表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喚ばれてないのに異世界召喚されました  作者: 浅海 景


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/46

42 密談

苦しそうな表情を浮かべているものの、安定してきた寝息に安堵する。目じりの涙を拭ってシュルツはようやく身体を動かした。勝手に寝室に入ってこない気遣いを見せているのだから、それに相応しい態度を返すべきだろう。


ドアを開ければフィラルドの魔導士が険しい表情を浮かべて立っている。階下のリビングに場所を移したのはユナへの配慮からだ。この魔導士がユナを大切に思っていなければ、託すという選択肢はなかったから、自分の見込み違いでなかったようだ。

普段の様子から分かっていたことだが、自分を前にしてもその態度が変わらなかったことで確信を深めていた。


「貴方はユナをどうするつもりですか?」

単刀直入な聞き方は嫌いではない。

「ユナを幸せにする。そのための障害を全て排除するだけだ」

「貴方がそれを言いますか?現在ユナを苦しめているのは貴方でしょう」


泣きながら自分の名前を呼び求めてくる姿に心が揺さぶられる。それでもユナの幸せを思えばと身を引き裂かれるような思いをしながら離れたのだ。優しすぎる彼女が心を痛めないように。


「…いずれ忘れる」

傷がいつしか癒えるように、どんなにつらい事もいつかは過去になる。新しい生活や出逢いは彼女を癒し過去に目を向けるよりも前を向いて進み始めるだろう。


ずっと射殺すような視線を向けていた魔導士が、わざとらしくため息を吐いた。

「では俺がユナを欲しても構わないと――」

魔導士の言葉が不自然に途切れた。膝をつき苦しそうに顔を歪める姿を見て、無意識に魔力を放ったことに気づく。深呼吸をして魔力を制御するとふらつきながらも魔導士が立ち上がり、シュルツを睨んでいる。


覚悟しているつもりだった。ユナの幸せを望む以上、将来自分以外の男を想い愛し合う未来も受け入れなければならないことを。それなのにその可能性を示唆されただけで取り乱してしまう自分の未熟さを露呈してしまった。

「ユナがそれを望むなら」

「……本当に?手放すことができず、こうしてユナに会いに来ているではないですか」


今夜は随分と踏み込んでくる。怪訝に思ったシュルツだが、すぐにその理由が分かった。

「ユナが危うい状態であることを貴方は本当に理解しているのですか?今日だって怪我をしても頓着せずに放置して、あれは自分を蔑ろにしている証拠です。俺はユナが故意に傷付けたのかと思って、生きた心地がしませんでした」


その様子はシュルツも家の外から見ていた。虚ろな目でぼんやりと傷口を見ていたかと思うと、自分の名前を呼びながら泣き出したのだ。駆け付けたい思いをこらえて、ただ見ていることしか出来ない自分に苛立った。

「……ユナは強い。今はまだ心が揺れているが、王都に戻れば自由も豊かな生活も手に入る。――進捗の報告を」


感傷を断ち切るようにシュルツはウィルに冷ややかな声で告げる。

「こちらはほぼ完了です。バカ殿下には告げていませんが、未だ婚約者の身。陛下とは水面下で合意を取れておりますので、問題ありません。最悪、黙らせる材料も手に入れましたので」

ユナの前では清廉潔白そうな顔しか見せていないが、この魔導士は策士でありなかなか腹黒い。


「ならばよい。しばし待て」

一方的に告げるとシュルツは一瞬で姿を消した。高位の魔族でも難しく詠唱なしで転移を行える者など魔王以外にいないだろう。


一人残されたウィルはソファーに倒れ込む。毎回強い魔力に当てられる上に極度の緊張を強いられるのだから、無理もない。

「まったく、何を拗らせているのやら。本当に仕方がないですね」

こんな風に魔王と密談をする羽目になるとは思ってもいなかったが、おかげで随分と収穫があった。


フィラルドの未来と大切な少女のためにウィルはある決断をしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