悪役令嬢と歓迎会1
「……唐揚げ、バーベキュー、串カツ、焼き鳥、食べたくなるなるチキン、マンモスのお肉……いや、これは違うな」
ブツブツ呟く私をルーナが怪訝そうな顔でみつめる。ダメだ、この世界になさそうなものしか思いつかない。
脳味噌を絞り上げながら考えているのはヒロインちゃんの歓迎会のメインディッシュだった。
放課後、寮に向かう私を呼び止めたのはマルグリットさんだ。
「ルーナ様?」
呼びかける声に振り返れば、彼女はあからさまに残念そうな顔をする。
「なんだリュシアさんか。ま、いいや」
またか。ここのところルーナと間違えられることが多くなった気がする。ひどい時は正面でもどちらかわからないようでいちいち名乗らないといけない。正直面倒くさい。
「なにか御用でしょうか?」
走ってきたのか息が荒いぞ。
「いいですよね、寮生活」
ぼそりと呟いた後、更に続ける。
「伝言です!今度あの庶民様の歓迎会をやるそうです」
「マルグリットさん、その言い方は」
慌てて止めようとしたが、彼女はニヤリと口の端を上げた。
「へーえ。なんだ、リュシアさんもあの子を庶民だと思ってるんだ」
「ち、違います。フィーリアさんは男爵家のご令嬢ですわ」
「私、一言もフィーリアさんのこととは言ってませんよ?」
ぐぬぬ。
「ま、どうでもいいですけど。王太子様のご提案で歓迎会をやるそうです。で、その時の献立を考えてください。リュシアさんはメインのお料理の担当になりましたから」
いつ?どこで?地球が何回廻った時?そもそもここは地球なのか?
突然のことに言葉を返せないが彼女は気にすることもなく続ける。
「くれぐれも!ルーナ様のお手を煩わせないでくださいね。あなたと違って忙しいんですから!」
そう言い放ち、彼女はずんずんと来た道を戻ってしまった。
「メインディッシュって何にすればいいの?」
残された私は途方に暮れるばかりだ。
そんな頼りない私が縋れるのはルーナだけなのだ。早速頼りになる妹に泣きつくことにした。
「ルーナ、何がいいと思う?」
「そうねえ、力が出るメニューがいいわ、きっと」
さすがルーナ!的確なアドバイスを返してくれる。力が出るといえば、お肉だー!!!
そして冒頭に戻る。
こうして私は肉料理を考えていたのだ。
あー、唐揚げにレモン絞って食べたーい!
ギャートルズのあのお肉、食べてみたいです。




