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悪役令嬢は双子の妹を溺愛する  作者: ドンドコ丸
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悪役令嬢は無罪を主張する2

「ですから正直に白状しろと言っているんです」


 翌日の昼休み、私は詰められていた。眠いのに、寝不足なのに。メル先生の庭で昼寝しようと思ってたのに。

 それなのに敵意ある視線にビシバシと取り囲まれている。


 前方にアレス様、そして見覚えのある女生徒が二人いる。昨夜いた寮の上級生だ。そして後方にはジェロームさんにヴェネレさん、イリスさんまでいる。この包囲網を突破するのは難しそうだ。



 昼休み、欠伸をこらえつつフラフラ歩いていた私を呼び止めたのはジェロームさんだった。


「何かご用ですか?」


 今すぐ寝たい気持ちを抑え聞いてみる。


「昨夜女子寮で事件が遭ったとこの二人から相談を受けましてね」

「ええ、そうですわ。フィーリアさんの部屋が大変なことになって……ふぁー」


 しまった欠伸が出てしまった!慌てて扇で口元を隠すがバレバレだろう。


「人が真面目に話をしている時に。そうやって誤魔化そうとしても無駄ですよ」

「そんなことは。夜起こされたから寝不足なだけで」


 そこへアレス様も加わりこう言った。


「君が第一発見者だと二人とそしてフィーリア嬢からも聞いたよ。状況を正しく説明してくれる?」


 いやいやいや、私フィーリアさんを助けただけなんですけど、その険しい顔はなんですか?


「昨夜寮で眠っていたら悲鳴に起こされたのです。後からフィーリアさんのだってわかったのですけど」

「ふうん?」

「それで声の聞こえる方に向かったらドアを内側から叩く音と助けを求める声が聞こえて。それで開けたらフィーリアさんが出てきました」

「ふむ。それで悲鳴と声、ドアの音はどのくらいの大きさだったのかな?」

「かなり大きかったです。だって離れていた私の部屋からも聞こえましたから」


 そう私が告げるとアレス様はヴェネレさんといつの間にか増えていたイリスさんへ目線を送った。


「学院内とはいえ王族と神官相手に嘘をつくとは許されませんよ」


 ため息を一つついたイリスさんが冷たい声音で言う。


「いいえ、嘘なんて言ってませんわ」

「リュシアさん、本当に?間違いない?」


 ヴェネレさんにまで疑われているようだ。


「間違いありません。悲鳴とドアの音と声が聞こえたから私はフィーリアさんのところへ行きました」

「嘘よ!」


 女性二人の声が私の言葉に重なる。


「昨日私達はドアの音なんて聞かなかった」

「確かに悲鳴は聞こえた。でも一度だけよ」

「大きな下品な悲鳴ならね」


 あのー、それって私の悲鳴が下品ってことですかね。


「でもフィーリアさんの声は聞こえなかったわ」


 女生徒がすずいとこちらに近づいた。


「私達不思議に思ってたの。なんで離れた部屋にいるあなたが一番に駆けつけたのか」

「他の人が全く気がついていないのに。近くの部屋の私だって気がつかなかったのに」


 女生徒二人はそう言うとこちらを睨みつける。


「一番に気がついたから来たんじゃない」

「あなたは最初から彼女のところにいたのだわ」

「あなたが彼女に酷いことをしていたのよ」


 名探偵の「犯人はおまえだ!」、という台詞が似合いそうな表情で言い放たれてしまった。いやいやいや、誤解ですって。


「いやでもホントに私……」

「白々しいですね。いい加減罪を認めたらどうですか?」

「大切なルーナの姉だからね、悪いようにはしないよ」


 ジェロームさんにアレス様に詰め寄られ、幽閉、一生修道院ならぬ聖堂生活という不穏な単語が頭に浮かぶ。


「フィーリア嬢の部屋を血で染め上げ汚し、何を企んでいたんです?」


 ジェロームさんの射殺さんばかりの視線が痛い、浄化ビームとか出してません?しかしどうしたらいいものか。


「おーい君達、何をやってるんだい?」


 少し離れたところから聞こえた声に皆の視線が移る。聞き覚えのあるこの声はメルキュール先生だ。万事休す、彼も攻略対象者、つまりは私の敵である。断罪、火炙り、ギロチンと嫌な単語ばかり連想してしまう。


「先生、昨夜の女子寮の事件の事情聴取をしていました」

「こらこら、生徒が変なことに首を突っ込んじゃいけないよ」


 ジェロームさんの言葉をメル先生は窘める。


「しかしこの者は怪しいのです」

「怪しいだけで人を疑うの?」


 食って掛かるジェロームさんを軽く諭すメル先生。もしかして私のこと庇ってくれてる?


