6.転校生の本音
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
昨日は、あれから担任の日向先生に呼び出されて授業を欠席した理由を問い詰められた。
転校生は迷子、俺はお腹が痛くてトイレにこもっていたと強引に押し通したのだが、顔色を見る限り腑に落ちていないように感じた。
こればかりは事実を話すわけにいかないので仕方がない。
――――昼休み。
「なんでここにいるんだよ」
「話しかける前にいなくなったのは恭矢のほうでしょ?」
「昼ぐらい自由にさせてくれ」
昨日の件があったばかりなので面倒事は避けるためにそそくさといつもの場所へ移動したのだが、どうやら後を追ってきたらしい。
「クラスの奴らには何て説明したんだ?」
「先生に呼ばれたからって伝えたわ」
「そうか、もしかして明日も理由をつけてここに来るつもりなのか?」
「恭矢が逃げ続ける限りそうするつもりよ」
「……はぁ」
つい溜め息が漏れてしまう、思っていたよりもしつこい。
そんな事をされたらこの安息の地があることを他の奴らに知られるのも時間の問題だ、呆れてものも言えない、こいつは俺をなんだと思ってるんだ。
「協力関係に同意したのはどこの誰かしら?」
「わかったよ、教室で食べればいいんだろ」
「毎日居ろとは言わないから1週間に2回ぐらいは教室で食べなさい」
一応こちらへの配慮もしているようだが、教室に残ること自体が拷問のようなものなのであまり意味がない。
ベンチに腰掛けると、弁当の包みを広げながら冷泉が昨日の件について謝罪してきた。
「……強引すぎたのは悪かったと思ってるわ」
「それなら今すぐ無かったことにしてほしいんだが?」
「は?」
一瞬彼女から表情が消え去った、余計な事は言わないでいた方がいいと判断する。
「ナンデモナイデス」
「変に茶化さないでもらえるかしら」
紛れもない本心なので冗談を言ったつもりはないのだが……。
俺の言った事はすぐに流され、冷泉は話を切り替えた。
「確かに持て囃されたいのも理由のひとつよ、でもそれだけじゃないの」
「何かあるのか」
「あなたに限ったことではないけれど、上辺だけを見ただけで人となりが決めつけられてしまうのが許せないの」
「――ッ! すまなかったな」
昨日の会話が頭によぎる、彼女の事を考えた発言をしたつもりだったがかえって裏目に出ていた。
「既に謝罪とお詫びは受け取っているから気にしなくていいわ」
「それならいいが、つまり俺に目をつけたのはそういう理由だったのか」
「私は周りには家柄のせいで権力や容姿目当てな人ばかり集まってくるの」
「有名な企業だからな、欲望に忠実な人間が近寄ってくるのはわかりきったことだろ」
「それが許せないのよ」
「なるほど、難しい性格してるのな」
「だって相手の事を知ろうとしないで最初の印象だけで判断するなんておかしいじゃない」
冷泉のような尖った考え方をする人は敵を作りやすい。
彼女に至っては大企業の令嬢というレッテルを貼られている時点で、実際嫌でもその考えを許容しなければいけないときがあるのだろう。
冷泉は冷泉なりに受け入れるか入れないかのジレンマと戦っているのかもしれない。
しかし、彼女の言っている事はごもっともだがその言動には疑問が残る。
「そうすると持て囃されたいという願望と矛盾してないか?
容姿で選ぶ奴らがうじゃうじゃくるぜ?」
「だから恭矢、貴方の力を借りるのよ。
上辺しか知らないなら容姿も中身も素晴らしいということを皆に教えてあげればいいの」
なるほど、容姿も中身もいい事を知ってもらった上で持て囃されるために、まずはあの作戦を使って周りに知らしめるというわけか。
「それに、あなたの置かれている状況も見て見ぬふりは出来なかったわ」
「俺はあれでいいんだよ、自分から望んでそうしてるからな」
「なぜ? わかりづらいけれど貴方、本当はとても優しいでしょ?」
冷泉は人の心を見透すように真っ直ぐな瞳を向けて言い放ってきた。
彼女は変に鋭い、迂闊に嘘はつけないな。
「どうしてそう思うんだ?」
「急いでいるのに道案内してくれたじゃない」
「クラスの奴らに後で文句を言われたくないからだ」
「へぇー」
返事の仕方から、俺の返答に対して釈然としていないのが伝わってくる。
ここは別の話題を出して逸らすしかないか。
「というかあのカタコト言葉はその性格を隠すためなのか?」
一番気になっていたカタコト言葉を使って演じている理由。
彼女の本心をカモフラージュをするためなのかと思っていたが実際どうなんだろう。
「あのキャラを演じているのは単純にチヤホヤされたいからよ」
「そ、そうなのか」
真面目に考察した俺が馬鹿であった。
――サラサラ。
――――木々の隙間を風が通り、樹葉が靡く。
「ここはいい場所ね」
そよぐ風が綺麗な髪をなびかせる。
ほんの一瞬だがその美しさに目を奪れてしまった、この転校生は黙っていれば美人なのだ。
「当たり前だろ、俺が気に入ってるんだから最高の場所に決まってる」
「その自信はどこから来るのよ……」
「静かで人が来ないところなんて、この学校にはほとんど無いから見つけた俺は凄いと思うぞ」
「はいはい」
「なんだその雑な返事は」
「ふふっ、それよりもそんなに卑屈で一匹狼な恭矢は昔何かあったの?」
「お前に話す道理はない」
「お前じゃない、可憐よ」
「…………可憐に話すつもりはない」
「――っそ、ならいいわ」
俺が頑なに拒否するとそれ以上は聞いてこなかった、心の底から嫌がっていることを察してくれたみたいだ。
じっとこちらを見据えた後、興が冷めた様でそれからは取り留めのない世間話が続いた。
「そろそろ昼休みも終わりだから戻るわ」
「ああ、俺もそろそろ戻るつもりだ」
冷泉がそう切り出すと、昼食を食べ終えた2人は教室に向かい歩きだした。
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