悪役令嬢の魔女疑惑2
午前の授業はつつがなく終わった。
今日のお昼はオレリアさんと二人きりである。ロザリーさんはあのミラさんと一緒なのだ。
授業後は特に諍いはなかったが、ミラさん、マルグリットさんは視線を合わせるや否や互いにそっぽを向いていた。ちなみにミラさんは私の顔を見ても顔を横に向けてしまった。
オレリアさんの話では、なんでも等しく平等に貴族が嫌いなようだ。例外はロザリーさんで、彼女とは学院に入学してすぐに仲良くなったそうだ。ちなみにオレリアさんとは普通に会話してくれるらしい。私ももう教室を燃やさないので仲良くしてくれないかな?
食後、私は中庭のベンチで一人ぼーっとしていた。ミラさんのこと、マルグリットさんのことが頭に浮かんでは消えていく。そして次に来るのは眠気である。
だが私の眠気を遮るように誰かの足音がこちらへ向かってくるのが聞こえた。
フェルナン君達かな?
私は頬を手のひらで軽く叩き、眠気を追い払った。大口開いてあくびしたらまずいものね。
近づいて来たのはフェルナン君ではなく、一人の男子だった。クラスメイトの一人だが、話したことはない。えっと、誰だっけ?
「こんなところにいらしたんですね?」
にこやかに話しかけてくる男子を私は見上げた。
「ええと?」
「ジェロームと申します。大聖堂の、と言えばわかりますか?」
そう言われ、思い出す。ジェロームさんは大聖堂長の子息で幼い頃から神官見習いとしても活躍しているのだ。その名前だけは父や兄から聞いたことがある。
私が立ち上がり無言で頷くと、彼は満足げに微笑んだ。
大聖堂、神官というその単語に、なんだかとてもイヤな予感がする。
彼は微笑みを崩さないまま、ずいっと顔をこちらへ近づけた。
「あなたには聞きたいことがあるのですよ、リュシアさん」
「聞きたいこと?」
私はお話しすることないのですけどー。
しかし彼は笑みを浮かべながらも、その視線だけはこちらを突き刺さんばかりに外さない。
「ここではなんですから、場所を移しましょうか」
どどど、どこかに連れて行かれてしまうの、私?
「ここでは駄目でしょうか」
中庭ならば人目があるから何かあっても助けて貰えるかもしれない。そう訴えてみるが、彼はにこやかな表情のまま私の耳元へ顔を近づけた。
「あなたの為にも人目に付かない場所がいいと思いますよ?」
小声で囁かれたその言葉、それ、絶対に私の為じゃないですよねー?
そう思ったものの、彼の有無を言わせぬ様子に私はついていくしかなかったのだ。
まるで売られていく仔牛である。ドナドナドナー。




