悪役令嬢は踏みつける4
「なんで私が移動しなきゃならないのよ!」
不満タラタラな声はマルグリットさんである。
1人生徒が増えれば多少の席替えはあるもので、1年目はルーナの隣だったマルグリットさんの横にはフィーリアさんが座っている。その横にはルーナ。そしてその隣の廊下側一番奥、安定の逃亡席は私である。今回ばかりはマルグリットさんに同意である。
頼むからフィーリアさん、近づかないでください。断罪の足音が聞こえてくるんです。
「大体神官見習いなら聖堂でおとなしくしてればいいでしょ」
おーい、マルグリットさん。その独り言、こちらまで聞こえてるよ。あ、フィーリアさんがシュンとした顔つきになったぞ。
「ご、ごめんなさい。でも、どうしても学院で勉強したくて……」
ほら、パパことジェロームさんが振り返って睨んでいるよ。
一方ルーナは我関せずといった感じである。マルグリットさんを諌めることも、フィーリアさんを庇うでもない。何やらじっと考え込んでいるようである。
そうこうしているうちに鐘が鳴り、教師がやって来る。そして改めて転入生フィーリアの説明が始まった。
「フィーリアです、じゃなくて、といいます。よろしくお願いします」
再びよろけそうになりながら挨拶する姿にクラスメイトの視線が集まる。ほとんど皆が彼女のほわんとした雰囲気に癒やされているようだ。
私には癒やし効果はなく、今にも浄化されそうだ。灰になりそうだよ。
初日は嬉しいことに授業はなく解放の鐘が鳴り響くと同時にほとんどの人が教室を飛び出していった。私はちらりと目当ての人物に視線を送る。この休み中楽しみに待っていたものがあるのだ。
すると教室の前からこちらに二人、ツカツカと向かってくる。ルルディさんにソフィアさんである。今年も放課後特訓の時間が始まってしまうのか。そう思いきや彼女が立ち止まったのはフィーリアさんの席の前だった。
あ、フィーリアさんがきょとんとしている。ルルディさんは気にする風でもなく彼女に語りかける。
「フィーリアさん、あなたは神官見習いとはいえ、貴族のご令嬢でしょう?」
「てへへ、一応、そうです」
「一応、ではありません。貴族の令嬢としてその話し方はよろしくないわ」
あ、フィーリアさんがしょぼんとしているぞ。
「私、お作法とか苦手で…………」
「いいこと?苦手なことでも継続すれば様になっていくものでしてよ」
「継続?」
「フィーリアさん、一に努力!二に努力、三、四に努力!五に努力!です!」
出たー!!!スパルタ教官!!!
その気迫に押されてフィーリアさんは何も言えないでいるようだ。
「フィーリアさん、お返事は?」
「はひぃ?!」
「返事は、はい!」
こうしてフィーリアさんは二人に捕獲されて行ってしまった。
頑張れー、フィーリアさん。
軽く手を振ってみせるとフィーリアさんは助けを求めるような視線を送ってきたが気づかないふりをする。所詮は他人事である。




