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喚ばれてないのに異世界召喚されました  作者: 浅海 景


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34 閑話 伝わらない想い ~佑那サイド~

分かりあうことは難しい。文化が違えば尚更だ。


こういうのって当たり前なのかな。

佑那はシュルツに後ろから抱きしめられた状態で本を読んでいる。気にするなと言われるが、腰に手を回されて指で髪を梳かれると、どうにも落ち着かず本の内容が全く頭に入ってこない。


以前から距離感が近いとは思っていたが、佑那が気持ちを伝えてからはそれがますます近くなった。シュルツのことはもちろん好きだが、いささかスキンシップが過剰な気がする。

食事の際に膝の上に乗せられた際は、さすがに閉口したものだ。彼自身は周りに人がいようがいまいがお構いなしだが、佑那としてはどうしても恥ずかしく思ってしまう。あの時は僅差でミアに目撃されずに済んだが。


時折シュルツが子供のように思える時がある。手を離せば置いて行かれると思っている幼子のような。

彼がそばに置きたがるのは不安だからではないか、という気がした。だからこそ、街に出かけたいかと問われた時、どう返事をして良いか迷ってしまった。


この世界にきてまだ一度も街に出たことがなかったから、すごく興味があったけどシュルツは望んでいないだろうと思ったからだ。そう思って曖昧な返事をしたけど、シュルツはきちんと気持ちを汲んで許可してくれた。

信頼してくれたのだと思うと、とても嬉しかった。


本を閉じてシュルツの手に自分の手を重ねた。

「本当に明日出かけても良いの?」

「良い。楽しみにしているのだろう」

いつもと変わらない口調だが、その声が少しそっけないように感じた。


「シュルツはキュラードの朝市に行ったことがある?ミアの話だととても盛況らしいけど」

「人混みは好まぬ」

「そっか。じゃあ代わりに見てきて教えてあげるね。何かシュルツが興味を引くようなものがあるといいな」

「ユナの話なら何でも聞きたい。…楽しんでくると良い」

言葉とは裏腹にまるで引き留めるかのように握られた手に力がこもった。

 

初めて見る街の様子は素晴らしかった。通りの両側に屋台のようなお店が軒を連ねており、香ばしい香りに何度も誘惑されたが、ぐっとこらえた。そのたびに立ち止まっていては日が暮れてしまう。売られているお菓子や食料品も見たことのないものばかりだし、そこかしこで行われる客引きの声や買い物客同士の情報交換など、賑やかで活気あふれる雰囲気が心地よい。


「今更だけど、変装とかしたほうが良かった? この髪と目の色はこの辺りでは珍しいと聞いたけど、目立ってないかな?」

声をひそめてミアに尋ねた。自分だけなら特に構わないが、一緒にいるミアが魔物とばれてはマズイだろう。用心するに越したことはない。


「大丈夫ですよ。もともと交易都市ですから各国から商人が訪れていますし、この一帯では最大の市ですから、近隣の街からもたくさんの人が訪れるため、余所者でも紛れやすいです」

それならシュルツも一緒に来られたらよかったのに。


魔力が強すぎることを除けば、確かにいろんな恰好をした人々が行きかっているので彼も目立たないだろう。同じ景色を共有したい、彼がどんなものに興味を示して、どう思うのか知りたいと思った。


こんな風に思うのも、やっぱり好きだから、だよね。

改めて佑那は自分の気持ちを実感した。でもこの気持ちはシュルツに十分に伝わっていないようだ。もっと言葉にしたほうが良いのかもしれない、と思った。


楽しかった外出が台無しになった帰り道。男たちに絡まれた時は怖かったけれど、狙いがはっきりしていたことと、話が通じたことでそんなに心配していなかった。売り飛ばされるつもりはないが、とりあえず大人しくしておけば暴力を受ける可能性も低そうだと判断したためだ。

いざとなればシュルツが助けに来てくれるだろうと楽観していたこともある。結果的にはその通りになったが、そのあとに起こったことは完全に想定外だった。


自分が責められるのは構わない。だけどその責任をミアに押し付けるのは間違っていると思った。取り消してもらおうと必死で頼んだが、彼は一向に応じる気配はなかった。自分の無鉄砲な行為への罰なのか。

自分よりも長く生きているとはいえ、幼い見た目のミアを見捨てて逃げるような真似はどうしてもできなかった。あの時の自分の行動は間違っていたかもしれないが、後悔していない。


悲しさと同時に怒りが込み上げてきた。必死に自分を守ろうとしてくれたミアに重すぎる処罰だ。それが自分への愛情というなら、そんなもの要らないとすら思った。何を言っても聞き入れてもらえないと分かって、シュルツを傷つける言葉をぶつけて逃げ出した。


自分の不甲斐なさと罪悪感から涙が止まらなかった。どうすればミアを許してくれるのだろう。いくら考えても方法が見つからず、苦しかった。


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