「でもこの子だけ他の寮生と違うことを言ってるんです」


 女生徒二人も先生に訴えかけると先生は意外な提案をした。


「ならさ、現場に行ってみない?」


 先生の言葉に固まったのは男子生徒達だった。


「現場に?」


 ごくりと唾を飲み込むジェロームさん。


「行く?」


 顔を赤くするヴェネレさん。


「つまり……女子寮に?」


 上ずった声でアレス様が呟いた。


「我々が入っていいものでしょうか?」


 恐る恐るイリスさんが聞いてるぞ。


「許可取ってるからね。でも現場の部屋以外入っちゃダメだよ。悪さしたら……」

「……したら?」


 メル先生の言葉に皆がごくりと唾を飲む。


「女生徒に変えちゃうよー」

「わ……わかりました。絶対に現場以外入りません」


 ヴェネレさんが即答する。


「ルーナの部屋に入りたかったな。許して貰えたらだけど」

「何か言ったかい?」


 少しがっかりした様子のアレス様にメル先生が聞き返す。


「いいえ、何でもないです!何でも!」

「王太子を姫にするわけには行かないね」


 にっこりと笑むとメル先生は歩き始めた。

 大丈夫アレス様、ルーナの部屋に入ったら姫になる前に屍になって貰うから。

 そんなわけで一同で女子寮へ向かう。


 階段を上り暫く歩けばフィーリアさんの部屋だ。扉は半開きの状態でその前には縄が張られている。先生は気にすることなく縄をどけると扉に手をかざした。そして何やらふむふむと頷いている。


 部屋の入り口からちらりと見える床には赤黒い染みが見える。


「あ、まだ現場検証中だから踏まないでね」


 足の踏み場がないほど液体で溢れていて踏まないのは無理ではなかろうか。


「先生、踏まないのはちょっと難しいのでは?」

「浮かべばいいんだよ」


 何でもないことのようにメル先生は言うが人は浮けない。でもメル先生はふわりと地面から数センチ浮いた状態で、イリスさんは身軽に液体を避け部屋に入っていった。


「これは……酷いですね」

「なかなか悲惨な状態だね」


 なんとかつま先立ちで避けながら部屋の中に入ると二人が話している。その前には……。


「ぎゃああああ」

「リュシアさん、うるさい」


 イリスさんが顔をしかめる。

 いや昨夜も見てるけどさ、やはりホラーだよ。白い壁一面にぶちまけられたかのような血。その飛沫がベッドにまで飛んでいる。


 すると部屋の外から女生徒達が騒ぐ声がした。

 

「それ!その悲鳴です!昨夜聞こえたのは」

「怯えたフリをしたって無駄よ、あなたがやったんでしょ」

「いやいやこんなことして何の意味があるのですか?」


 扉まで頑張って戻る気力はないので叫び返してみた。


 後から入ってきたジェロームさんは壁を見るやいなや鬼のような表情に変わった。


「この女が!聖女様に害を!……許せません」


 殺気だけでヤられそうである。


「こらこら、決めつけはよくないよ。少なくともリュシア嬢の魔力は検出されなかったよ」

「しかし、この者は以前からフィーリア嬢を害そうと……」

「いいかい、証拠もないのに決めつけはよくないよ。思い込みで物事を捉えてはいけないよ」


 メル先生めっちゃいい人だ。そうです、冤罪なんです。


「あのー、アレス様にヴェネレさん、あれ?先輩たちも!私の部屋に何か用ですか?」


 おや、その声はフィーリアさん?部屋の前にやって来たみたいだ。


「フィーリア嬢?」


 お、ジェロームさんの顔が普通の顔に変わった。


「あ、パパもいるー」

 ひょっこり顔をのぞかせたフィーリアさんが汚れた床を悲しそうに見た後そのまま部屋に入ってきた。フィーリアさんの足跡が床を汚していく。



「あー、リュシアさんもいたんだ」

「フィーリアさん!大丈夫?」

「うん、昨日は助けてくれてありがとう」


 ほらほら、聞いた?私、助けた人!犯人じゃなーい。


「メル先生にイリスさんもいる。狭くない?もしかして捜査?」


 さあ、私の冤罪が晴らされる時が来た!


