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悪役令嬢は双子の妹を溺愛する  作者: ドンドコ丸
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悪役令嬢とお宅訪問2

 そんなわけで我が家にヒロインちゃんがやって来た。

 急遽王妃教育がなくなったルーナも一緒である。というか両親に兄までいる。一家総出である。


「なんで」


 ルーナがぼそりと呟いた。うんうん、両親も兄もなんでいるのだろ。


 応接室に通されたフィーリアさんに父がにこやかな笑みを向ける。母も傍らに立ち、父の前には兄とルーナがいる。

 そして私は……ここにいていいのだろうか。少し端にいようかなと離れようとしたら、母がそっと手を伸ばす。そして母の前、ルーナの隣に私を招いた。


「ようこそお越しくださいました」


 父が挨拶をするとフィーリアさんが丁寧にお辞儀をする。


「フィーリアと申します。リュシアさん、ルーナさんと一緒に学院で学んでいます。本日はお招きいただきありがとうございます」


 少し緊張した様子だが美しい作法だ。きっとルルディさんに特訓されたのだろう。


「まあ、うちの娘たちとクラスメイトなのね。二人の様子がどんなだか知りたいわ」


 にこにこした様子で私とルーナを見る母に違和感を覚える。ルーナの様子、ではなくて?


「こらこら、年の近い者同士の方が気兼ねなく話せるだろう。フィーリアさん、これからもリュシアとルーナとよろしくな」


 リュシアと、のところでルーナの肩を軽く叩き、ルーナと、で私の肩を抱く父。父が私とルーナを間違えるなんて珍しい。


 それに両親からこんな笑顔を向けられたことなんてない。まあ別に中身は大人だから特に傷ついたことなんて……。

 あれ?視界がぼやけたぞ。いやー、目にゴミが入っちゃったみたいでまいったなー。

 目を擦っていると、ふとルーナと視線が合った。こちらをじっと見ている。少し顔色が悪いが大丈夫だろうか。


 あとは若い者でー、と両親は仲良く二人で部屋を出ていった。すると陰険眼鏡こと兄が私達を示し、「こっちがリュシア、こっちがルーナ」と正しく紹介し直す。


「全く、父さんは自分の娘の見分けもつかなくなったのか」


 そうぼやく兄をルーナがちらりと見て、ほんの一瞬気持ち悪いものを見るかのような表情になった。相変わらずルーナにデレデレの兄である。


「私もリュシアさんとルーナさん、そっくりだけどなんとなくわかりますよ」


 にこにこ笑いながらフィーリアさんが兄に同意する。


「さすがフィーリア嬢」

「お久しぶりです、ルミナス様。お二人のお兄様だったのですね」


 おや、二人は初対面じゃないのか。知らなかったぞ。まあ攻略対象だからどこぞで会っているのだろう。


「その節はどうも。淑女姿も板についてきたね、まあうちの妹達には及ばないけどね」


 親馬鹿ならぬ兄馬鹿である。恥ずかしいのでやめていただきたい。


「そりゃあ、お二人に叶うわけないですよ。特にルーナ様はおとぎ話に出てくるお姫様そのものじゃないですか」


 そう言われたルーナは二人を大変気持ち悪そうに見ている。その後慌てて表情を取り繕っていた。


「それはそうと。これ、お土産です」


 ドン!と重量感がある音が響く。フィーリアさんが布包みをテーブルに置いたのだ。手土産というには不穏な音がしたが中身はなんだろう。

 彼女が布を開くと中から石と呼ぶには大きすぎる岩の欠片が現れた。

 なんだ、こりゃ?フィーリアさんの地元の名産品とかかな。岩の割れ目からキラキラした宝石のような物が見え隠れしている。


「お姉様、お茶の用意をさせますわ」


 さっきまですぐ隣にいた筈のルーナがいつの間にかドアを開き、部屋を出ようとしている。まるで一瞬で移動したかのような速さだ。いつの間に?


「あ、え、もうすぐ来ると思うよ」


 ルーナを呼び止めようとしたが行ってしまった。待っていれば持って来てくれるだろうにせっかちさんだな。それにしてもこの岩、お高そう。


「これは高価なものではないかしら?」

「もらいも……あ、なんかお守りになるって」


 ちょっと今、貰い物って言わなかった?まさかの横流し?兄も困ったような笑みを浮かべている。


「フィーリア嬢、これは受け取れないよ」

「で、でも、私、手土産とか準備できなくて」


 ありゃ、フィーリアさんがしゅんとした様子で項垂れてしまった。兄がおろおろしていて面白い。


「一先ずこれは有り難く頂戴しよう。でも必要な時はすぐにお返しする。それでいいね」

「はい」


 フィーリアさんがにっこり笑顔を見せると兄もほっとしたようだ。

 とりあえず自室に保管しようと兄が部屋を出て、暫くするとルーナと使用人が戻ってきた。フィーリアさんが目を輝かせてルーナをみつめている。


「ルーナ様、私ずっとルーナ様とお話したいと思っていて」

「そう」

「アレス様からもルーナ様がとても可愛らしくて素敵な方だって聞きました」

「そう」

「実際にお会いして本当にそのとおりだなって」

「そう」

 心なしかルーナの対応が素っ気ないがフィーリアさんは全く気にしていないようだ。


「ルーナ様はお休みの日は何をしているんですか?リュシアさんみたいに刺繍をしたりしますか?」

「刺繍?」


 そう言いながらフィーリアさんは何かを取り出した。あ、それは。


「これ」

「その刺繍」


 彼女が取り出したのは私があげた刺繍入りのハンカチだった。


「これ、リュシアさんから貰ったんです」


 幸せそうな笑みを浮かべるフィーリアさんに対し、思っている以上にルーナが無表情だ。にこりともしない。


「姉は刺繍が得意ですから。姉の友人達も同じような物を持ってますわ」

「そうなんですね?じゃ、ルーナ様も手作りの刺繍入りハンカチを」


 あ、まずい。ルーナにはハンカチあげてない。今彼女に向けて作っているのは内緒にしておきたいし。ここは話題を変えなければ。


「あのさ、フィーリアさんはお休みの日は何をしているの?」

「うーん、今は大聖堂でみっちり勉強させられてます」


 なんだか遠い目をしているぞ。みっちりは辛いな。


「どんなことを学ばれてるの?」


 ルーナが興味を持ったようだ。


「今は力の……、魔法の使い方を復習してます。でもまだ慣れなくて」

「神官見習いよね?どんな魔法を習うのかしら」

「今はまだ基礎中の基礎ですよ」

「そう?例えば、守護の魔法を使ったりしないの?」

「そんなすごい魔法使えません!まだ火をつけるのがやっとなのに」

「ふーん、そう」


 確かこのゲーム序盤でヒロインちゃんの、聖女の力は弱いのだ。徐々に闇の力が強くなるとそれに合わせてヒロインちゃんの力も強くなっていく。

 だからだろうか、私の魔力もそんなに多くない。時々絶好調な時もあるけれど、日によってばらつきがある。


「でも、終わった後におやつを食べるのが楽しみです」

「わかる!おやつは外せないよね」


 思わず口を挟んでしまった。


「お姉様は甘いものが好きねえ」


 呆れたようにルーナが呟くと同時に控えめにドアがノックされる。


「お食事の準備が整いました」


「わあ、お昼ごはん!お腹空いちゃった。フィーリアさんもルーナも行きましょ」


 2人を促し、食堂へ向かう。


「今日は私が育てた薬草を使った料理にしたから楽しみにしていてね」

「リュシアさんが?とっても楽しみです」

「え?」

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