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悪役令嬢は双子の妹を溺愛する  作者: ドンドコ丸
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悪役令嬢は旅立ちたい

 学院を見学してから私はますます薬草が好きになった。

 今は薬草の育て方を勉強中だ。屋敷の庭園の片隅の土をほじくり返し、自作の薬草園を作ってみた。薬草というと聞こえがいいが、育てているのはハーブである。その葉をお湯で煮出して蜂蜜をちょろりと入れるのが密かな楽しみなのだ。

 せっかくなのでこの国にはない珍しい薬草がある隣国の言葉も覚え始めた。

 「こんにちは」、「私の名前はリュシアです」、「これは羽ペンです」、しかまだ話せないけどね。


 それにしても薬草と一言で言っても、植物としてどこに生えるのか、どう育っていくのか、葉や茎、根、花が薬としてどう働くか、飲み物や食べ物としての使い方等、学ぶことが色々あって面白い。


 刺繍も相変わらず好きで勉強の合間にハンカチに花や鳥をちまちま縫い付けている。最近は簡単な縫い物もできるようになった。

 妹ちゃんがお嫁に行く時までにさらに上達して、ウエディングベアとか作っちゃうからね。って、ここは前世とは違うのだわ。


 一方の妹ちゃんは王太子様におねだりし、王宮へ行く機会が格段に増えた。月に数回は王宮へ行き、王宮の様子やこの国のことを勉強しているらしい。

 勉強熱心でえらいな。さすが私の妹ちゃんだわ。


 そんな日々を送り、また月日が過ぎた。

 兄、陰険眼鏡が屋敷に戻ってきた時、珍しく私に用があると声をかけられた。

 それは11歳になったら隣国の学院へ行かないかという打診だった。

 眼鏡自身が隣国へ留学しているのだが、3年後そこへ通わないかという打診、しかしその実態は命令だ。

 ちなみに兄はあと数年で卒業し、屋敷に戻ってくる。

 まあ、無事に卒業できればだけどな。この世界にも留年とかあるのかしら、とニヤニヤ想像してしまう。まあ眼鏡のことだ、いい成績で卒業するのだろう。その頭脳だけ分けてほしい。あの眼鏡を奪ってかけると知識も装着できるシステムならいいのに。

 通常この国の貴族は王立の魔法学院へ通う。以前見学したあの学院だ。でも兄はその学院には通わず、隣国に留学している。彼はゆくゆくは王宮で父の跡を継いで宰相となるのだ。そうなると自国のことだけでなく、他国のこともよく知っておかないといけない。その為、友好国である隣国の学院に留学しているのだ。

 隣国には珍しい薬草があり、最先端の薬草学が学べると家庭教師から教わった。私は薬草についてもっと知りたい。それに自活できる手段についても学びたい。

 この国の魔法学院はどちらかといえば魔法学に特化している。残念ながら私の魔法は未だ今一つだ。魔力も昔よりはついてきたと思うが、それでも妹ちゃんに比べたら情けないレベルなのだ。

 妹ちゃんの魔力は本当に素晴らしくて、大人の貴族顔負けのレベルだ。通常学院に入学してから学ぶ初級魔法は難なく扱え、今では中、上級の魔法にも挑戦しているようだ。妹ちゃんにとってはこの国の魔法学院に通うのが一番だ。

 私が隣国の学院へ行けば寮での生活が始まる。帰省できるのは長期休みだけだ。妹ちゃんは距離も近いのでこの屋敷から通うことになるだろう。

 留学すると妹ちゃんになかなか会えなくなるのは寂しいな。でもこの屋敷に私は必要ないのだと思う。それならば隣国で学びたいことを勉強し、将来に備えるのは悪くない。

 なんなら卒業後にそのまま隣国のどこかに身を隠して、身分を偽り平民として暮らすのもアリかもしれない。

 もはや断罪イベントはないとは思うが、念には念を入れて物理的な距離を置くのは大切だ。

 妹ちゃんと会えなくなるのはとてもとても寂しいけれど。でも彼女の為になるのならば、お姉ちゃんはそれがいいのだ。



「おねえちゃ、いえ、お姉様!隣の国の学院へ行くって本当ですか?」

 上目遣いで少し焦ったように妹ちゃんが詰め寄ってくる。そんな仕草も可愛い。まだおねえちゃまでいいのに、最近彼女は私のことをお姉様と呼ぶようになった。おねえちゃまがいいのに。姉離れ寂しい。妹離れできる気がしないお姉ちゃんです。

 でも、断罪、ダメ、ゼッタイ!

「本当よ」

 私が肯定すると、ルーナの表情が曇っていく。今にも泣き出しそうだ。ざ、罪悪感が、やばい。語彙力崩壊。

「やだやだやだ!ルーナはお姉様と一緒じゃなきゃ嫌なの!」

 ふおー、お姉ちゃんへの我儘キター!

 妹ちゃん、お姉ちゃんもずっとずーっと一緒にいたいよ。でもね、お姉ちゃん長生きしたいの。もうちょっと人生を謳歌したいのよ。

 私は泣きそうなルーナを長椅子に座らせ、隣に腰掛けた。

「おねえちゃまが一緒じゃなきゃ魔法学院なんて行かない!ルーナも留学する!」

 わーい!おねえちゃまって呼んでくれたー!

 ではなくてだな。妹ちゃんの将来にとっては隣国に行くよりもこの国で魔法の力を強めた方が絶対にいい。それに王太子様がいるのだから離れちゃダメじゃないかな。

「ルーナには素晴らしい魔法の力があるから、魔法学院に行った方がいいと思うのね。でも私は魔力も弱いし、薬草に興味があるからあちらの学院の方が勉強になるかなーと思うのよね」

「一緒に魔法学院を見学した時、おねえちゃま、薬草園を気に入ってたでしょ。薬草学は魔法学院でも勉強できるのに」

 不服そうなその顔も可愛らしい。しかし負けてはいけない。

「でも、あちらにはこの国にはない珍しい薬草があって、より専門的なことが勉強できるのよ」

「そうしたらルーナもおねえちゃまと一緒にその学院に行く!」

 妹ちゃん、そんなにお姉ちゃんと一緒にいたいの?う……嬉しすぎる。いやいやいや、だめだめだめ。

 よくも俺のルーナを拐かして隣国に連れて行ったな、と怒れるアレス様を想像し、身震いする。

「でもルーナはアレス様の婚約者でしょ?お傍で支えてあげないと駄目じゃないかしら」

「王太子よりもおねえちゃまと一緒がいいの!」

 やったー!お姉ちゃん、王太子様に勝ったぞー!喜んだのも束の間、妹ちゃんから恐ろしい言葉が飛び出した。

「……そうね。お姉様のせいで隣の国に行くことになったって王太子様にお話してみようかしら?」

 妹ちゃんが可愛く小首を傾げながら提案してきたよ。小悪魔か!

 やめて!断罪されちゃう!!!断罪、ダメ、ゼッタイ!

 齢8歳で拷問されたくないです!!!お姉ちゃんの負けです!これはあかん!


 その後、妹ちゃんは兄にも泣きついたようで、私の隣国行きの話は敢え無く立ち消えた。

 わ、私、本当に断罪エンド回避できるのかしら。未来の雲行きが怪しくなってきたわ。

 私の曇り顔とは反対に妹ちゃんはニコニコ晴れやかな顔でご機嫌である。お姉ちゃんは妹ちゃんがご機嫌なのはとても嬉しい。

 でも、でも、なんか胃が……胃が痛い。

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