダメなやつだ…。いくら何でも子供の喧嘩じゃあるまいし、そんなことで止められるわけないのに……。


「…分かった」

後悔と焦りで混乱していた中、返ってきた言葉に佑那は耳を疑った。

風鈴のような軽やかな音がして間をおかず、アーベルが現れた。

「お呼びでしょうか、陛下」

「今後魔物がフィラルド王国へ侵入することを禁ずる。徹底しろ」

一瞬細い目を見開いたアーベルだが、すぐに承諾しうやうやしく礼をして部屋を後にした。


「……どうして?あなたは先ほど構わないと言っていたじゃないですか」

あっさりと承諾した魔王に佑那は恐る恐る尋ねた。

「我は構わなくともそなたが構うのだろう」

そうだけど、そういうことを聞いているのではなくて。


「どうして私の願いを聞いてくれるのですか?」

「そなたの願いを叶えてやりたいと思ったからだ」

……また意思の疎通がずれてきた。


魔王が佑那の願いを聞く義務はない。しかも何の条件もなしにごくあっさりと承諾するなんて納得できなくて当然だと思う。魔王が考えていることがちっとも分からない。


…実はいい人でした、なんて話じゃないよね。


そこまで考えて佑那はまだ魔王にお礼を言っていないことに気づいた。どんな思惑があるにしろ、願いを叶えてもらったのは事実だ。

「…願いを聞き届けてくださってありがとうございました」

そう言って、佑那は深く頭を下げた。


魔王が頭上で何か小さくつぶやく声がして、聞き取れず顔を上げると抱きしめられた。

どうしていきなりこうなるのか、本当に行動が読めない。身をよじって逃げようとする佑那の耳元で魔王が囁く。

「姫、そなたに叶えてほしい願いができた」


それはまるで悪魔の囁きのようで嫌な予感がする。やっぱり何の思惑もないわけがなかった。先に願いを叶えておいて後で自分の要望を通すなど卑怯とまでは言わないが、意外としたたかな性格らしい。

「我と結婚してほしい」


どうしてそういう話になるんだ!


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