悪役令嬢は大わらわ5
試験が終わりほっとしたからか、普段は話をしたことがないクラスメイトとも会話が弾む。
同じテーブルについたマルセル君とヒューゴ君はご家族が王宮で働いているそうだ。
ヒューゴ君は陰険眼鏡、こと、うちの兄に興味があるようだ。眼鏡をかけている彼は、兄によく似た雰囲気である。でもその眼鏡は伊達で、憧れの人に近づきたいとまずは容姿から真似しているらしい。
「ぼ、僕は、ルーナさんとリュシアさんの兄君のようになりたいのです!」
こちらを見ながら熱く語るヒューゴ君に言いたい、憧れる相手は選んだ方がいいと!
「知的で冷静、どんな事も卒なくこなすと父から聞きました」
彼のお父さんも王宮勤務で我が父とも顔見知りらしい。大丈夫?無理難題持ちかけられてない?
「兄君はご自宅ではどんな様子なのですか?」
憧れの人のプライベートを知りたい、とキラキラ目を輝かせる彼に私は何も言えない。そっとルーナに助けを求める。
「兄は家族思い、ですわね」
ルーナが微笑みを浮かべ答えるとヒューゴ君はにっこり笑顔になった。
「仕事ができて、家族思い、やはりルーナ様の兄君は素敵な方ですね」
さすがルーナ、重度のシスコン(但し、ルーナに限る)をいい感じに言い換えたぞ。
その後も和気藹々と時間は過ぎていった。そして皆がおかわりの紅茶を飲み干した頃、楽しい時間はお開きとなった。
私は席を立った生徒達の中からフェルナン君を探し出し、声をかける。以前頼んだことを改めてお願いする為だ。そんな私の申し出にフェルナン君は戸惑っているようだ。
「でも本当にいいの?リュシアさんの初めての報酬なのに」
「ええ、勿論よ」
この世界で初めて得たお小遣い、刺繍の報酬で買うものはもう決めていた。
「リュシアさんになら無償で提供するよ」
「それは駄目!フェルナンさんの家の商品なのだから、ちゃんと買わせて」
「わかった。じゃあ休み明けに見本を持ってくるからね」
「宜しくお願いします。楽しみにしていますわ」
彼が持ってきてくれる見本から一番良いものを選びたい。予算が許す限り、だけど。
「お姉様、馬車が来てしまうわ」
いつの間にか傍にいたルーナに声をかけられる。私は後ろ髪を引かれながらもフェルナン君へ別れの挨拶をする。
「良い休暇を過ごしてくださいね」
「リュシアさんも良い休暇を!」
小さく手を振り、彼を見送った。それから仲の良い皆にも挨拶を済ませる。そしてルーナと共に馬車待ち場へ向かった。
これから長い休みが始まる。
そして次に皆に会う時、私達は2年生になるのだ。




