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悪役令嬢は双子の妹を溺愛する  作者: ドンドコ丸
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悪役令嬢と週末の出来事

 ルーナと隣り合い、馬車に揺られている。心地よい揺れに体から力が抜けていく。長く感じた学院生活一週目がようやく終わった。私たちは久しぶりに屋敷に帰るのだ。


 私は隣で澄ました顔をしているルーナに話しかけた。

「ルーナは放課後何をしていたの?」

「今日は図書館で本を読んでいたわ。お姉様は?」

 私は今日も今日とてルルディ教官にしごかれていた。来週も特訓は続くらしい。

「私はお友達と授業の復習をしていたの」

「お姉様は真面目なのね」

 そう言うと、私の両頬を両手で包むとおでこにキスをしてくれた。いつもは寝る前にしてくれるのに、頑張ったご褒美ですか?よーし、来週も頑張るぞー、ほどよくね。


 馬車が門をくぐると、屋敷の入り口の前に誰かが立っている。あ、陰険眼鏡お兄様ではありませんか。

 馬車が止まりルーナが降りると同時に兄が小走りに駆け寄ってきた。


「ああ、ルーナ、可愛いルーナ、お帰りなさい。会いたかったよ。学院はどうだったかい?お兄ちゃまは寂しかったよ。授業はどうだい?ルーナはできる子だから、活躍しているのじゃないかな。ああでも頑張りやさんだからな。疲れていないかい?何か困ったことはないかな。もし何かあればお兄ちゃまに言うのだよ、全力で解決するからね」


 最後の「全力で解決」と言った瞬間眼鏡がキラリンと光ったよ。あれだけの言葉を噛まずに一気にまくし立てると、兄はルーナを抱き締めようと腕を大きく広げた。

「もうお兄様ったら、大げさ過ぎよ」

 ルーナはそう言いながら、さりげなく兄の腕から逃れる。我が兄ながらやばいな。愛が重い、重過ぎる。


 屋敷に入ると母や使用人達も嬉しそうにルーナを迎えた。父はまだ帰ってきていないのだろう。私は皆の邪魔にならないようそっと部屋に向かった。


 荷物を片づけながら、フェルナン君から貰った刺繍糸のことを思い出した。そして裁縫道具と白い無地のハンカチを3枚を取り出す。ロザリーさんとオレリアさん、そして私、三人お揃いの柄のハンカチを作るのだ。

 フェルナン君がくれた刺繍は色とりどりで綺麗だ。私は夕食の時間まで夢中になって刺繍に打ち込んだ。



 夕食を食べ終え、私は一つため息を吐く。気が進まない。しかしやらねばならないことがある。


 屋敷のとある部屋に向かい、扉をノックした。


「誰だ?」

「リュシアです。お兄様、お話があります」


 兄の部屋に通された私は勧められるままに椅子に腰掛けた。うう、陰険眼鏡と二人きりとか気が重すぎる。


「それで話とは」

 執務机に向かったまま、怪訝そうな顔で私の顔をみつめる兄が口を開いた。


「我が学院のクラスメイトのことです。この国の貴族の子女数を考えると入学者が少ないのではと思いまして」

「ああ、今年は学院に通わず、家庭教師を雇い自宅で魔力を磨く者が多いと聞く。あと隣国に留学した者も例年より多くいるようだな」

 それがどうかしたか、と言わんばかりの表情だ。こちらが向ける視線に目を反らすこともなく、白々しく答える。


 学院初日にソフィアさんが言っていたことがずっと気になっていたのだ。間違いなく、原因はこいつだと思う。

 ふん、そんな顔を取り繕っても無駄だ。おまえの悪事はお見通しなのだよ!さあ、吐くんだ、妹可愛さにライバルになりうる娘を持つ貴族に圧力をかけ、前途有望な若者達を隣国送りにしたことを。カツ丼食べるか?お袋さんが泣いてるぞ?

 いかん、真面目にやらなければ。一度冷静になろう。


「何でも我が家がその事に関わっている、なんて話を聞きましたのですが」

「どういうことだ?」

 私が語気を強めて詰め寄ると、兄は心底不思議だ、というような表情をした。しらばくれおって。


「王太子様に今以上の婚約者候補が現れないように我が家が圧力をかけている、なんて話を聞いたのですが」

 私は椅子から立ち上がり兄の目の前に立ち言い放った。


「ふむ、そんな手があったか」

 ん?小声だが、今何か聞こえたぞ。兄は何も言っていませんよ、といった顔を取り繕うと口を開いた。


「いくら可愛い妹の為とはいえ、この国の将来に関わることだから、そんなことは絶対にしないよ。優秀な人材が隣国に流れてしまうのは惜しいからね」

「そうでしょうか」

 本当に?私が疑いの目を向けると、兄は真っ直ぐな目で見返した。


「それに王太子様にルーナより相応しい方がいるならばそれは仕方がないことだ。ま、アレス様にルーナはもったいなさ過ぎるからな」

 そこは全く同意見である。可愛いルーナに合う奴なんて存在するのだろうか。兄は未だに何やらぼそぼそ呟いている。


「そうだな。今からいい感じの女子を学院に転入させて、アレス様の気を惹かせるか。ルーナのことはさっさとあきらめて貰って……」

 ちょっと、ちょっと、おにーさまー、何か心の声がダダ漏れになっていますよー。眼鏡がキラララーンと光っていて怖い。あれは凶兆の印なのだろうか。


 私は一つ咳払いをすると、話題を変えることにした。

「お兄様、隣国への留学が増えたということは何か新しい技術が生まれたとかそう言う理由でしょうか」

「いや、そう言う情報は入ってきていないぞ」

 私の問いかけに兄は眼鏡をくいっとかけ直してから答えた。

 うーん、では何で隣国への留学が増えたのだろう。気になる。珍しい薬草でも生えたのかしら。


「それより、リュシア。ルーナは学院でどうだ?元気にやっているか?お友達はできたか?変な虫は付いていないか?王太子様とはちゃんと節度を保った清い交際をしているか?」


 兄が眼鏡をキラキラさせながら身を乗り出して質問を始める。私はそんな彼から徐々に距離を取ると、一目散に部屋に逃げたのだった。

 重い、愛が重いよ。

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