旅立ち(ミラ)1
「誰だあいつ。なんでミラ嬢の席にいるんだ」
焦りと怒りを含ませ小さく呟いた男に気がつきロザリーは笑いを噛み殺す。
三年目初日に現れた新入生は隣国からの留学生だ。どんな人物なのかは知らないが誰かが留学して来ることは事前に知っていた。ミラと入れ替わりで来るからだ。
ミラは今頃隣国の学校で新しい生活を始めているだろうか。彼女の不在に焦り取り乱す男の反応を密かに楽しみながらロザリーは友人と初めて出会った時のことを思い返した。
「あなた、ここは女子寮よ!」
咎めるような強い剣幕にロザリーが振り向けば顔を真赤にした女生徒がいた。ロザリーがズボンタイプの制服だからか男子生徒と間違えられたのだろう。
「誤解させてごめんね。ズボンが好きだけど女なんだ」
にっこり笑顔をつくって弁解すれば相手の顔が更に赤くなる。今度は怒りとは違う感情のようだ。
「へ?こんな王子様みたいなのに?」
王都じゃこれがあたり前なの?信じられないとぶつくさ呟く女生徒ははっとした後に頭を下げた。
「申し訳ありません、ご無礼をしました。お許しください」
「気にしないで。ところで君も新入生?私はロザリー。名前、聞いてもいい?」
そう問えば顔を真っ赤にしたまま彼女はコクコクと頷いた。
「私、ミラ」
「ミラちゃん、よろしく」
そう言ってロザリーは手を差し出した。少し戸惑ってからミラがその手を握るとロザリーは破顔した。
ミラは女生徒がズボンを履いていることが信じられなかった。
彼女の住まう村では女性はスカートが当たり前、ズボンを履くのは男だけだ。女は女らしく、ズボンを履くことはみっともないと言われていた。
男女などというくくりで判断する方がおかしいとミラは思っていたのに。結局自分も見た目で判断していたのかと小さくため息をつく。それにしても王都はすごいところだと新しい生活に期待を膨らませる。
最初こそロザリーの男装姿に驚いたものの、ミラはすぐロザリーと打ち解けた。学院が始まるまで王都を案内してくれたり、何かと世話を焼いてくれたのだ。
ロザリーが貴族であることを知り、最初は警戒していたのだ。しかしミラの苦手な貴族とは違い、彼女は全く貴族らしくないのだ。ミラに屈託なく接し、街で食べ歩きもするし、大きな口を開けて肉に齧り付く姿はとても貴族令嬢には見えなかった。何よりミラの話をよく聞いてくれたのが嬉しかったのだ。
故郷の村では誰もミラの話を聞いてくれなかったから。




