悪役令嬢と秘密の花園3
「深呼吸してごらん」
そう言われ、息をゆっくりと吸い込んでいく。そして吐き出した。
モヤモヤと溜まっていた全てを吐き出して、少しだけ心が軽くなったようなそんな気がする。
先生は満足そうに笑みを浮かべた。
「体はどう?動けそう?」
「はい。なんだか少し楽になりました。ありがとうございます、メルキュール先生」
「メル先生、って呼んでよ。ま、いいや。じゃ、付いてきて」
そう言われ、頭の中がハテナでいっぱいになる。油断大敵、まさかどこかへ連れて行かれてサクッと……されてしまうのでは?
「ほらほら、こっちこっち」
手招きするメル先生に抗えず仕方なく付いていく。するとさっき入ってきたのとは違う扉がある。
「どうぞ」
促されるまま通り抜けるとそこは外だった。学院の中のはずだが見たことのない場所だ。
暫く先生の後を歩くと石を積みあげて造られた壁が現れた。ところどころ崩れかけており、壁の内側が見える。中は何もない草だけが生えた空き地のようだ。
暫く壁沿いを進むと、先生はボロボロな木の扉の前で立ち止まった。
「さ、手を出して」
なんだろう。
恐る恐る手を差し出すと先生の手が触れたのかひやりとした感触と重みを感じた。そして手が離れる。
「鍵?」
のせられたのは鍵だった。
「どうぞ、開けてごらん」
扉を示され、言われるままに鍵をさす。カチリ、と音を立て、扉が開いた。
「え?」
きれいに整えられた芝生、所々に植えられた色とりどりの花々、まばらに植わった木々、そして座り心地の良さそうなベンチ。
扉を開けると庭園が現れた。
さっき外から見た時は何もない空き地だったのに。
「ささ、入って入って」
促されるままに扉の中に入ると、ポカポカ温かく心地よさそうな日差しが降り注ぐ。
「すごい……、魔法みたい」
「ようこそ、メル先生の秘密の花園へ」
大げさに両腕を広げ、おどけたように笑みを見せる先生に思わず吹き出してしまう。
「とっても綺麗なお庭ですね」
「うん。ここが必要な生徒たちにこの鍵を渡してるんだ。必要な時にいつでもおいで」
「ここへは図書館棟の奥にある扉からも来れるからねー」と先生は言い、私を置いて出ていく。
「メル先生、ありがとうございます」
先生は振り向かず、手だけひらひらさせると扉が独りでに閉まった。
それにしても不思議な空間だな。花の優しく甘い匂いがする。ちょっと散歩をしてからベンチに座り、腕と足を思い切り伸ばす。ほら、誰もいないからね。
空を見上げると雲がゆっくり流れていく。こんなに穏やかな気持ちになったのは久しぶりだ。
目を閉じて、もう一度ゆっくりと深呼吸をしてみる。うん、気持ちいい。
なんだかお腹も空いてきたな。夕食は沢山食べようっと。
この時はまだこの鍵のせいで大変なことが起きるとは思ってもみなかったのだ。
〜秘密の花園、はこれでおしまいです。
子どもの頃、秘密基地って憧れませんでしたか?そんな場所をイメージしてみました。タイトルはもちろん、バーネットの『秘密の花園』からです。




