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悪役令嬢は双子の妹を溺愛する  作者: ドンドコ丸
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悪役令嬢の魔女疑惑4

「お姉様!」


 扉が開く音と同時に聞き覚えのある声が響いた。ジェロームさんが不思議そうに振り返る。


「おや、鍵をかけたと思ったのですが」


 チャーンス!私はその隙に窓側の隅の方に素早く移動する。

 扉の方を見れば声の主、ルーナが入ってきたのが見えた。彼女だけでなく後ろに何人かいるようだ。


「ルーナ様、危ないですから近づかないでください」

 ジェロームさんが静止しようと呼び止めるが、ルーナは構わず私の方に近づこうとする。彼は腕を伸ばし遠ざけようとしたが、その腕をするりとすり抜け、ルーナは私を庇うかのようにジェロームさんの前に立ち塞がった。

 

 頼もしい!かっこいい!お姉ちゃん、ちょっと泣いちゃいそうだよ。


「ジェロームさん、姉をどうするつもりだったのです?」


 ルーナは冷たい口調でジェロームに問いかける。ツカツカとこちらに近づいてきたジェロームさんは私をちらりと一瞥し、それからルーナを真っ直ぐに見つめた。そして彼は悪びれることなく答える。


「ルーナ様、その者は闇の存在です。浄化をしますから離れてください」

 やっぱりジェロームさん、私のことをヤる気満々である。

「……闇の存在?」

 小さく呟くとルーナは一度私の方をちらりと振り返る。その顔は無表情だ。そしてジェロームさんの方へ顔を向ける。彼はルーナを説得しようと言葉を続ける。


「その者は未来の王妃であるあなたに害をなす存在です。離れてください」

「何を根拠にそんなことをおっしゃるのです?」

「今までのあの者の動向を見れば明らかでしょう」


 ジェロームさんは先程私を追いつめた内容をルーナに淡々と説明し始めた。もしルーナがジェロームさんを信じて私を差し出してしまったらどうしよう。少し心臓がドキドキしてきた。成敗ってやはり断罪的なアレな感じなのだろうか。幽閉されてアレがアレな感じなのだろうか。

 あ、ジェロームさんが黙ったぞ。


「あなたがおっしゃったことは全てただの偶然、ただの事故とも言えますわ」

 私の不安とは裏腹にルーナは冷静な口調で言葉を返す。するとジェロームさんが冷たい笑みを浮かべ反論する。


「あの者が幼い頃のあなたに呪いをかけたと知っても庇うのですか」

「呪いをかける?何を根拠にそんなことを」


 そうそう。私、魔力もなかったし、ましてや呪いなんてかける能力ないですよ。何より可愛い妹のルーナにそんなことゼッタイしませんからね!!!


「刺繍ですよ」

「刺繍?」


 はて、刺繍がどうかしたのだろうか。私のハンカチが素晴らしすぎるからといっていちゃもんはやめていただきたい!もちろん自画自賛である。


「あなたの寝間着に怪しい文様の刺繍を施した、と」

「何の話でしょうか」

「昨日の昼にそんな話をされていたでしょう。王太子様が教えてくれましたよ」

「あの刺繍のことを……」

 ルーナはぽつりと呟くと入り口で様子を伺う一行へ顔を向ける。私もつられて視線を向ける。あ、アレス様がいる。イリスさんとマルグリットさんもいる。うん、私の味方になりそうな人はいない。


 ジェロームさんはあの背守りの刺繍のことを話しているのか。でもあれはルーナのことを思って一針一針思いを込めた刺繍である。


「呪術を施した刺繍で呪いをかけていたのです、あなたに」


 勝ち誇ったような表情でジェロームさんは告げた。


 と、その瞬間。空気が凍った。


 正確には凍っていないのかもしれない。しかし小屋の中が一瞬で冷気に包まれた。


「あれはそんなものではない」


 そして微かに聞こえた冷たい声はやけに低い声だと思った。けれども次の瞬間私の耳には聞き覚えのあるルーナの声が飛び込んだ。


「あれはそんなものではありませんわ」


 しっかりした口調でルーナはジェロームさんの言葉を否定した。小屋の温度もあの寒さが嘘のように元に戻っている。


 怒気を込められたその声色にジェロームさんがびくりと肩を震わせた。彼は反論しようと口を開きかけたが、それより前にルーナが言葉を続ける。


「あの寝間着の刺繍は姉が私のことを思って縫ってくれたものです。断じて呪いなどではありません」


 不思議な模様ですけどね、と告げた最後の言葉は柔らかい口調に戻っていた。


「ルーナ様が強くおっしゃるのでしたら、そういうことにしておきましょう」

 ジェロームさんはまだ不服そうである。ぎゃっ!今すんごい表情で睨まれたぞ。


「おわかり頂けたようでよかったですわ」


 私はルーナの言葉にほうと安堵の息を吐き出した。しかし彼の次の言葉に再び身を固まらせる。


「そうですね。これから学院の聖堂へその者を連れて行き、本当に闇の存在ではないと聖女様に誓って貰いましょう」


 せせせせせ聖堂ですか?入った瞬間に私、消えちゃうんじゃないですか?

 絶対に表情には出ないように気をつけつつ、私は終わりの時が来たことを悟った。

 さよなら、短い第二の人生。ルーナの花嫁姿を見られないことがお姉ちゃんの心残りだよ。

 

「ジェロームさん、祈りは一人静かに捧げるものですわ」


 ルーナはジェロームさんの両手を取り、優しい声色でそう告げた。ジェロームさんの視線はルーナに釘付けのようだ。

 いいぞ、ルーナ!ナイスフォローだ!聖女様だって私が聖堂に入るのイヤだと思うのよね。


「ルーナ様のおっしゃるとおりですね」


 どこか熱に浮かされたような表情で納得すると、ジェロームさんはアレス様達のいる入り口の方へふらふらと向かっていった。

 遠目でよく見えないがアレス様達が訝しげにこちらにちらちらと視線を送ってくるのがわかる。絶対に私のことを怪しんでいる。


 しかしとりあえずは一件落着のようだ。私は扉が閉まったのを確認してから盛大にため息をついたのだった。

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