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悪役令嬢は双子の妹を溺愛する  作者: ドンドコ丸
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悪役令嬢と初日の終わり

「皆さん、お昼ご飯は楽しまれましたか?」


 明るく問いかける教師に誰も答えない。私は隣のルーナをちらりと見る。さっきまで泣いていたのが嘘のように平然とした顔をしている。

 ルーナの前の席にはフェルナン君がいた。その左隣にはヴェネレさんがいる。少し心強い。


 私はほうと息を吐いた。

 王太子様やイリスさん、それにクラスメイト達、皆が私を責めるような目をしていた。てっきり私が断罪されるのは学院の卒業パーティーの時だと思っていたが、この調子だともっと早くにその時は来てしまうかもしれない。

 いや、そんなことよりも。どうしてルーナはフェルナン君にあんなことを言ったのだろう。これが価値観の違いというやつか。ルーナにわかって貰えないことがもどかしい。


 午後は教科書の配布と各授業の説明があった。教科書は大きく分厚く重い物で、ハードカバーの本のようだ。馬車で移動とはいえ、こんなものを数冊抱えて通学するのは大変そう。私も寮までこれを抱えて歩くのは難儀しそうだ。


 そんなあなたに!

 今日は魔法学院ならでは、の教科書転移システムのご案内です。

 まず皆さんの机の天板部分を開きます。そして中の収納部分に教科書を置きます。どーんと本が積み重なったままで大丈夫ですよ。

 あとは天板の裏部分に描かれた魔法陣の頂点から右回りに外周円を指でなぞるだけ!

 あっという間に教科書が転移します。

 通学する皆さんは学院内に停めた馬車まで、寮の皆さんは部屋の本棚へ、簡単に転移できます。

 これでどんなに重い荷物でも持ち運びに困りません。


 わー、どういう仕組みかわからないけど、便利ー。ぜひ広大な敷地内のあちこちに人間転移システムを設置してほしい。なんなら寮から教室にシュパッと移動させてほしいのだが。


 ちなみに寮の本棚にも魔法陣が描かれていて、同じ要領で寮から教室まで転移できるそうだ。


 配布された教科書を私はさっそく寮の本棚に転移させてみた。たくさん積み重なった本が一瞬で消えてしまった。ちゃんと本棚に転移しているのだろうか。部屋に行くのが楽しみだ。


 誰にも話を遮られることなく説明を終えた教師が満足そうな顔をした。そしてニコニコした顔でこんな提案をしたのだ。

「まだ時間はありますね。では残りの時間でせっかくなので皆に自己紹介して貰いましょう」

 ほへ、自己紹介とな。この世界でもそんなことをするのか。どうせやるなら入学式が終わった直後にお願いしたかった。正直今はクラスメイトの視線が恐ろしい。

「ではまず窓際の一番前のあなたから」

 先生、その順番だともしかして私、一番最後ですかーーー。目立ちたくない!ちょっと、頭が腹痛なので帰りたいのですが。隣国の学院が私の居場所な気がするので、今からでも帰りたいのですが!


 私の願いは虚しく、あれよあれよと進んでいき、ついには私の前の席の男子の自己紹介が終わってしまった。

 私は椅子から立ち上がる。皆がこちらを見ている。うう、緊張する。

 幸い私の席の近くにフェルナン君とヴェネレさんがいる。私は彼らの目だけ見て話すことにした。あとはみんな背景だ、何も見えない、誰もいないんだ、あれはカカシだ!

「リュシアと申します。薬草学に興味があり、家でも少し育てています。好きなことは刺繍です」

 それだけ小声で話すと急いで席についた。

「リュシアさん、ありがとうございました。では今日はこれでおしまいにしましょう。明日は皆さんの魔力の確認と基礎魔法の復習をしましょう」

 教師はそう言うと教室を出ていこうとする。

 よーし!その一瞬を逃さない!

 私は静かに椅子から立ち上がると教室の後ろの扉から誰にも気づかれないようそっと出る。

 フェルナン君とヴェネレさん以外のクラスメイト達に何か言われたらと怖かったのだ。それに寮の部屋を早く見に行きたいし。


 教室前方から出てきた教師がそれより早くに廊下にいた私の姿に驚いていたが、私は気にせず階段を降りた。

 階段を走らず、しかし急いで降りて学習棟を出た。脇目も振らず女子寮を目指す。途中薬草畑が目に入ったが、今日は寄る気になれなかった。


 女子寮に着き、3階に向かう。部屋番号を確認し、急いで中に入った。

 部屋に入り、まずは本棚を見てみると教室から送られた教科書が並んでいる!転移システム便利だわー。

 屋敷からの荷物も届いていた。服をクローゼットに入れたり、机に本やノートを置いたりと細々した片付けをする。

 部屋を住心地のよい環境に整え終え、一つ伸びをした。それから行儀は悪いが制服のままベッドに仰向けに寝転ぶ。ふほー、ゴロゴロ最高!初日だというのに、なんだか色々あり過ぎて疲れてしまった。

 そして少しだけ休むつもりで目を閉じた。


 あれ?あれあれ?

 がばりと身を起こして、窓の外を見れば、いつの間にか暗くなっている。今何時だろう。私は部屋のドアを少しだけ開いた。すると廊下の灯りは消え、真っ暗だった。

 おおう、就寝時間になってしまったのか。夕食を食べ逃してしまった。悲しい。


 ご飯を食べたいが、建物から出られないので朝までお預けだ。仕方ない。

 私は制服を脱いで寝間着に着替えることにした。この制服は前開きに作られている。普段は使用人に身支度を整えて貰う貴族達でも一人で着替えられるように作られているのだ。まあ前世の洋服と同じような作りということだ。


 ルーナはちゃんと自分で着替えられただろうか。いや、そつのない彼女なら問題はないだろう。あ、でも明日の朝リボンを結べるだろうか。夕食はちゃんと食べたかな。夜もお肉にしたのかな。そういえばこんな姉妹喧嘩みたいなこと、初めてだな。頭の中に色々と浮かんでは消えていく。


 ベッドに潜り込み、なるべく何も考えないようにする。

 そういえば一人で夜を過ごすのは初めてだ。さすがに大きくなってベッドは別々な物になったけれど、私とルーナはずっと一緒の部屋で眠っていた。

 いつも隣にいる存在がいない。それが気になって私はなかなか寝つけなかった。

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