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喚ばれてないのに異世界召喚されました  作者: 浅海 景


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29 すれ違う想い

「他に不調はないか?」

泣き止んだユナに問うとすぐさま『大丈夫です』という言葉が返ってきた。その横に『心配かけてごめんなさい』と小さく付け足される。

シュルツは黙って首をふり、隣に腰を下ろした。


「そなたは何も悪くない。もう謝るな。悪いのは全て我のほうだ」

『違う。シュルツのせいじゃない』

理不尽な思いをしたにもかかわらず、ユナは首を振り必死に否定する。シュルツは彼女の訴えに耳を傾けず、唯一の話し相手を奪ったのだ。

不自由な生活を強いられているのに、自分に寄り添おうとしてくれたユナに酷い仕打ちをしてしまったとようやく気付いた。


「我のせいだ。我はそなたを失うのが怖かったから、あらゆる危険から遠ざけようとした。だがそれはそなたを傷つけるだけだったのだな。ミアへの処罰は行き過ぎだった」

『私が無謀だったのは事実だし、シュルツが私を守ろうとしてくれることも分かっている』

ユナは温かい手で指先を握ってくれた。彼女の優しさが苦しい。期待させないで欲しいと思いから、情けない言葉が漏れた。


「…もう我のことは嫌いなのだろう」

『そんなことない!』

『シュルツはもう私のこと嫌いになった?』

不安げにこちらを見つめてくる目にまた涙がたまっていく。


「ユナを嫌うなどあり得ぬ。…だがそなたは我の事を嫌いだと言っていたし、触れたときも耐えているように見えた」

『ずっと謝りたいと思っていたのに、遅くなってごめんなさい。私のせいでミアが責任を取ることになったのが嫌で八つ当たりして、ひどいことを言ってしまった。きっと声が出なくなったのは、その罰だわ。シュルツが気にしているのも分かっていたのに、嫌な態度を取り続けていたから、もう嫌われてしまっても仕方ないと思っていたから』


文字からユナが抱えていた苦しさが伝わってきて、たまらず抱きしめる。ユナの言動はシュルツが頑なに彼女の訴えに耳を貸さなかったせいだ。元凶は自分であるのにも関わらず、彼女は自分自身を責めて苦しんでいる。

どうしたら伝わるのだろう。


何の言葉も見つけられないまま体を離すと、ユナは躊躇いがちにシュルツの頬に手を添え、唇を重ねた。

ユナからの口づけは二度目だ。一度目は彼女が気持ちを伝えるためにくれたものだった。


嬉しいと思う反面、信じてよいのかと疑う気持ちも強くなる。彼女が自分を愛しく想う理由など、何一つない。そばにいてくれるだけで、満足していれば良かったのだ。

ユナの頬を優しくなでると、彼女はぎこちないながらも嬉しそうな顔を見せた。



また姫様の侍女をやらせてもらうことになった。エルザは陛下に嘘を吐いていたことが分かり、不興を買ったらしい。その内容がどのようなものだったかミアは知らないが、陛下のことをお慕いしていたあまりの言動だと涙ながらに訴え、懲罰は与えられなかったものの陛下の周辺に姿を現すことを禁じられた。


『陛下の様子がおかしいの。やっぱり怒っているのかな』

「どうしてそう思われるのですか?姫様が陛下を怒らせるようなことされるとも思いませんが」

『だって何だか壁を感じる。以前よりも触れてくることが減ったし、あまり話をしてくれなくなった。筆談だから会話が煩雑だからかもしれないけど』


姫様は物憂げな表情で言葉を連ねる。元々陛下のお考えなど自分には分かりかねるけれど、姫様のことを大切に思っているのは伝わってくる。

「それは、姫様のお身体を考えてのことではないでしょうか」


声が出なくなったのは心因性によるものだというのが、アーベルの見立てだった。姫様は既に自覚されているようだったが、陛下は自責の念を感じているようだ。心身に負担をかけない環境を心掛け、薬を服用することで様子をみることとなった。


『何ていうか、避けられている感じがするの。声出せなくなったこともずっと黙っていたし、嫌な態度を取り続けていたし、ご飯も食べられなかったし。嫌われても仕方ないのだけど』

書き終えた姫様は寂しそうな顔をしている。


「そんなこと絶対にありません!陛下は何よりも姫様のことを大切に思っています。ただ、どうしていいのか分からなくて戸惑われているのではないでしょうか」

ミアがどれだけ言葉を尽くしても、ユナの表情は晴れない。他に気がかりなことでもあるのだろうか。


「姫様、もしも他に気になっていることなどあったらお話してみてください。私でもお役に立てることがあるかもしれません」

迷う素振りを見せつつも、姫様は再び筆を取った。


『もしもの話なんだけど、自分と一緒にいることで好きな相手が不幸になるかもしれないって分かったらミアはどうする?』

何故かは分からないけど、どうやら姫様は陛下を不幸にしてしまうと思っているらしい。

どうお答えするのが正解か分からないけど、ミアは自分の思ったことをそのまま伝えることにした。


「私だったら好きな相手を幸せにする方法を考えます。その不幸を帳消しにできるぐらいの幸せがあれば一緒にいてもいいと思える気がするのですが…、答えになっていないでしょうか?」

姫様は呆気にとられたような顔でミアを見つめていたため、思わず質問し返してしまった。変なことを言ってしまったのかもしれない。謝罪の言葉を口にしようとしたとき、ぎゅっと抱きしめられた。


「姫様!?」

同性とはいえこんなところを陛下に見られたら、また役目を解かれるかもしれない。冷や汗を流すミアに気づかないようだったが、幸いにも姫様はすぐに体を離してくれた。


『ミアすごい!私そんな風に考えられなかった。ミアの言う通りだね。ありがとう』

感心したような言葉が少し照れくさいが、その明るくなった表情を見てミアは嬉しくなった。

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