悪役令嬢と恋する乙女?
魔力を使い、疲れ果てた私は中庭のベンチに腰掛けた。両隣にルルディさんとソフィアさんも座っている。
ん?なんかルルディさんがそわそわしているぞ。
「私、あなたに聞きたいことがあるの」
少し顔を赤くして、ルルディさんが言った。
「聞きたいこと?」
なんでしょう。私にわかることかな。
「お……王太子様の、アレス様のこと」
顔をぽっと赤らめるルルディさんはまるで恋する乙女のようだった。しかーし!王太子様は可愛いルーナの婚約者である!この恋路、全力で阻止せねば。
「ルルディさん?」
口から出た声音は思いの外冷たいものになった。ルーナを泣かせる者は何人たりとも許さないのだ。いざ、牽制じゃ!
「ち、ちがうのです」
ルルディさんが首をブンブンと横に振り、否定する。
「何が違うのです?」
私が冷たく問いかけると、ルルディさんは一瞬寂しそうな表情をした。しかしすぐに落ち着いた顔つきに戻ると、ぽそりと呟いた。
「私の家とは絶対に結ばれることはないですから」
そんなやり取りを聞いていたソフィアさんが口を挟む。
「ルルディの家は代々王宮の典礼を担っているの」
典礼省、それは王宮で行う儀式を取り仕切る場所のことだ。宗教儀式や婚礼儀式を執り行うところだと聞いたことがある。
「典礼省は王族の婚姻にも深く関わるから。だから王族と彼女の家が結ばれることはありません」
組織のパワーバランスというやつだろうか。
「でも、それでも、結ばれることはないとわかっていても。憧れる位は許されますでしょ」
ルルディさんが小さな声で呟いた。
「ルルディも私も王太子様とイリス様のファンなの」
ソフィアさんも顔を赤らめてそんなことを告白した。
その後二人から幼い頃のアレス様の話を聞きたいとせがまれた。
幼い頃の王太子様?それって野生児だった頃?でも私が王太子様と会ったのはたった数回だからな。
「王太子様のことはルーナの方がよく知っている筈だわ」
だって私は彼のことを何も知らない。
知っていることと言えば、ルーナのことが大好きで、ちょっと考え足らずな発言をして、授業中居眠りして、私に冷たい視線を向け、やがては断罪する気満々であろう、ということだけだ。おお、怖い。
そんな私の言葉にルルディさんが懐かしそうに目を細めた。
「私、ルーナさんと子どもの頃にお会いしたことがあるわ」
「ああ、喧嘩したのだっけ?」
ソフィアさんがおかしそうに笑った。
喧嘩?ルーナとルルディさんが?
それはこんな話だった。
まだ幼いルーナが王宮の中をふらふら歩いていたそうだ。後ろを追いかけるのはイリスさんだ。その日はたまたまルルディさんも王宮に来ていたという。そこで偶然ルーナ達を見かけたのだという。
ルーナは興味を持った部屋に手当たり次第に入っていき、イリスさんが慌ててそれを止めようとしていたらしい。
ルーナが次に入りたがったのは王宮の機密文書が保管されている部屋だったそうだ。勿論文書に興味があったわけではないだろう。
イリスさんはそこが入ってはいけない場所であることはわかっていて、ルーナを必死に止めたのだという。しかし止められるほど意固地になってしまったのだろう。ルーナは絶対に入りたいと駄々をこね始めたそうだ。
そんな一部始終を見ていたルルディさんはルーナの元へ向かい「聞き分けのないことはおよしなさい!」、と一喝したそうだ。ルーナはそんなルルディさんに何やら言い返し、その後は売り言葉に買い言葉、喧嘩になったらしい。
「小さい時の話よ。それに今考えるとあの部屋には鍵をかけていたと思うし」
ルルディさんが恥ずかしそうに顔を背けた。
「その時にイリス様が仲裁してくれて嬉しかったんですって」
ソフィアさんが面白そうな顔をする。
ほへー、そんな過去があったとは。
ルルディさんがほおとため息をついた。
「王太子様ももうすぐ儀式があるからお忙しいでしょ。学院も始まったばかりで大変なのに」
「儀式?」
「大聖堂で聖なる光の儀式をするでしょ」
ああ、あの儀式のことか。
聖なる光の儀式、それは王族と神官が行うもので、聖女様を讃え、感謝を伝える宗教儀式だ。大聖堂で1日がかりで行われるもので、私の父も勿論参列する。
「王太子様としての仕事がいよいよ始まるのよ」
ルルディさんがうっとりとした顔をした。
何でもこの儀式はアレス様が王太子として参加する初の公式行事になるそうだ。彼は早朝から学院が始まるまで、執務をこなし、帰宅してからも夜遅くまで儀式に向けて準備をしているのだという。
だから授業中眠そうだったのか。王族は大変だな。
いつの間にか中庭に夕日が射し込んでいる。
何か王太子様の素敵な話を思い出したら聞かせて、とルルディさんとソフィアさんに口々に言われ、私たちは中庭を後にした。




