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悪役令嬢は双子の妹を溺愛する  作者: ドンドコ丸
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悪役令嬢と秘密の花園2

 医務室は何故か図書館棟の中にある。一つ息を吐き、扉をノックすると気の抜けた様な男の人の声がした。


「どうぞー」

「失礼します」


 遠慮がちに扉を開ければ、ほのかに甘い匂いが鼻をくすぐる。そしてふわふわ宙に浮いたポットから手に持ったカップへ液体を注ぐ顔の良い男(攻略対象者)がいた。


「失礼しましたー」


 扉を勢いよく閉める。

 びっくりした。まさかこんなところに伏兵がいるとは。

 あの男はこのゲームの世界の攻略対象者の内でもレアなシークレットキャラクターだ。全てのエンディングをクリアしないと現れないヤツなのだ。


 ヒロインが彼のルートに進むと、ゆるふわイベントだけ楽しめ、不穏なイベントや面倒な事は何一つ起きない。そして悪役令嬢はサクッと断罪され、ヒロインは楽しく幸せな学院生活を送り、ハッピーエンドを迎えるのだ。


 サクッとヤられる前に帰りたい。おうちに帰りたい。しかしその願いは叶わず、扉の向こうから声がする。


「えー、なんで閉めるのー?」


 早く去らねばと足を動かそうとした。しかし急に体がふらつき、立っていられなくなる。頭が真っ白になり、ぐにゃりと景色が歪む。


「あ、ちょっと大丈夫ー?」


 意識を失う前にそんな声が聞こえた、気がした。



「あれ?」


 目を開くと天井があった、のは一瞬で、ずずいと男が顔を覗かせた。


「あ、気がついた?ムリして起きなくていいよ」


 どうやら医務室のベッドで寝ていいたようだ。しかしそんなことはどうでもいい、逃げるのだ、今すぐ!


「大丈夫です、お世話になりました」


 言葉とともに体を動かそうとするが、再び目眩がしベッドに倒れ込みそうになる。


「ほーら、大丈夫じゃないでしょ」


 そう言いながらも男は枕をクッション代わりにして上半身を起こしてくれた。手は使わず、魔法でふよふよと枕を動かしている。


「ベッドに運んだ時も触ってないよー」


 そう言いながら、これまたふわふわ浮かんだカップがやってきた。


「はい、どうぞ」


 カップの中身は自白剤か、はたまた、サクッと召される液体か。受け取りながらも、いい匂いのする液体をどうしたものかとみつめる。そんな私の姿を男はニコニコしながらみつめている。どうやら飲まないと解放して貰えないらしい。覚悟を決めて口をつけた。


「おいしい……」


 優しい甘みが口の中に広がっていく。蜂蜜入りの薬草茶(ハーブティー)だ。


「こっちもどうぞ」


 宙に浮かんだ小皿が近づいてくる。その上には焼き菓子が乗っている。

 食べ物が喉を通るか不安だったが、その芳ばしい匂いに思わず一口かぶりつく。優しい甘さの菓子が胃をじんわり満たしていく。

 なんだか泣きそうになり、涙をこらえ、お茶をまた一口飲み込んだ。体がポカポカと温かくなってきた。


「ありがとうございます。こんな美味しく感じたのは久しぶりです」

「そう?」


 にこっと男は笑みを浮かべると手を軽く振る。すると空になった皿とカップが重なり、そのままふわふわとどこかへ飛んでいってしまった。


「ごちそうさまでした」


 さて、そろそろお暇しようか。しかし男は浮かんでやってきた座り心地の良さそうな椅子に座り、にこにこした笑顔でこちらを見ている。


「あの……そろそろ」

「それにしても久しぶりだね」


 逃げようとするのを制するように男が声をかける。


 え?久しぶりって、どういうこと?今までこの人にあった記憶はないけど。

 入学式、1年目と思い返してみるが、医務室に来た記憶はない。誰だ?いや、誰かと私を勘違いしているのではなかろうか。


「えー、覚えてないの?悲しいな」


 こちらの怪訝そうな表情に気がついたのか、全然悲しそうでない口調で泣き真似をする姿に思わず吹き出してしまう。


「ま、あの時は君たち小さかったし」


 君たち?、私と誰のこと?

 そのまま男は言葉を続ける。


「ほら、昔そっくりな妹さんと泊まりに来たでしょ」


 そう言われ、思い出す。子どもの頃ここに来た時のことを。そしてこの男はもしかして。


「学院を案内してくれたお兄さん?」

「せいかーい。あの時学生だった僕でーす」

「えっと、お久しぶりです、先生」

「メルキュール、メル先生でいいよー」


 にっこり笑顔を浮かべるメルキュール先生は警戒すべき相手なのに懐かしくなる。その柔らかな物腰についつい問われるままに色々と話してしまう。


 学院生活のこと。昔は妹と間違われなかったのに最近よく間違われること。ルーナの王妃教育が始まり会えなくて寂しいこと。

 そしてヒロインちゃんにしでかしたこと、でも絶対に悪意はなかったこと……。


 沢山の話を先生は遮ることなく聞いてくれた。

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