悪役令嬢と朝の出来事
昨日燃やしかけた身で、教室へ入るのは躊躇してしまう。けれどルーナに手を引かれ今日も授業に向かうのだ。サボりたい。行きたくない。クラスメイト怖い。それでも教室に入る。
「あ!リュシアちゃん、おはよう」
既に来ていたロザリーさんが昨日と変わらない様子で声をかけてくれた。う、嬉しいぞ。
「おはよう、ロザリーさん」
せっかくなのでルーナを紹介しようと思ったが、彼女は気がついたらマルグリットさんのところにいた。さっきまでロザリーさんの隣にいた女子も私が近づくとそそくさと去っていった。
「昨日は驚かせてしまってごめんなさい」
「あはは、びっくりしたけど面白かったよ。姉妹仲良しなんだね」
あ、キスしてるところ、見られていたんだっけ。
「あ、あれは挨拶のようなもので」
「ふふ。私もリュシアちゃんとぎゅーってしたいな」
え、どうしよう。私もロザリーさんにぎゅー、されたい。あ、また心臓がドキドキしちゃう。
「お姉様ついてきてくださる?」
顔を赤くする私の後ろから冷たい声が聞こえた。あれ?ルーナ、ご機嫌斜めなの?ロザリーさんは面白い物を見た、というような表情をして、私にまたね、と手を振った。
「フェルナンさんに謝りたいけれど、一人だと心細いからお姉様に付いてきてほしいの」
間違いに気がつき謝る勇気、えらいぞルーナ。付いていく位お安い御用ですよ。
フェルナン君は教室の前方でヴェネレさんや他の生徒達と一緒にいる。クラスメイト怖い。あ、ちょっと私の勇気が出ないよ、ルーナ。
私の思いとは裏腹にルーナに手を引っ張られ前方に連れていかれた。仕方なく集団の中のフェルナン君に小さな声で話しかける。
「フェルナンさん、皆さんと話している時にごめんなさい。少しいいかしら」
ルーナは私の背中に隠れて、様子を窺っているようだ。
「……小動物系妹、尊い」
なんか聞こえたぞ。
「あ、ルミナス様の妹君だ」
ぬ?陰険眼鏡を知ってる奴がいる?わあ、この子兄そっくりだ。眼鏡かけているところが。
「どうしたの?リュシアさん」
フェルナン君は私の方を向くと屈託のない笑顔を見せてくれた。しかし後ろにいるルーナに気がつき、すぐに怪訝そうな表情を浮かべる。
「ルーナがあなたに話したいことがあるのですって」
フェルナン君は警戒した顔つきのままだが、頷いてくれた。
教室の隅でルーナとフェルナン君が向かい合う。私は間に立ってその様子を見守ることにした。
「ルーナ、フェルナンさんに伝えたいことがあるのでしょ」
こっくりと頷いたルーナが口を開く。
「フェルナンさん、私、この前はなんてことを」
目をうるうると潤ませて、ルーナはフェルナン君の手を取り、上目遣いに見上げる。フェルナン君は困った様子だ。
「こんなルーナを許して頂けるかしら?」
ぽろりと片目から涙を零し、許しを乞う。そんなルーナを見てフェルナン君は慌てている。
「許します、許しますから、どうか泣かないでください」
「本当に、許してくださる?」
フェルナン君は困ったような顔で何度も頷いた。これにて一件落着、なのだろうか?
ルーナはにっこりと微笑み、「フェルナンさんっていい方だわ」と彼の手をぎゅっと握りしめている。
あ、ちょっと、ルーナ!王太子アレス様がこっちを見ているぞ。フェルナン君をとても羨ましそうに見ているぞ。
アレス様が席を立ってこちらに来ようとした時、授業開始の鐘が鳴った。




