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カタコト転校生がうざすぎるのでどうにかして欲しい。  作者: チーズは苦手です
第一章 人生は思ったより甘くない
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3.カタコト転校生の秘密

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 


 転校生の登場から一週間程は昼休みになると他のクラスからその姿をひと目見ようと廊下には人集りができていたが、徐々にイベント感満載だったクラスの雰囲気も落ち着きを取り戻し始めていた。

 クラスの女子達も転校生と既に打ち解けているようで、休み時間の度に誰かしらが転校生の周りに集っている。


 午前中の授業が終わり、昼休みになるとわらわらと人が席を立ち移動し始めた。

 今までは購買やテラスに行く人のほうが多く教室に残る人は少なかったのだが、転校生へ交流を図ろうとしているのか主に男子の残る割合が増えた、昼休みなのに教室が窮屈に感じる。


「冷泉さんごはん一緒にたーべよ!」


「ハイ! ヨロシクデス!」


 早速、女子のグループが転校生を昼食に誘っていた。

 これから5、6人に質問攻めにあうのだろう、実際見てみると美男美女というのも考えものだな……ご愁傷様。

 折角の休憩が潰れるなんて、俺だったら疾うに逃げ出している。


 俺は普段から教室では飯を食わない、入学当初に見つけた1人だけになれる秘密のスポットを利用している。

 強いて言えば校舎から少し離れているのが欠点だが、1人になれるだけでメリットのほうが大きいので良しとする。

 

「……これ以上煩くなる前に、さっさと移動するか」


 外に出ようと教室の後ろを通る、転校生は後ろの席なので囲いの人混みが邪魔だが気にせず強行突破するしかない。


「キョウシツデタベナインデスカ?」


 転校生の近くを通り過ぎようとしたとき、不意に話しかけられて一瞬立ち止まりそうになった。

 何とか平常心を保ちスルーしたが、転校生の周りでは一緒に食事をしている女子達が焦りの色をみせていた。


「ちょっ、冷泉さん! あいつに話しかけちゃダメだよ!」


「そうだよ! 暗いし、話しかけてもどうせ返事しないから」


「ソウ……ナンデスカ」


 転校生は訝しげな表情をしながら小さく返事をする。



 ――クラスの連中は俺の扱いには慣れているので俺が教室を扉を抜けると、話題を切り替えてさっきまでのことがまるで無かったかのように会話が始まっていた。




    *    *    *    *




 校舎裏の古びたベンチ、木が生い茂っていて近くには物置となっている小屋しか見えない、ここがいつもの定位置だ。

 歴とした学校の敷地内だが環境保全とかなんとかでここだけ森林のようになっており、あまり人が寄り付かない。


「あー、嫌なことはほんと続くんだな」


 綾美は相変わらず朝から話しかけてくるし、転校生のせいで注目されるし、ろくなことがなかった。

 こちらとて好きでこうしてるのではない、人と関わろうとする度に昔の記憶がガラスの破片のように突き刺さってくる、『人を信用してはならない、心を許すな』そんな言葉が頭の中を駆け巡って心が受け付けてくれない。


「――あんな事はもう、うんざりだ」


「…………寝るか」


 余計なことを考えていたら、頭が痛くなってきたので仮眠を取ることにした。


 ベンチに寝そべって目を閉じ、心を落ち着かせる。

 鳥の囀りを聴いているうちに意識が薄れていき、いつの間にか眠りに落ちていた。




 ――カーン。


 ――――キーンコーンカーンコーン。


 チャイムの音が聞こえる、音が耳に入ってから数秒おいて意識がはっきりと覚醒した。

 チャイムが鳴っているということは授業開始5分前なので、ここからだとダッシュで行かないと間に合わない。


「くそっ、アラームセットし忘れたのか」


 俺は顔にかけていたハンカチをポケットに突っ込むと勢いよく走り出した。


 校舎に辿り着くと同時に靴を下駄箱にしまい、急いで階段登っていると聞き覚えのある声が耳に入る。

 何段か上がると少し上に長髪でオレンジブラウンの髪が見えた、あの印象に残る特徴的な髪色は転校生だ。


「――――だよ」


 電話で話をしているようで、きょろきょろと周りを見渡しながら上がったり降りたりしている。


 教室の場所がわからず、迷っているのだろうか?

 目立つのは嫌だがここで無視してもクラスの奴らに責められるのがオチだろうから、仕方なく助けようと近づいて声をかけた。


「あの、迷ってるんですか?」


「うるさい! 人が喋ってる時に話しかけなぃ……え?」


 俺の問いかけに対して、転校生は流暢な日本語で怒りをぶつけ、それからすぐに顔が真っ青になり引き攣った笑みで返事をしてきた。


「ソ、ソウナンデスー」


 危うく頭がショートしかけた。

 この人は本当に転校生なのだろうか、うん……転校生はここに来て1週間ぐらいだし、もしかしたら瓜二つの人物と勘違いしているかもしれない。


「あー……えーっと……俺のクラスに転入して来た人であってますかね?」


「アッ……モシカシタラチガウカモー……シレナイデスネ」


 ほらやっぱり勘違いだ、念のため確認しておいてよかったぁ………………いや、それはないだろ。

 どう見ても本人だし、クラスメイト相手にカタコト出しちゃったら自分から転校生ですって言ってるようなものだ。


 というかこの場面でその選択肢選ぶのか、確かに自分にそっくりな人は世界に3人いるって説があるけれど確率低すぎて頼っちゃだめでしょ、アホなのか?


「あーごめんね、日本語は苦手だったよね! うーんと、Are you a transfer student? であってるかな?」


「とらんすふぁー? ……ぇっと……イエス!」


 日本人なんだ、発音が悪いのは許してくれ。

 しかし、辛うじてだがちゃんと伝わってくれたようで一安心する。


「よかった、迷ったんだろ? 案内するよ」


「アリガトウ!」



 最初の流れから会話はまったく噛み合っていなかった事が疑問に残るが、とりあえず転校生を背にして、俺は自分のクラスへと歩き始めた。

 

もし気に入っていただけたのなら、評価をよろしくお願い致します。

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