悪役令嬢は流される4
鳥の囀りが聞こえる清々しい朝が来た。でも森の屋敷での日々も今日で終わりだ。帰って少しすれば学院の三年目が始まる。河原で拾って来たピカピカの石や丸い石を忘れず持っていこうと机に並べているとルーナがやってきた。
「またそんな物を拾って」
そう言って呆れた顔をしている。でもさすがにいい感じの枝は置いてきたから褒めてほしい!
出発前の見納めと木立の中をルーナと二人歩いている。朝のお散歩だ。木々の香りが爽やかで息を目一杯吸い込んでから吐き出した。
「何をしているの?」
「深呼吸だよ。森から力を貰うんだよ」
「力なんて得られませんわ」
きょとんとした顔でルーナが言う。
「何だかそんな気がするの。気持ちいいよ」
すーはーと深く呼吸すれば真似するようにルーナも深呼吸し、それから怪訝そうな顔をした。
「お姉様そろそろ戻らないと」
「あ、ちょっと待って」
取り出した物をルーナに差し出す。
「これは……制服の?」
手渡したのは制服のリボンだ。綺麗に畳んだものをルーナの手にのせる。
「ルーナにあげる」
ルーナはそれをまじまじと見ているので広げてみるよう促した。ようやく完成したリボンにはルーナから連想した月、私の故郷の花である桜、そしてルーナがいつも輝くよう光をイメージしたモチーフを刺繍した。表から見れば普通のリボンに見えるが裏側に刺繍がされているのだ。隠れお洒落である。
「これ……」
刺繍を指でなぞり、ルーナは口を閉じた。
「刺繍してみたの。よかったら使って」
無言だ。
使ってもらおうなんておこがましかったか。
「予備としてしまっておいて」
無言だ。
「雑巾にして」
無言だ。
そもそも貴族令嬢は掃除しないよね。
「やっぱりいらなかったよね」
回収しようと手を伸ばすと拒まれた。
「いる」
一言だけ言うとまた刺繍を指でなぞっている。そして一瞬だけ不思議そうな顔をして、それからいつもの表情に戻った。
「お姉様はどうしてこれを」
「ずっとルーナに刺繍した物を贈りたいと思っていたから」
ルーナはリボンの刺繍をもう一度なぞり、それから私の目をじっとみつめる。
「……ありがとう」
小さく呟かれた言葉に笑みを返せばルーナの頬がピンクに染まった。普段見たことのない照れたような表情が珍しい。
「さ、帰ろっか。休みもあと僅かだね。帰ったらまた本の続き読まなきゃ」
「ところでお姉様、課題は終わりましたの?」
「え?課題?なんのこと?」
「……お姉様?」
こうして王都へ戻った私は残り少ない休みの中泣きながら課題をこなしたのであった。




