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喚ばれてないのに異世界召喚されました  作者: 浅海 景


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39/46

39 願いの結果

会議が終わり晩餐の支度が整えられた。

「陛下」

諫めるようにアーベルが呼び掛けても主は顔色一つ変えない。


「何だ?」

絶対に分かっている癖に平然とした態度に本人よりも姫のほうが慌てている。

「ユナ、大丈夫だからこのままで。ほら、以前好きだといっていただろう?」


ちっとも大丈夫ではないんですよ!!魔王としての威厳を保ってください!!


心の中で絶叫するアーベルの声は届かない。

日頃の献身を労う意味を込めて開かれている晩餐会で、陛下は普段と同じようにせっせと姫に食事を与えている。しかも自分の膝の上で。


姫も居心地が悪そうにしているが、拒否をしていいのか分からないようだ。それは正しい行動で人の身で陛下から寵愛を受けているだけの存在の姫が、陛下の意に反するような素振りを見せれば大公たちから不敬だと言われても仕方がないのだ。


陛下が許しているからこの場に同席している姫の立場は弱い。普段は陛下に気安く接している姫も公的な場所では周囲の雰囲気を読んで行動していることに気づいて以来、アーベルは姫への評価が少し変わっていた。

助けを求めるようにアーベルに視線を向ける姫に、陛下の意向に沿うようにと意味を込めて小さく頷いておいた。


「それはレイヴンの領海から献上されたものですね。姫様のお口にあったようで何よりです、ねえレイヴン」

メルヒから急に話を振られたレイヴンが反応に困り、返答する前にフォルミラがそれを引き取るによう言った。


「姫様は他に何がお好みなのでしょうか?よろしければ私も何かお贈りさせていただきますわ」

「不要だ。ユナに必要な物は我が用意する」

先ほどの話し合いが尾を引いているのか、フォルミラを警戒したシュルツが先に答えた。


「ファッションについては女性同士語らうのが良いかと存じましたが、失礼いたしました。ですが、姫様のお気に召すかと思いまして既に準備しておりましたの」

パチンとフォルミラが指を弾くとテーブルの中央に何かが音を立てて落ちた。


「ユナ、見るな!」

抱き寄せられる直前に目にしたのは濁った瞳、白い毛並みが美しい魔物の死体だった。

「あら、人間どもはこの子たちの毛皮を剥いだものを身に付けるのが好きなのですが、姫様のお気に召さなかったようですね。残念ですわ」


「嫌がらせのつもりか、フォルミラ」

「姫様の願いがどのような結果をもたらすか、知っておいていただきたかったのですわ。陛下の隣に立つ方であるのならば」

冷ややかな口調にはひり付くような痛みが込められていた。



「ユナ…ユナ!」

名前を呼ばれていることに気づいて顔を上げると、アメジストの瞳が不安そうに揺れている。

転移したのかいつの間にか部屋に戻っていたことにさえ気づかなかった。先ほどの光景が頭から離れない。


ガラス玉のような瞳とだらりと口元からこぼれた舌が生々しく、本物の死体なのだと直感したのだ。

「ユナ、もう大丈夫だ。怖がらせてすまなかった」

シュルツが抱きしめて宥めるように頭を撫でてくれるが、震えが止まらない。


「あれは、私のせい…?」

「違う。ユナのせいなどでは決してない」

フォルミラの言葉を思い出す。

『姫様の願いがどのような結果をもたらすか、知っておいていただきたかった』


「……私が、フィラルドへの侵入を止めて欲しいと願ったから?」

「ユナ、違う。あれはやつ当たりのようなものだ」

「シュルツ、教えて。フォルミラさんの言葉の意味、シュルツなら分かるんでしょう?」

見つめ返したシュルツの表情はどこか傷ついたように見えた。


侵入を禁じたことで諍いの種は減ったように見えた。だがそれを良いことに森に侵入する人間が増えた、そんな報告が上がってきたのは最近のことだ。魔物が住まう森に人がやってくるのは、そこにしか生息しない動植物がいるからでそれは高値で取引される。元々魔物だけが一方的に侵入していたわけではない。だからそこで死傷者が出ても自業自得、危険を冒せばこその対価のようなものだった。


だが魔物にとって魔王の命令は絶対である。結果人間が一方的に略奪や殺戮のために魔王の領域に侵入するという状況に変わったのだ。

「侵入者を殺すなと命じたわけではない。だから一方的に搾取されているわけではないのだが」


だがこちらからは手を出せないのに、一方的に侵入を繰り返す人間が面白くないのだろう。やられたらやり返す、そう思う気持ちは分からなくもない。

魔物がフィラルドに侵入することで、人が犠牲になっているのだと思い込んでいた佑那は、自分の情報が一方的なものであることに気づいてヒヤリとした。


それなのに余計な口出しをして、大丈夫だと思い込んで…。


「ユナ、我がきちんとフィラルドと不干渉条約を結んでいれば良かったのだ。だからこれは我の責任だ」

……ああ、また守られている。

泣きたくなったが、それは甘えでしかないとぐっと堪える。


少しずつ何かがずれていったのはそれからだったように思う。

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