悪役令嬢と秘密の花園1
お腹が痛い、体がだるい。おでこに手を当ててみるが熱はないようだ。ため息をつく。このところ、こんな日々が続いている。
あの懇親会の日以降、アレス様、イリスさん、そしてヴェネレさんからもこちらの様子を探るような、警戒心剥き出しの視線を感じる。ジェロームさんからは元々好意を向けられてないが、敵意ある視線を常に感じる。
その視線を感じる度にお腹がキリリと痛むのだ。
そしてもう一つ不思議なことがある。ルーナと間違えられることが多くなったのだ。以前は私と彼女を間違える人はいなかった。それなのによく間違えられる。例えば今まで話したことがない生徒から話しかけられる。そして私がルーナでないとわかるとがっかりした様子で去っていく。
きゅっと胃が締め付けられるような感覚がする。
あのルーナ大好きマルグリットさんからも間違われ、「私がルーナ様を間違えるなんてありえない!」とショックを受けていた。こちらも間違えられるなんて心外である。
せめて誰かとお喋りして気分を変えようと思うが、ルルディさんとソフィアさんはフィーリアさんのマナー教師を買って出て、アレス様達も一緒で近寄れない。
ロザリーさんとオレリアさんはこのところミラさんといることが増えてこちらにも会い辛い。二人だけは今までと変わらず接してくれるのが救いである。
ルーナは昼間はマルグリットさんがべったりで、放課後に週末も王妃教育でたまにしか会えないのだ。
せめて一人の時間を楽しもうと図書館で本を開いても内容が頭に入らない。あんなに楽しかった刺繍にも集中できない。授業の内容も頭に入ってこない。あ、これは通常仕様だ。食欲も湧かなくて、今朝も朝ごはんを取らなかった。
授業の始まりをぼーっと待っていると目の前に誰かがやって来た。
「お姉様、顔色が悪いわ」
見上げるとルーナがいた。心配そうに声をかけてくれる。そんなルーナも心なしか少しやつれているような気がする。
「昨日夜更かしちゃって。それよりルーナは疲れていない?王妃教育、頑張っていてえらいなぁ」
私と比べて完璧で、誰からも好かれて、愛されて、ルーナはすごい。またずきり、と胸が痛くなる。
「そんなに具合が悪いなら、医務室に行ったらどうですか」
ルーナのそばに寄ってきたマルグリットさんに皮肉るように言われ、首を横に振る。
「大丈夫、そこまでじゃないから」
「無理しないで、お姉様」
「ああ、もう。ルーナ様を煩わせないでくださいよ」
言葉が突き刺さる。
ほどなくして授業が始まった。
もし今隣国にいたら、こうじゃなかったのかな。選ばなかった未来を考えるのはやめよう。そう思いながらも授業に集中することもできず、ただ時間だけが過ぎて行った。
昼休みになり食堂へ向かう。大勢の生徒で賑わっているけど、どこに座ろう。見知った顔を探してみる。
ロザリーさんとオレリアさんはミラさんを真ん中にして何やら楽しそうな雰囲気だ。ミラさんには嫌われていそうだし、行き辛い。他の席を見れば、フィーリアさんとルルディさん、ソフィアさんがいる。そして同じテーブルにはアレス様達もいる。ここは駄目だ。
さてどこに座ろうか。いや、そもそもお腹が空いていない。お昼もいいや、図書館にでも行こう。それよりもお腹がまた傷んできた。いたたた……。
いつもならばすぐに治まるのに、今日に限ってよくならない。午後の授業の前に医務室に行ってみようかな。




