祭りの日1
今後タイトルに「悪役令嬢」とないものは主人公リュシアがいない場面での話になります。
王宮の広大な庭園の一角にある少し古ぼけた小屋。少し前まで庭師の為の用具が保管されていた場所だ。庭師の小屋は新しくなったがその粗末な造りの小屋は取り壊されることなく残っている。
中に入ると外観とは異なり塵一つなく整頓されている。そんな小屋の中に二人はいた。
「本当にサボってしまいましたね」
気まずい様子で少年が呟いた。
「勉強も大事だけど市井のことを知るのも必要だろう?」
もっともらしい理由を述べながら着ていた学院の制服を脱ぐのは金髪の少年だ。この国の王太子アレスである。
隣で同じように服を着替える少年は彼の幼馴染イリスである。二人は少し裕福な庶民が着ているような服に着替えると小屋の裏口から外に出た。
本来ならば彼らは学院で授業を受けている時間である。
「一度祭りに行ってみたかったんだよな」
やっぱり遊びに行きたかっただけじゃないか、とイリスは思ったが口には出さない。
祭りに行ってみたかったのはイリスも同じである。王宮の堅苦しい儀式ではなく、町の人々が楽しみにしている祭りというものをこの目で見て楽しみたかった。
小屋の裏口を出て暫く歩くと金属製の門に行き当たる。その柱の内一つを手でしっかりと握る。そしてぐるりと撚り、それを持ち上げる。少し重いが二人の力を合わせればできないことはない。こうすると人が通れる隙間ができるのだ。二人は隙間から順番に通ると柱を元通りにする。
こんな方法を使い少年達は何度か街へ繰り出していた。王太子曰く、市井の人々の暮らしを学ぶ為、その実、遊びに行くため、である。
今まで何度かこのやり方をしているがバレたことはない。幸い儀式の準備も滞りなくでき、あとは週末の本番を待つばかりである。
それならば少しくらい羽を伸ばしてもいいはずだ。
青空を見上げアレスは思った。今日は良い一日になるだろう、と。