「怪しいことが多いから調査をしているのですよ」


 私を睨みながらジェロームさんが言う。


「本当に怖かったもん……」


その時ジェロームさんが何かに気がついたように目を見開き呟いた。


「石」


「石?」


 きょとんとした顔で聞き返すフィーリアさん。


「あの石、どうしました?」

「……石」


「石?何のこと?」


 メル先生が興味深そうに尋ねる


「あなたが入寮する時に渡した石です。部屋に置くように私言いましたよね?」


みるみるうちに青ざめるフィーリアさん。ちらりと私と目が合った。


「まさかですけど、捨てた、なんてことはないですよね?」


「……」


「ないですよね?」


 口を閉じたまま何も言わないフィーリアさんにジェロームさんが圧をかける。


「捨ててないよ、大切な物って聞いたし」

「ではどこにあるのです?この部屋のどこを見てもないのですが」


 再び黙るフィーリアさんにジェロームさんがため息をつく。


「あの石があれば多少の良くないことから身を守れるのですが」

「へ、へえー。それはすごいなー」


「あなた、あれをどこにやったのです?まさか売ったり?!」


 二人でずっと石の話してるし私戻ってもいいかな。

 それにしても石、石ね。そういえば我が家にフィーリアさんが来た時に石をプレゼントしてくれたな。


 なんだかすごーく嫌な予感がする。


 嫌な予感に居ても立ってもいられず私はそっと部屋を抜け出すことにした。抜き足、差し足、忍び足。


「どうしたんだい、リュシア嬢?」


 先生、呼び止めないでください!


「無実です」


 あ、しまった、余計なことを。


「ほお?」


 ジェロームさんが氷のような視線を向けてくる。


「リュシアさん……」


 フィーリアさんが捨てられた子犬のような目でこちらを見てくるがごめん、保身大事なの。


 観念したのかフィーリアさんが口を開いた。


「あ、えと……リュシアさんのところへ遊びに行った時に手土産に……」

「手土産?」


 般若のような表情でフィーリアさんと私を交互に睨むジェロームさん。この人本当に聖職者なの?


 とりあえず私から言えることは一つ!


「お返ししますーーー!!!」

「一度あげたものだから」


 ポロッとこぼした発言にジェロームさんが魔王のような顔で尋ね返す。


「あげた?」

「あ!」


 しまった!という表情でフィーリアさんが口を押さえるが後の祭りだ。その後問われるままに洗いざらい白状したフィーリアさんはジェロームさんからこってり叱られていた。


 あの石そんなに大事なものだったのか。


 メル先生は一通り部屋を細かく調査した後にこう言った。


「調べたけどこの部屋にリュシアさんの魔力の跡はないよ」


 無罪だ!!! 


「そうですよ、リュシアさんは私のこと助けてくれたのですから」


 フィーリアさんの強い口調にジェロームさんが一瞬悔しげな表情になったがお説教が途中だったらしい、フィーリアさんにさらにクドクド言葉を続けている。

 さ、私は部屋を出てお昼寝を……する時間は残ってなさそうだな。


「お姉様!」


 部屋を出ようとしたところ鉢合わせしたのはルーナだった。床の汚れを見て顔を曇らせる。そして部屋の中まで入っていった。ルーナも床から浮いてるぞ。すごいな。


「まあ、なんて酷い部屋。何事ですの?」


 中の光景に驚いたルーナに簡単に事件のことを伝えると彼女の掌から青い炎が現れた。


「浄化魔法をかけましょう」


 しかしメル先生がすかさず炎に手を覆い被せる。炎は消えてしまった。メル先生熱くないのかなー。


「まだ現場検証中だから何もしちゃダメだよ」

「わかりましたわ」


 メル先生が笑顔で窘めるとシュンとした様子でルーナが応じた。


「お邪魔しましたわ」


 そう言うと部屋を出ていったルーナを慌てて追いかける。それにしてもルーナ、階段を駆け下りるの速くない?


 足早に寮の外に出たルーナに声をかけようとしたがそこへマルグリットさんがやって来た。二人は何か親しげに話しながら何処かへ行ってしまった。


 あと少しでお昼休みも終わりそうだな。仕方ないから教室に戻るか。




 生徒たちを女子寮から出すと一人残ったメルキュールは壁の赤い液体を指でなぞる。汚れた指先を眺めると呟いた。


「これ、血じゃなくてただの絵の具だねえ」


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